1. 元店主が西日本新聞社を「押し紙」で提訴、3050万円の損害賠償、はじめて「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)」問題が法廷へ、訴状を全面公開

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2021年07月28日 (水曜日)

元店主が西日本新聞社を「押し紙」で提訴、3050万円の損害賠償、はじめて「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)」問題が法廷へ、訴状を全面公開

長崎県で西日本新聞の販売店を経営していた下條松治郎さんが、「押し紙」で損害をうけたとして、西日本新聞社に対し約3050万円の支払いを求める裁判を福岡地裁で起こした。福岡地裁は、27日に訴状を受理した。原告代理人は、江上武幸弁護士ら、「『押し紙』弁護団」が務める。

訴状によると、下条さんは2015年4月1日から2020年11月30日まで、西日本新聞エリアセンター「AC佐々・AC臼の浦」を経営した。

◆4月と10月に搬入部数が増加

この裁判で注目される争点のひとつは、水面下で問題になってきた「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)と呼ばれる販売政策である。

「4・10増減」とは、新聞社が4月と10月を対象に、販売店に対する搬入部数を増やす販売政策のことである。4月と10月のABC部数が、広告営業のための公表データとして普及している事情があるからだ。

新聞社は4月と10月の搬入部数を水増しすることでABC部数をかさ上げし、優位に広告営業を展開する。クライアントに対して、より高額な広告料金を提示できる。販売店も折込広告の収入が増える可能性があるが、その反面、「押し紙」の負担が増え、結局、なんの益にもならに場合が多い。

次に引用するのは、訴状に添付された「押し紙」一覧表から抜粋した2017年3月・4月・5月の搬入部数である。部数の増減に着目してほしい。

2017年3月 :1115部
2017年4月 :1315部
2017年5月 :1116部

西日本新聞社は4月に搬入部数を増やし、5月に減部数している。さらに次に示すように、同年9月から11月にかけても、搬入部数が増減する。同じパターンである。

2017年9月:946部
2017年10月:1316部
2017年11月:1116部

10月に搬入部数を増やし、11月に減部数している。

このように西日本新聞社は、4月と10月をターゲットとして搬入部数を増やす販売政策を採用していた疑惑がある。そのことは、「押し紙」一覧でも確認できる。

「押し紙」一覧

訴状の中で、原告は「4・10増減」について次のように述べている。

被告は原告ら販売店に対する押し紙行為のひとつとして、本件で特徴的なものとして、4月と10月に他の月よりABC部数を増加させる「4・10増減」と呼ばれる販売方法をとっている。

紙面広告や折込広告を発注する広告主は、毎年4月と10月のABC協会が発表するABC部数(新聞社の新聞発行部数)を紙面広告や折込広告の発注部数を決定する指標として用いており、ABC部数は、広告媒体価値を決める上で、重要な役割を持つものとして知られている。そのため、発行本社としては、4月及び10月時点の発行部数が多ければ多いほど、広告料収入が増えることになり、その反射的効果として、販売店の折込収入が増えることとなる。

 そこで、被告は、原告に対する供給部数を4月と10月に外の月より増やす方策をとっている(以下「4・10増減」という。)。

◆新聞特殊指定に則した「注文部数」の解釈

独禁法の新聞特殊指定は、新聞社が「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること」を禁止している。法廷でこの点を検証する前提となるのが、新聞特殊指定に則した「注文部数」の解釈である。コンビニなど普通の商取引においては、「注文部数」とは、単純に販売業者が注文した部数を意味する。

これに対して、新聞特殊指定の下における「注文部数とは販売業者が発行本社に注文する部数ではなく、販売業者がその経営上真に必要であるとして、実際に販売している部数にいわゆる予備紙、予備紙等を加えた部数のことである」(訴状)というのが、原告の主張である。

「注文部数」の解釈の重要性について、原告は訴状の中で、次のように述べている。

*なお、過去の押し紙裁判において、新聞社側は「注文部数」の解釈について、販売店が新聞社に文字通り「注文する部数」を意味しており、新聞社は販売店契約の新聞供給義務に基づき販売店が注文した部数を供給しているにすぎず、独禁法が禁止する「注文部数」越える部数の供給行為(押し紙行為)はしていないとの主張を行ってきていることから、本件でも被告がそのような主張を行うことが予想される。そのため、審理の初期の段階で新聞特殊指定の「注文部数」の定義をあらかじめ確認しておくことは極めて重要である。

この裁判では、「押し紙」行為による公序良俗違反も審理される見込みだ。詳細については、メディア黒書で順次報じる予定。

訴状の全文は次の通り。

 

西日本新聞「押し紙」裁判の訴状