1. グローバリゼーションで国民は幸福を掴むのか?経済同友会が提言、「日本の変革なくして対日投資の拡大なし」を発表

企業・経済ニュースに関連する記事

2015年06月05日 (金曜日)

グローバリゼーションで国民は幸福を掴むのか?経済同友会が提言、「日本の変革なくして対日投資の拡大なし」を発表

経済同友会は、6月1日、「日本の変革なくして対日投資の拡大なし-企業と政府の覚悟が鍵 」と題する提言を発表した。その中で経済同友会は、対日投資の拡大に取り組むように政府に提言している。

その基調をなしているのは、「経済連携の基本は、相互主義と互恵であり、貿易を増やしたり、日本からの対外投資を増やしたりするだけでなく、外国からの投資も受け入れることではじめて深化する」という考えである。

国境なきビジネスの時代、あるいはグローバリゼーションの時代という認識だ。提言は言う。

「われわれ経営者が問われているのは、グローバルな土俵で戦っていく覚悟の有無であり、国内市場とともに縮小する道を選ぶのか、自己変革でグローバル最適を実現するのか、その決断スピードそのものが勝敗を左右する」

安倍内閣に対して、新自由主義=構造改革の導入のスピードを上げるように求めているのである。現在の改革では不十分だという不満のようだ。

その背景には、「国境を越えた産業再編が進む中、Fortune Global 500 にリストアップされた日本企業数は、2010 年 71 社、2011 年 68 社、2012 年 68 社、2013 年 62 社、2014年57 社と漸減している」事情があるようだ。

こうした実態を打開するために、財界は、「われわれはM&A 等による統合・再編を通じ、世界に伍する企業にふさわしい規模への拡大を図る」とまで述べている。

◆「新自由主義=構造改革」こそが諸悪の根源

改めて言うまでもなく、グローバリゼーションの時代における競争相手は、多国籍企業である。競争相手に勝つためには、国際競争力を高めなければならない。そのために1996年に成立した橋本内閣の時代に始まったのが、新自由主義=構造改革の導入である。民主党も基本的には、新自由主義=構造改革の推進派ある。

しかし、新自由主義=構造改革の具体的な中身については、明快に報道されて来なかった。省庁の再編や民営化、医療・福祉の切り捨て、労働法制の改悪、道州制の提言などと、新自由主義=構造改革がどのような関係があるのかは報じられていない。

まして、「新自由主義=構造改革」こそが諸悪の根源であることを認識している人は限られている。

たとえば労働法制の改悪により非正規社員が全社員に占める割合が約4割にも達しているが、こうした現象を国際競争力の強化を望む財界からの要望という観点から考察することはほとんどない。

当たり前の話であるが、日本に拠点を置く企業が、賃金の安い発展途上国を拠点とした多国籍企業と競争するためには、日本の労賃を抑制し、さらに切り下げていかなければならない。さもなければ国際競争には勝てない。

労働法制を改悪して、賃金が安い非正規社員を多量に増やす国策が打ち出された背景には、グローバリゼーションの中で、均一な労働市場を形成する「必要悪」があるのだ。働き方の選択肢を広げるという論理は、結果であって、本質的な部分ではない。

今回、経済同友会の提言では、労働市場の流動性を高めることを提言している。ここにも非正規社員を増やすことで、企業経営の合理化を進め、国際競争力を高めようという意図が読み取れる。

「社会全体が、転職に対するマイナスイメージを払しょくし、労働市場の流動性を高めるとともに、労働者一人ひとりにも、自身のスキルを磨くためにどの組織で何を身に付けるべきかを考え、職業人生を通じて自らの力でWinner になるという気概が求められる

企業という集団の中で労働を通して、お互いを成長させていこうという発想はまったくない。競争と金銭だけが、幸福を獲得する道具として描かれているのである。

◆多国籍企業の天国

しかし、国際競争力を強化するためには、労働法制の改悪だけでは十分ではない。税制が大きな鍵を握る。企業の負担を軽減するために、法人税を下げて、消費税を上げる措置が取られる。

事実、法人税を段階的に下げて、消費税を段階的にあげる政策は、橋本内閣の時代から断続的に続いている。

今回の経済同友会の提言は、さらなる法人税の引き下げを求めている。

「法人税率は引き下げが予定されているが、それでもシンガポールの17%、香港の16.5%等と比べ、大きな差異がある。また、所得税の最高税率の高さも、子弟の教育コストの高さ等と相俟って、高度人材外国人が日本で活躍するインセンティブや、多国籍企業がアジア統括拠点を東京に設置することを阻害している」

新自由主義=構造改革で国が繁栄するというのは幻想である。繁栄するのは多国籍企業だけだ。事実、多国籍企業は、アベノミックスにより空前の利益を上げている。そしてマスコミはそれを日本再生の兆しとして報じている。

が、ここからが肝心なのだが、多国籍企業の大半は海外生産・海外販売・海外貯蓄のビジネスモデルを構築しているので、いくら利益があげても、大半の国民はその恩恵にあずかれない。安倍内閣にとって、唯一の対策は、日本を「世界で一番ビジネスがしやすい国にする」ことである。

日本を投資のしやすい国、つまり労賃が安く、警察権力が強く、国際業務ができる弁護士が多い国にすることである。

こうした多国籍企業本位の国策が行き詰るのは時間の問題だろう。

■経済同友会の提言「日本の変革なくして対日投資の拡大なし-企業と政府の覚悟が鍵 」