1. 横浜地検の岡田万佑子検事が不起訴処分を決める、判断にあたり「厚労省に相談した」、藤井さんらは検察審査会に審査の申し立て

横浜・副流煙裁判に関連する記事

2022年03月21日 (月曜日)

横浜地検の岡田万佑子検事が不起訴処分を決める、判断にあたり「厚労省に相談した」、藤井さんらは検察審査会に審査の申し立て

横浜副流煙裁判の元被告・藤井将登さんらが、勝訴を受けておこなった作田学・日本禁煙学会理事長に対する刑事告発で新しい動きがあった。青葉警察署からの書類送検を受けて事件を担当していた横浜地検の岡田万佑子検事が、「嫌疑不十分」として作田医師を不起訴処分にしたのである。

告発人6名(筆者は告発人ではない)は、検察審査会に審査を申し立てることを決め、理由書を作成。21日に郵送した。

◆◆
この事件は、横浜市のすすきの団地に住むミュージシャン・藤井将登さんが自宅の音楽室(防音装置が施され、ほぼ密封状態)で吸っていた煙草の副流煙で「受動喫煙症」などに罹患したとして、同じマンションの斜め上に住む家族3人が、4518万円の金銭を請求したものである。請求の根拠となったのは、作田医師が交付した原告3人の診断書だった。診断書を根拠として高額訴訟を起こしたのだ。

ところが裁判の中で肝心の診断書のうち1通を、作田医師が無診察のまま交付していたことが判明した。また、原告のひとりに25年の喫煙歴があることも判明した。

横浜地裁は、原告3人の訴えを棄却したうえに、作田医師による医師法20条違反(無診察による診断書の交付の禁止)を認定した。また、日本禁煙学会が禁煙運動や裁判などの政策目的に沿った「受動喫煙症」の診断基準を、設定していると認定した。

これを受けて元被告の藤井将登さんを含む6人が、青葉署へ作田医師らを虚偽診断書行使罪で刑事告発した。青葉署は捜査を経て1月下旬に、作田医師を横浜地検へ書類送検した。しかし、岡田検事が、不起訴を決めたのである。ちなみに岡田検事は、作田医師からも告発人からも事情を聴取していない。

◆◆
告発人の6名が検察審査会へ提出する「理由書」によると、岡田検事の決定には次の問題点がある。

1,判例違反
2,診断書の中で作田医師が創作した記述を、岡田検事が軽視していること
3,岡田検事が法律を文字通りに解釈していない問題。

【1】判例違反
医師法20条違反の下で作成された診断書は、虚偽診断書とみなす判例がある。

また、刑法160条は、「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する」と懲罰規定を設けている。刑事告発の根拠である。

医師法20条違反の下で交付された診断書を虚偽診断書と解釈する判例は次の通りである。

(a)福岡高裁宮崎支部平成元年3月14日判決

 虚偽診断書作成罪は医師が公務所に提出すべき診断書等に虚偽の記載をしたときに成立するものであり,また自ら診察しないで診断書を交付した医師法違反の罪はその所為をもって成立するところ,自ら診察しないで診断書を作成することはそれ自体診断書の内容に虚偽を記載することにもなるのであるから,上記は1個の行為で2個の罪名に触れるものである。 

【2】診断書の中で作田医師が創作した記述を岡田検事が軽視していること

岡田検事は不起訴処分を出した理由のひとつとして、代表告発人の藤井敦子さんからの問い合わせ(18日の午後、電話)に対して次のような趣旨の回答をした。作田医師は、原告のひとりA娘を直接診断していないが、A娘が他の医師(倉田文秋医師や宮田幹夫医師ら)によるA娘の診断書を参照にした上で、みずから診断書を交付したので、虚偽診断書とまではいえない-(21:15)。

しかし、倉田・宮田の両医師の診断書と作田医師の診断書を比較するとほとんど類似性がない。新たに「創作」が加わっている。次に引用するのが、倉田・宮田医師それぞれが作成した診断書の所見である。

■宮田医師が交付した診断書の所見
「微量な化学物質、特に空気汚染化学物質に敏感に反応して体調不良となる症状であり、関係者の配慮が望まれる」

■倉田医師が交付した診断書の所見
「非喫煙者であり、受動喫煙環境、経過、自覚症状により受動喫煙症(分類レベル3)と診断します」

これに対して、作田医師が交付した診断書の所見は次の通りである。

■作田医師が交付した診断書の所見
 「団地の一階からのタバコ煙にさらされ、1年ほど前からタバコ煙に接するたびに昨年暮れから咽頭炎、呼吸困難を生じていた。昨年の暮れからは化学物質過敏症が増悪し、洗剤、寝具や衣類の化学繊維まであらゆる化学物質に反応し、口内炎、咽頭炎などを生じ、呼吸が困難になる。このため、体重が10Kg以上減少した。微量の化学物質にも激しく反応し、外出が困難になっている。治療法は、原因となる物質のない環境にいることだけである。」

明らかな創作箇所をいくつか指摘しておこう。

1,「団地の一階からのタバコ煙にさらされ」ているという記述。横浜副流煙裁判の判決は、将登さんの音楽室から煙は漏れていないと認定している。たとえ漏れていても、人体に影響を及ぼすレベルではないと認定している。この箇所は、作田医師が想像で書いている。

2,副流煙が原因で元原告のひとりの「体重が10Kg以上減少」したという記述。宮田医師が作成した診断書や問診票などに、そのような記録は存在しない。この箇所も作田医師が想像で書いている。

3,「咽頭炎、呼吸困難」とった所見。宮田医師・倉田医師の診断書にはそのような所見は見当たらない。

作田医師は、「空想の世界」と客観的な事実を混同している。直接患者を診察していないことが、その原因であると推測される。

【3】法律を文字通りに解釈していない問題

医師法20条の条文は、次の通りである。

第二〇条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

岡田検事は、医師法20条の解釈は、民事と刑事とは異なるとしたうえで、厚労省に対処を相談した(18日の藤井、5:15)という。司法判断に関することを検事が厚労省に相談すること自体あるまじき行為だが、それ以前の問題として、法文を我田引水に都合よく解釈していいのかという問題がある。医師法20条には、他の医師の診断書を参照にすれば、患者本人を診察することなく診断書を交付しても問題ないという例外条項は存在しない。

たとえ解釈に若干の幅を認めるにしても、医師法20条の基本的な考えは、無診察による診断書や死亡証明書の交付を禁ずるという趣旨なのである。それを無視して我田引水に法律を解釈すると、法律が政治利用の温床になりかねない。さまざまな司法判断をめぐって、国民の間に司法に対する不信感が広がっている原因なのである。

藤井夫妻らが検察審査会に送付する「理由書」の全文は次の通りである。

■理由書の全文