1. 記録映画『バナナの逆襲』、軍事独裁政権の時代の公害が、30年後に浮上、公害の恐ろしさを語る

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2016年03月18日 (金曜日)

記録映画『バナナの逆襲』、軍事独裁政権の時代の公害が、30年後に浮上、公害の恐ろしさを語る

1980年ごろまで、中米の政治は、米国のフルーツ会社と軍事政権によって牛耳られているとも言われていた。中米の肥沃な大地と気候に目をつけた米国の多国籍企業が、原野をバナナ農園に変え、港まで鉄道を敷き、現地の人々を奴隷のように働かせて、バナナを収穫し、船で米国へ運搬した。地元の人々は豊かに実ったバナナの下で飢えていた。

「先進国」の繁栄と第3世界の悲劇が共存していたのである。

『バナナの逆襲』は、 スウェーデンのゲルテン監督の制作。ニカラグアに進出していた米国のドール社による禁止農薬の散布により生じた人体影響(無精子症、癌など)をめぐり、元バナナ農園労働者たちが米国で損害賠償を求める裁判を起こした事件の記録である。

この記録映画から伝わってくるのは、民衆の側に立った辣腕弁護士の活躍はいうまでもなく、公害の恐ろしさである。公害の被害が何十年も後になってから浮上してくる法則がみえる。作品中では言及されていないが、作品に使われている古い写真や動画から察して、問題の禁止農薬が散布されていたのは、1979年7月に崩壊したソモサ独裁政権の時代である。

ソモサ一族は、ラテンアメリカの歴史の中でも、最も残忍非道な独裁者のひとつで、1979年に約半世紀の幕を閉じた。ソモサはパラグアイに亡命し、そこで何者かに暗殺された。

先進国と第3世界の問題は、単に資源の収奪と海外派兵という観点だけでは捉えきれない。現地の人々に対する生命の軽視という大問題を孕んでいる。禁止された農薬の散布は、米国の傀儡(かいらい)と言われたソモサ独裁政権の下であったからこそ可能だったのだ。作品では、このあたりの説明が欠落している。

農薬散布の影響が明るみに出たのは、今世紀に入ってからである。コスタリカやホンジュラスでも、人体影響が報告されるようになった。そしてこの記録映画により、軍事政権の時代に恐ろしいことが水面下で起こっていたことが世界的に知られるようになったのである。

とはいえゲルテン監督は、ドール社から裁判を起こされ、米国のメディアからは総バッシングを受けた。当初は、上映もできなかった。しかし、そこは民意の強い米国である。評判が評判を呼び、国会議員の協力もあって上映にいたる。

◇携帯電話の基地局公害も同じ

現在、日本では携帯電話の基地局から発せられるマイクロ波による公害が広がっている。しかし、メディアの世論誘導でそれが隠されている。が、『バナナの逆襲』で描かれたように、公害というものは、長い歳月を経た後に牙をむき出してくるのである。

しかも、その被害はニカラグアのバナナ農園労働者の規模ではすまないだろう。その意味では、この作品は公害の恐ろしさを改めて認識させてくれる。