2014年03月10日 (月曜日)
毎日新聞・蛍ヶ池販売所、搬入された新聞の70%が「押し紙」、裏付け資料6年分を全面公開
新聞に対する軽減税率の導入をめぐり賛否両論が広がっている。わたし自身は、消費税率のアップそのものを中止するべきだという考えである。したがって、この問題は議論するに値しない。あえていえば適用に反対だ。理由としては、次の点があげられる。
新聞業界が公称部数を偽っている事実(「押し紙」問題)がある。
読売が、裁判により七つ森書館等に対して裁判攻勢をかけている事実がある。 言論機関として恥ずべき行為である。
新聞業界から政界へ政治献金を支出している。
紙の新聞が必需品ではなくなっている。
販売店に公的な支援をほどこすのであれば、むしろ公取委などに介入してもらい、「押し紙(新聞の偽装部数)」を全面禁止する方が、経営改善につながる。
◇「押し紙」の検証を避けて新聞の再生はありえない
新聞に対する軽減税率について考える大前提として、新聞社経営の実態を検証しなければならない。その際に、避けて通ることができない最大の問題が、「押し紙」問題である。公称部数を偽っている問題である。これをタブー視すると、新聞社経営の客観的な実態がみえなくなる。
わたしがこれまで取材した「押し紙」のケースで、最も多量の「押し紙」を負担していたのは、毎日新聞豊中販売所と蛍池販売所(いずれも大阪府)である。これら2店では、2007年6月の廃業時で、搬入される新聞の約70%が「押し紙」だった。信じがたい数字であるが、公式の記録が残っているので公開しよう。
これら2店を経営していたのは、高屋肇氏(故人)である。
高屋氏は、2007年に現役を退いた後、自店における「押し紙」の実態を公表した。それによると退職した2007年6月時点における「押し紙」(偽装部数)は、次のとおりだった。
【蛍ケ池】
搬入部数: 2320部
実配部数: 695部
「押し紙」: 1625部
【豊中販売所】
搬入部数: 1780部
実配部数: 453部
「押し紙」: 1327部
2001年から2007年まで(注:2002年は除く)の各月ごとの詳細データは、次の通りである。PDFで紹介しよう。
◇蛍ケ池販売所の「押し紙」、詳細資料を公開
【表の見方】
・「送り部数(A)」欄の「合計」が搬入部数である。=赤で表示
・「実売部数(B)」は、実際に配達していた部数
・「注文部数(C)」は、予備紙を加えて、高屋さんの注文した部数
・「送り部数(A)」と「実売部数(B)」の差異が、「押し紙」(偽装)部数ということになる。
さて、高屋さん経営の2店では、「押し紙」が70%を超えていたわけだが、なぜ、経営が破綻しなかったのだろうか。それを解明することは、日本の新聞社の経営構造のカラクリを知ることを意味する。
答は実に単純で、次の2点である。
折込チラシが水増し状態になっていたこと。
新聞に折り込まれる折込チラシは、新聞の搬入部数(送り部数)に準じる原則がある。そのために配達しない「押し紙」に対しても、それに相応した折込チラシ料金が入ってくる。(時には、折込チラシ収入が新聞の卸原価を超えることもある。)
毎日新聞社が、高屋さんに補助金を支払っていたこと。
その事実を示すのが、前出のPDFページ下の表である。表の中に、「補助奨励金+経営補助(C)」の欄に、支給された補助金の額が示されている。
つまり高屋さんは、折込チラシの水増し収入と補助金で、「押し紙」の代金を支払っていたのだ。それでも金額が足りない時は、個人資産から切り崩して支払っていたのである。
毎日新聞社は、毎月、蛍ケ池販売所に対して140万円から210万円ぐらいの補助金を支給していたわけだが、読者は次のような疑問を持つかも知れない。なぜ、毎日新聞社は、わざわざ補助金を支給して「押し紙」を買い取ってもらっていたのか?自分たちが支給した補助金が、新聞の販売収入として、ブーメランのように戻ってくるわけだから、支給そのものが二度手間ではないかと。
これに対する答えも極めて単純だ。
紙面広告の掲載価格は、原則としてABC部数が増えれば増えるほど高く設定される。特に公共広告にこの基本原則が顕著に見られる。それゆえに、新聞社は補助金を支給してなるべく多くの「押し紙」を買い取ってもらい、それによりABC部数をかさ上げし、紙面広告の価格を釣り上げているのだ。
次に示す最高裁がスポンサーとなった広告の価格一覧が、ABC部数と紙面広告の価格設定の関係を裏付けている。ABC部数トップの読売が最も高く、以下、朝日、毎日の順になっている。
「押し紙」率が70%の例を紹介しても、なかなか信用してもらえないことが多い。そこで本稿の最後に、高屋さんが退職時に毎日新聞社と交わした確認書に明記された部数内訳を紹介しよう。毎日新聞販売部の担当者の捺印もある。「新聞代原価」の欄に示されているのが新聞の搬入部数(送り部数)で、「発証額」の欄に示されているのが実配部数である。両者の差異が「押し紙」だ。