1. 「押し紙」を排除した場合、毎日新聞の販売収入は年間で259億円減、内部資料「朝刊 発証数の推移」を使った試算

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2018年07月21日 (土曜日)

「押し紙」を排除した場合、毎日新聞の販売収入は年間で259億円減、内部資料「朝刊 発証数の推移」を使った試算

たとえばAという新聞販売店が2000人の読者を持っていると仮定する。当然、2000部と若干の予備紙が適正な搬入部数である。ところが新聞社が、ノルマとしてさらに1000部の新聞の買い取りを強制すれば、この1000部は「押し紙」ということになる。

「押し紙」制度は新聞社のビジネスモデルとして、戦後、まもない時期から始まったが、それが広く知られるようになったのは、ここ10年ぐらいである。多くの市民が倫理面から「押し紙」を問題視するようになった。

しかし、意外に意識されていないのが、「押し紙」によって、新聞社がどの程度の収益を上げているのかという問題だ。逆説的に言えば、「押し紙」を排除すれば、新聞社はどの程度の減収を招くのかという問いだ。

次の記事は、毎日新聞社から流失した販売関係の資料に基づいて、「押し紙」を排除した場合に同社が受ける損害をシミュレーションしたものである。データが2002年のものなので古いが、「押し紙」がいかに莫大な収入を生むかという点においては変わりない。

◇「朝刊 発証数の推移」

使用するのは、毎日新聞社の内部資料「朝刊 発証数の推移」である。この資料によると2002年10月の段階で、新聞販売店に搬入される毎日新聞の部数は約395万部である。これに対して発証数(読者に対して発行される領収書の数)は、251万部である。差異の144万部が「押し紙」である。

当然、シミュレーションは、2002年10月の段階におけるものだ。

■裏付け資料「朝刊 発証数の推移」

かりにこの144万部の「押し紙」が排除されたら毎日新聞は、どの程度の減収になるのだろうか。シミュレーションは次の通りである。大変な数字になる。

◇シミュレーションの根拠

事前に明確にしておかなければならない条件は、「押し紙」144万部の内訳である。つまり144万部のうち何部が「朝・夕セット版」で、何部が「朝刊だけ」なのかを把握する必要がある。と、いうのも両者の購読料が異なっているからだ。

残念ながら「朝刊 発証数の推移」に示されたデータには、「朝・夕セット版」と「朝刊だけ」の区別がない。常識的に考えれば、少なくとも7割ぐらいは「朝・夕セット版」と推測できるが、この点についても誇張を避けるために、144万部がすべて「朝刊だけ」という前提で計算する。より安い価格をシミュレーションの数字として採用する。

「朝刊だけ」の購読料は、ひと月3007円である。その50%にあたる1503円が原価という前提にするが、便宜上、端数にして1500円の卸代金を、144万部の「押し紙」に対して徴収した場合の収入は、次のような式で計算できる。

1500円×144万部=21億6000万円(月額)

最小限に見積もっても、毎日新聞社全体で「押し紙」から月に21億6000万円の収益が上がっている計算だ。これが1年になれば、1ヶ月分の収益の12倍であるから、

21億6000万円×12ヶ月=259億2000万円

と、なる。

ただ、本当にすべての「押し紙」について、集金が完了しているのかどうかは分からない。担当者の裁量で、ある程度の免除がなされている可能性もある。しかし、「押し紙」を媒体として、巨額の資金が販売店から新聞社へ動くシステムが構築されているという点において、大きな誤りはないだろう。同時に「押し紙」によって、販売店がいかに大きな負担を強いられているかも推測できる。

新聞は、一部の単価が100円から150円ぐらいだから、だれても手軽に購入できる商品である。そのためなのか、ややもすれば新聞社の儲けは少ないように錯覚しがちだが、販売網を通じて安価な商品を大量に売りさばく仕組みになっているので意外に収益は大きい。

 

【動画】「押し紙」の回収場面