作田学医師の医師法20条違反が覆る可能性は皆無、横浜副流煙裁判
既報したように横浜副流煙裁判で作田学医師の医師法20条違反が認定された。週刊新潮や日刊ゲンダイなどの主要なメディアもそれを報じた。こうした状況の下でこの嫌がらせ裁判を起こした人々は、作田医師を弁護するための抗弁を開始した。
控訴人(元原告のA夫、A妻、A娘)側が提出した書面には、作田医師による無診察で診断書を交付した行為は医師法20条に違反しないとする記述があり、それに照応して裁判判例などの証拠も提出された。わたしはこれらの資料を一通り閲覧した。
その結果、A夫らの代理人弁護士である山田義雄・山田雄太(父と息子)の両弁護士が提出した証拠がかえって、作田氏の違法行為を2重にも3重にも裏付けてしまったという感想を抱いた。医師法20条違反が控訴審で取り消されることはまずありえない。以下、取材ノートを紹介しよう。
医師法20条は次のように述べている。
第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せん を交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。
この裁判で問題になっているのは、診断書である。作田医師が患者であるA娘を診察せずに、診断書を交付した事実である。病名は、受動喫煙症レベル4と化学物質過敏症である。
そもそも診断書というものは、一種の証明書である。患者がしかじかの疾病に罹患していることの証明である。また、死亡診断書は患者が死亡したことの証明である。
診断書であれ、死亡診断書であれこれらの証明書を医師が直接診察することなしく発行する行為が横行すれば、大変な人権侵害が発生しかねない。まだ生きているひとが死者にされたり、病気でもない人が病気にされるリスクが生じる。それゆえに無診察による診断書の発行は、厳しく禁じられているのである。罰則も厳しい。
一方、無診察による処方箋や治療は、証明書の発行とは若干異なる。無診察で処方箋が発行され、それに応じて患者のもとに薬が届いても、患者は服用を拒否できる。それに病院でのユニット医療(チーム医療)の場合、チーム全体で患者の状態を把握しているので、主治医が不在の時に行われた医療措置で問題が起きることもない。
事実、ユニット医療の中で、医師が准看護婦に薬剤の処方を命じても、医師法20条違反にはならないとする判例もある。この判例も、山田弁護士が作田医師を弁護するために持ち出している。
これに対して、診断書交付の場合は、一種の証明書の発行であるから、面識のない患者に対して診断書を交付して、それが独り歩きすれば、どのように悪用されるか分からない。それゆえに無診察による診断書の発行は、絶対にやってはいけない医療行為なのだ。ところが横浜副流煙裁判では、「法的手段をとるための布石とする」(判決)ことなどを目的で、診断書が交付されたと認定したのである。
無診察での処方箋や治療の方は、裁判の判例上でも認められている場合もある。ただし、それは病状に関する認識が定着していることに加えて、対処方法が確立されている疾患であること、さらには無診察にならざるを得ない特別な事情がある場合に限定されているようだ。当然、作田医師のケースでは当てはまらない。
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無診察による処方箋と治療が例外的に認められた例を紹介しておこう。この例は、山田弁護士が医師法20条違反に該当しない例として提出したものであるが、しかし解釈が間違っている。
統合失調症の原告Mが、家族の介入により無診察で薬を投与されたとして、投薬した医師を医師法20条違反で訴えた裁判である。(千葉地裁)このケースでは、原告の患者が病院で診察を受けることを拒んだために、家族が代わりに病院を受診して、薬を処方させた。本来であれば医師法20条の違反になるが、千葉地裁は原告Mの訴えを退けた。 山田弁護士は、この判例を作田医師を救済するために持ち出してきたのだ。
千葉地裁の判決は次のように述べている。
「ア非告知投薬は日本における精神病の治療においては非常に広い範囲で行われており(平成7年度の全国調査の結果でも、精神科医の4分の3が、やむをえない場合にはこれを行う旨述べている)、また、その中には本件のように患者本人を診察しないで行われるケースも相当含まれていること、イことに、病識のない精神病患者が治療を拒んでいる場合には、患者を通院させることができるようになるまで、患者に気付かれることなく服用させることの可能な水薬が処方させる例がままあること、ウ右のような場合にも、その処方は、家族等の訴えを十分に聞き、かつ、保護者的立場にあって(略)」
