2013年05月22日 (水曜日)
奈良市・般若寺の基地局問題がスピード解決、イーモバイルが撤退
一旦設置されてしまった携帯基地局を撤去させることはかなり難しいというのがこれまでの定説だった。しかし、ここ数年は状況が変化している。設置されてからわずか3週間足らずで撤去にこぎ着けた奈良市のケースを紹介しよう。
5月18日、わたしはコスモス寺として有名な奈良市の般若寺を訪ねた。629年に創立された名刹で、桜門が国宝に登録されているほか、本尊の木造文殊菩薩騎獅像などは重要文化財である。
緑樹と花に包まれた般若寺に隣接する駐車場にイーモバイル基地局の鉄塔が建ったのは、3月末だった。高さ15メートル。茶色い鉄のポールである。
住職の工藤良任さんは、最初、電磁波による人体影響よりも、むしろ景観が損なわれることを懸念したという。自然界にとけ込んだ歴史ある寺とグロテスクな鉄塔は釣り合わない。生命を尊ぶ仏教の思想とも相容れない。わたしには住職の思いがよく理解できた。
電磁波の危険性について工藤住職は、電子レンジのマイクロ派が人体に有害な影響を及ぼすことや、携帯電磁波が医療機器を誤作動させる恐れがあるといった程度のことは知っていた。そこで電磁波について詳しく調べてみた。その結果、携帯基地局の周辺に住む住民の間に健康被害が広がっていることなどを知ったのである。
幸いに基地局本体とアンテナの接続は完了していなかった。そこで電話で基地局の設置作業を担当した日本アンテナの責任者を呼び出し、工事をペンディングにするよに申し入れた。
その後、日本アンテナは住民説明会を提案してきた。しかし、説明会を開いたことを口実に、工事を再開さることを警戒して、般若寺側はそれを断った。
工事をストップさせると同時に、住職らはビラを配布したり、基地局の地権者と話し合った。地権者は、基地局設置に際しては、電話会社側が近隣住民の許可を得ることを前提条件にしていたという。しかし、工事の告知はしたものの、基地局から発せられる電磁波のリスクを住民に説明するプロセスは踏んでいなかった。こうした経緯があったので、地権者も基地局の撤去を申し入れたのである。
住民運動の広がりを前に、イーモバイルは早々と撤去を決定したようだ。4月13日に基地局を撤去することを約束した。そして実際、予定通りに鉄塔を撤去し、般若寺に作業の完了を報告したのである。
般若寺の基地局問題は異例のスピードで解決した。勝因は、般若寺の影響力を電話会社が警戒した結果ではないか。この寺は昔から社会問題の解決にもかかわってきた。たとえば鎌倉時代、僧侶たちはハンセン病などの不治の病に苦しむ人々を救済するボランティア活動を展開していた。寺の近くには「北山十八間戸」(国の史跡)という収容施設もあった。
工藤住職も反戦・平和の運動に携わっている。「生命をうとんじるものとは戦う」というのが住職の信念である。そんな住職の姿勢と般若寺の伝統が、電話会社をひるませたのかも知れない。
■「電磁波の危険」を考える市民のつどい。
日時:6月7日(金) 午後2時?4時
会場:奈良若草公民館