1. 「押し紙」問題の公取委査察について、朝日新聞をターゲットにした理由、「朝日バッシング」で部数が減ったわけではない

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2016年04月15日 (金曜日)

「押し紙」問題の公取委査察について、朝日新聞をターゲットにした理由、「朝日バッシング」で部数が減ったわけではない

このところ朝日新聞の販売店に公正取引委員会が「押し紙」問題で査察に入っているという情報がソーシャルメディアで流れている。これについて私の見解を求める問い合わせも来た。

たとえばツイッターによる次のような問い合わせである。

押し紙に詳しい黒薮哲哉さん@kuroyabuにわかったら教えてもらいたい。
 @haigujin なぜ安倍政権になって朝日だけ公取が?読売も産経も指摘なし。この論は販売店が被害者とみなすが単純ではない。折込収入を加味すると販売店が要求している面もあり本社との共同正犯だ。また雑誌・・

◇朝日バッシングから公取委の査察へ

実は、最近、販売店店主らが公取委に内部告発(「押し紙」の存在を裏付ける資料の提出)に踏み切るケースが増えている。しかし、わたしが知る限り、それは朝日新聞の店主に限ったことではない。地方紙の店主や毎日新聞の店主も、「押し紙」に関する情報を提供している。

わたしも近々に西日本新聞の内部資料を提供する予定だ。

しかし、公取委が問題にしているのは、朝日新聞だけである。なぜなのか?答えは簡単で朝日の論調が、安倍政権の国策を全面的にはPRしないからにほかならない。メディアコントロールの流れのなかで、朝日への圧力が強まっていると考えるべきだろう。極めて単純な構図だ。

わたしが取材した限り、朝日新聞の販売店に特別多量の「押し紙」があるわけではない。むしろ昨年の朝日バッシングを朝日新聞社が逆手に取って、この機会に「押し紙」を整理したというのが、新聞販売業界の大方の見方である。理由なしにABC部数が減ると、広告主が不信感を抱くからだ。

繰り返しになるが、「朝日バッシング」で部数が減ったわけではない。長年の新聞購読の慣習を、「論調が気に食わない」というだけで捨ててしまうほど、日本人の民意は高くない。

◇まず、毎日新聞の「押し紙」排除を

本来、公取委が取り締まらなくてはならないのは、まず、毎日新聞社である。既にメディア黒書でも紹介したように、千葉県内のある毎日販売店には、搬入される新聞の約7割が「押し紙」になっていた。

毎日新聞の「押し紙」は昔から有名で、たとえば2005年には、内部資料が流出して、その実態が明らかになった。「朝刊 発証数の推移」と題する次の資料である。

次のPDF資料で、わたしが赤で印した箇所に注目してほしい。

■朝刊 発証数の推移

3,953,466:全国の毎日新聞販売店へ搬入される新聞部数を示している。約395万部である。

2,509,139:「発証」数を示す。「発証」とは、販売店が読者に発行する新聞購読料の領収書である。約251万枚である。

つまり395万部の新聞が販売店に搬入されているのに、領収書は251万枚しか発行されていないのだ。両者の差異にあたる144万(部)が、一日あたりに全国で発生していた毎日新聞の「押し紙」という計算になる。率にすると搬入される新聞の36%である。

この数字は2002年10月時点のものである。14年前のデータであるから、新聞離れが急速に進んでいる現在の時点では、さらに「押し紙」が増えている可能性が高い。「押し紙」問題はさらに深刻化している。