この判例と作田医師のケースを比較する場合、留意しなければならない点が2点ある。
まず、第1は、この判例は無診察による処方箋の是非について判断したものであって、無診察にる診断書、あるいは証明書の交付について判断したものではないという点である。
事実、この判例の解説も、「なお、診断書の作成等については本件の判旨外であるから以後触れない」と述べている。つまり作田医師のケースとは類型が似ているようで、実は異なるのだ。処方箋の場合は引用した判決文の記述に示された一定の条件を満たせば、医師法20条の違反にはならない。例外として認められる。それを示した判例にすぎない。
第2に、たとえ処方箋と診断書(証明書)交付の境界線をあいまいにして、おおざっぱに医師法20条違反を検証したとしても、統合失調症のケースと化学物質過敏症のケースには大きな違いがある。前者はすでに診断方法や治療方法が確立している。精神科の病院は全国のいたるところにあり、病気に対する知識も広く普及している。
これに対して化学物質過敏症は、診断方法も治療法も未知の領域である。そのことは控訴理由書の中で、山田弁護士もしきりに強調している。
たとえば「受動喫煙症、化学物質過敏症の化学的・医学的・疫学的研究がまだまだ解明途上であることから、その因果関係の立証、認定に困難が伴うことも十分に承知している」(2P)とか、「控訴人らが発症し罹患し重篤化している化学物質過敏症なるものはもちろんすべては解明されているわけではないが、現実に多数発症して苦しんでいる患者のために多くの学者・研究者がその治療対策を含めて日夜懸命な努力をしている分野なのである」(8P)などと繰り返し化学物質過敏症の特異性を述べている。
いわば化学物質過敏症は、現時点ではまだ十分に科学的な診断や治療法が確立されていない研究途上の疾病なのである。医師の中には、この疾患の存在そのものを認めない者もいる。別の疾患との区別があいまいなことがそのひとつの理由である。たとえば患者が頭痛を訴えても、その原因が化学物質による反応なのか、別に原因があるのかを容易に判断することはできないからだ。
と、すれば初診の患者を直接診察することなしに、処方箋を書いたり、診断書を交付することは、無謀と言わなければならない。処方箋はおおめに見るとしても、証明書の一種である診断書を交付できるはずがないのである。
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作田医師は、控訴人A娘を往診するなどして、直接診察しなかった理由についても弁解している。たとえば横浜地裁の審理の中で、「往診する途中で私自身がタバコ煙に接する」ことで、「揮発タバコ煙」がA娘に「化学物質過敏症」を発症させ、呼吸困難になった場合を考え」往診を回避したと説明している。〔原告準備書面(7)、甲43号証〕
ところが医師法20条違反の司法認定を受けた後の2019年12月16日、A娘の自宅に赴きA娘を診察したのである。つまりA夫・A妻・A娘が提訴する前に、往診することは可能だったのだ。
作田医師は、横浜地裁が認定した医師法20条違反を否定するための詭弁を持ちだしている。すなわち、地裁が断罪したのは診断書は、実は「意見書」だったと主張しはじめたのだ。週刊新潮にもその趣旨のコメントを出している。
しかし、山田弁護士が横浜地裁へ提出した準備書面(2)には、作田医師が作成した書面が、診断書であることが明記されている。次の記述である。
なお、当時原告A娘は既に寝たきりで外出困難となっていたため、原告A妻が代わりにA娘の委任状とA娘直筆の自覚症状、くらた内科クリニック・その風クリニックの診断書を提出して、作田医師の診断で、診断書を作成していただいたものである。
問題の書面が診断書であることを山田弁護士自身が記述しているのである。それに書面の表題にも診断書と明記されている。
仮に、もし診断書として提出したものが意見書であるとすれば、A夫・A妻・A娘の診断書は提出されていないことになり、ますますわけが分からなくなる。もともと山田弁護士らは、作田医師らの診断書を根拠として、4500万円を請求したのである。もし、診断書として裁判所に提出した文書が意見書であるとすれば、提訴の前提そのものが破綻してしまうのである。意見書を診断書と偽り、それを根拠に4500万円を請求したわけだから、別の大問題になる。
