ニカラグア革命38年、多国籍企業の海外での活動と「日本軍」の海外派兵の関係を考える
中米ニカラグアは、7月19日に革命から38年をむかえた。フランスの人々が1789年7月14日のフランス革命を祝うように、ニカラグアの人々は、7月19日を盛大に祝う。2日前の17日には、「歓喜の日」も設けられている。
これは、当時、ニカラグアを支配していた独裁者ソモサが、早朝、自家用ジェットでマイアミへ亡命した日である。明け方の空に独裁者が永遠に消えたのだ。ソモサ一族は、約43年に渡りニカラグアの政治から軍、それに産業までを支配していた。ラテンアメリカの歴史の中でも、最も非道な独裁者のひとりである。
1972年の大地震の後、海外から贈れた救援資金を独裁者が横領したことで、独裁政権に対する反発が強まった。このころからFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)が急激に勢力を拡大し、最後は、首都マナグアの市民がFSLNに協力して、独裁政権を倒したのである。
が、本当の悲劇はそれからだった。独裁者のバックだった米国は、ニカラグアの隣国ホンジュラスを米軍基地の国に変え、コントラと呼ばれる傭兵部隊を訓練して、新生ニカラグアの転覆に乗りだしたのである。
1984年に最初の大統領選挙が行われ、FSLNのダニエル・オルテガが圧勝した。しかし、1990年にFSLNは国民野党連合 (UNO) のビオレータ・チャモロに破れた。FSLNが政権を去ったことで、米国も内政干渉から手を引き戦争は終わった。
それから16年後、2006年に再びFSLNのダニエル・オルテガが大統領に就任して、現在に至っている。
筆者は、1984年と1995年にニカラグアを取材した。
◇「国際貢献」はあくまでも建前
ニカラグアをめぐる問題で最も大事な点は、海外派兵をどう考えるのかという点である。外国の軍隊が、他国に入り、軍事行動を展開する背景に何があるのかという問題である。
日本が海外へ自衛隊を派遣するようになったのは、1992年である。国際平和協力法(PKO)に基づき、アンゴラへ派遣したのが最初である。それから今年で25年になる。選挙の監視が目的だった。
その後、徐々に自衛隊活動の規制を撤廃していき、現在では、日米共同の軍事作戦を展開できるまでになっている。いずれこうなるのではないかと、当初からその危険性を指摘する少数意見もあったが、「国際貢献」という建前の前に中止を求める運動は広がることはなかった。
筆者は、ニカラグアの取材を始めたころから、海外派兵の目的は、多国籍企業の防衛にほかならないという見解を持ってきた。「国際貢献」は建前であって、本質は、武力による「民主的政府」の転覆である。「民主的政府」ができると、多国籍企業の活動に支障が出る場合に、海外派兵が行われるのだ。
安倍内閣による軍事大国化の目的は、まさにグローバリゼーションの時代における多国籍企業の防衛である。
◇多国籍企業の海外進出と政変
日本企業が海外への進出を本格化させはじめたのは、1980年代の半ばである。1987年にホンダ技研が、メキシコに新工場を立ち上げるというので、筆者は現地採用の通訳として半年働いたことがある。このときの記録は、『バイクに乗ったコロンブス』(現代企画室)に詳しい。
円高が進み日本企業の海外進出がはじまったのだ。
第3世界の国々へ海外進出するメリットは、人件費が安いことである。ホンダ技研の給料は、通訳の場合、月額1000ドル(10万円)。現地の労働者は、その半分かそれ以下だった。
一方、第3世界のデメリットは、政情が不安定なことである。多国籍企業がせっかく工場を設置しても、政変で政府が変われば、直接的に企業活動に支障をきたすことがある。それゆえに「国際警察」の派遣体制の構築を切望する。それを具体化させていったのが、日本の場合、PKOに端を発した軍事大国化への道だった。
◇米国のフルーツ会社の裏庭
米国の多国籍企業は、ニカラグアにどのような権益を持っていたのだろうか。結論を言えば、それはフルーツ会社の事業である。中米からコロンビアにいたる地域は、米国のフルーツ会社の裏庭になっている。
収穫されたバナナやパイナップルが、港から多量に海外へ運ばれていく。豊かな果実を生む農園で働く人々は、雨漏りがするような家で暮らしていたのである。ニカラグアの農園で、農薬の雨を降らした影響が、最近になって人体に現れてきて、国境をこえた裁判にもなっている。
米軍によるラテンアメリカ諸国への介入には、その多くで多国籍企業の権益がからんでいた。1954年のグアテマラ介入や、1973年のチリの軍事クーデターはその典型である。グアテマラでは、農地改革のプログラムの中で政府がUFC(ユナイテッド・フルーツ・コンパニー)の土地に手を付けたとたんに、クーデターが起きた。チリの場合は、米国資本の鉱山の国有化などが原因である。
しかも、こうした介入には、必ず大規模は虐殺がセットになっている。
安倍政権が進めてきた海外派兵の青写真は、米国の軍事介入をそのままモデルにしたものにほかならない。