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さらに山田弁護士は、このところインタネットを通じた遠隔医療を容認する流れがあり、厚生労働省がそれに対応するためのガイドラインを設けている事実を上げ、作田医師のケースもこの類型に当てはまると主張している。A娘が寝たきりで通院できる状態ではなかったから、遠隔医療の方向性に合致するというのが、山田弁護士の論拠である。
たとえば、控訴理由書で、次のように述べている。
「2017年の医政局長通知にて『患者側の理由で診察が中断した場合、直ちに医師法違反にはならない』『禁煙外来の柔軟な取り扱い』『テレビ電話や電子メール、SNS等を組み合わせた診療が可能』となっている。診療は直接の対面診療が基本だがこれに代替しうる程度の情報が得られる場合は同条に反しないとされている(米村滋人「医事法講義」51頁)(甲66の2)」(控訴理由書21P)」
と主張している。
この点に関してわたしがコメントする前に、指摘しておかなければならない重要な点がある。出典となっている「甲66の2」、つまり米村滋人の文章には、山田弁護士が『』で引用した上記の記述は存在しない事実である。逆に山田弁護士の自筆の記述、つまり『』に入っていない部分、「診療は直接の対面診療が基本だがこれに代替しうる程度の情報が得られる場合は同条に反しないとされて」は、米村氏の文章である。
わたしの読み方が不注意なのか、『』内の記述は「甲66の2」の中には発見できない。これに関しては、再度確認してみるが、もしこれらの記述が米村氏の記述に便乗した山田弁護士の創作であれば、別の問題が生じる。
『弁護士職務基本規定』の第75条は、弁護士は「虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない」と規定している。もちろんわたしの誤読の可能性もある。この点については、再度確認してみる。従って読者もそのつもりで読んでほしい。
ちなみに山田弁護士が「甲66の2」として提出した「医事法講義」は、「一度も診察したことのない患者への治療や投薬」は「原則として禁止される」とも述べている。また、証拠として提出されてはいないが、米村滋人氏はこの記述の中で、医師法20条を考える上で、より重要な参考文献を紹介しているのだが、それよ読むと山田弁護士の解釈が間違っていることがより鮮明に分かる。。
それは厚生省健康政策局長の名前で公開された「情報通信器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」と題する公文書である。
この公文書の中でも、留意事項として、「初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療によること」が前提条件になっている。つまり面識のないA娘に診断書を交付した行為は違法なのだ。
が、わたしがこうした説明を長々とするまでもなく、作田医師は最も肝心なインターネットを通じた診察そのものを行っていない。ただ、A妻と面談し、仲間である同じ日本禁煙学会の医師らが作成した診断書を参考にして、診断書を作成したに過ぎない。
その診断書には、公式の証明書では常識となっている病院のロゴもなければ、書面に透かしすら入っていないのである。さらに横浜地裁での審理を記録した書面を再検証してみると、「診断書」のデータを山田弁護士に電送していた事実も明らかになる。裁判所へ提出する診断書は、第3者が診察・作成してはじめて信憑性を担保できるはずだが、なぜか作田医師は裁判の当事者のように山田弁護士へ診断書のデータを直送しているのである。
おそらくこのあたりの事情も考慮して横浜地裁は、裁判目的で作田医師が診断書を交付した可能性を示唆したのである。しかも、そのデータが間違っていたのだから滑稽だ。
次に示すのはA妻に対する藤井将登さんからの尋問で明らかになったことである。
被告:作田先生がメールで弁護士先生に資料を送られたんですね。
原告:送られたときに, はい。
被告:診断書のデータを送られたんですね。
原告:そうです,そうです。
被告:それが間違った病名が書かれたものであったということですね。
原告:だと思います。
診断書がまったく信頼できないことが決定的になったのである。
作田医師の医師法20条違反が控訴審で覆ることはありえないだろう。(続)