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2024年10月15日 (火曜日)

モラル崩壊の元凶 ―押し紙― 西日本新聞押し紙訴訟判決期日決定のご報告

2024年10月

(文責)福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士江上武幸

第1 はじめに

 西日本新聞社を被告とする2つの押し紙裁判が終盤に差し掛かっています。

長崎県の西日本新聞販売店経営者(Aさん)、2021年7月に、金3051損害賠償を求めて福岡地方裁判所に提訴した押し紙裁判の判決言い渡し期日は、来る12月24日(火)午後1時15分から決まりました。

また、2022年11月に718万円の支払いを求めて福岡地裁提訴し佐賀県の西日本新聞販売店主Bさん)裁判証人尋問を残すだけっており、来春には判決言い渡し予定です。

これら二つの裁判通じてども西日本新聞社の押し紙の全体像ほぼ解明できたと考えております。

(注:押し紙一般については、グーグルやユーチューブで「押し紙」や「新聞販売店」を検索ください。様々な情報を得ることができます。個人的には、ウイキペディアの「新聞販売店」の検索をおすすめします。

第2 押し紙とは

新聞販売店は新聞社から独立した自営業者ですので、販売店の経営に必要な部数自分で自由に決定する権利があります。他の商品の場合、初めから売れないとわかっている商品を仕入れることはありませんので当然のことです。しかし、新聞社は発行部数の維持拡大を目指して他紙と熾烈な部数競争を繰り広げており、しばしば契約上の優越的地位を利用して販売店に「目標数〇〇万部」などと過大なノルマを設定し、実際にその部数の仕入れを求めます。

新聞社が発行部数にこだわるのは、紙面広告の料金発行部数に比例して決定する基本原則があるためです。部数をかさ上げすることで、広告収入の維持・増加を図るためです。販売店は新聞社に対して従属的な地位にありますので、新聞社の要求を拒めば契約の解除を暗にほのめかされるなど、不利な状況に追い込まれかねません。そのため、新聞社が示した部数を自爆営業で受け入れざるを得ないのです

新聞社は販売店に目標数を売り上げた時点で利益を計上することが出来ますが、販売店は売れ残った新聞の仕入れ代金を新聞社に支払い続けなければなりません顧問税理士や銀行の担当者から無駄な新聞の仕入れをなくすように指示指導を受けても仕入れ部数を自由に減らすこと出来ないのです。その結果、廃業に追い込まれる販売店経営います。

昭和20年代半ば以降、新聞統制の解除に伴中央紙の地方進出が始まりました。それに連動した乱売合戦に巻き込まれた地方紙は中央紙の戦略的な武器となっている押し紙禁止規定の制定を国に求めました

昭和30年に公正取引員会独占禁止法に基づ新聞特殊指定制定し、新聞業界特有の優越的地位濫用行為である「押し紙」を不公正な取引方法に指定しました。それから70年が経過しようとしていますが未だに押し紙はなくなっていません。のことから、押し紙問題がいかに根深いものであるかをお分かりいただけると思います。

 

第3 西日本新聞の押し紙政策の特徴

 自由増減の権利の否定

西日本新聞社(以下、「被告」と言います。)販売店に対し注文部数を自由に決める権利(以下、「自由増減の権利」といいます。)認めていません。注文部数(定数)を何部するかは被告が決めています。

(注:押し紙を抱えている新聞社はいずれも「自由増減の権利」認めていません。私の知る限り、唯一、熊本日日新聞社と新潟日報社の昭和40年代に押し紙をやめ、販売店に自由増減の権利を認めています。なお、鹿児島の南日本新聞の販売店主が余った新聞と折込広告を本社の玄関先に置いて帰るユーチューブの動画は必見です。)

2 注文部数の指示

 被告は新聞業界全体の動きや会社経営の状況をにらみながら、販売店の定数(注文部数=送付部数)を決定しています。しかし、訴訟においては、そのような事実を認めることはできません。販売店の注文部数はあくまでも販売店が自主的に決定していると主張する必要があります。

多くの新聞社は、FAXやメールで実配数や予備紙等の部数を報告させ、販売店が自己の経営判断で部数を注文しているとの主張ができるようにしていますが、被告は実配数と増減部数入り止め部数の報告記録に残らないように電話で受けそのあと注文表に記載する注文部数を指示する方法をとっています。

3 外形的注文行為の虚構

被告は販売店に注文部数を指示していますが注文はあくまでも販売店自主的に行っているように見せるため、「注文表による注文行為「電話による注文行為の二種類の虚構の注文行為を用意しています。

(1)電話による注文行為

原告ら販売店は自由増減の権利がないため、被告に自らの意思で決定した注文部数を注文することはありません。電話で注文を受けていたとの被告の主張は虚構です。被告が電話で注文を受けていたと主張するのは、「電話による注文」であれば、客観的証拠が残らないからです。 過去の押し紙裁判でも、被告は販売店の注文は電話で受けつけていたと主張し続け最終的に販売店敗訴の判決を受けています。その成功体験が背景にあるからと思いますが、FAXやメールの通信機器発達した現在でも、電話注文を受けているとの主張を続けています。しかし、本件訴訟では、別件訴訟の原告の元佐賀県販売店経営のBさんが電話の会話を録音してくれていたおかげで、販売店からは電話で部数の注文ていなかった証明することが出来ました。

(2)注文表のFAX送信指示

 被告は原告に対し、電話で指示した注文部数を注文表記載しFAX送信するよう指示しています。原告指示された部数注文表の注文部数欄に記入してその日の内にFAX送信ていす。被告は裁判で、「注文表記載の注文部数は参考に過ぎず、電話による注文部数が正式な注文部数である。」と主張していますので、電話による注文で足りるのに、何故、注文表のFAX送信指示しているのという問題が生じます。この点について、被告は次述べるように、「注文表記載の注文部数は参考にすぎない。」と答えるだけで明確な説明はていません。

なお、佐賀県販売店経営のBさんは注文表FAXすれば、こに記載した注文部数が自分の意思で注文した部数とみなされることを警戒していたことからFAX送信を途中からやめておられます。

(注:被告の場合、注文表には「注文部数」の記載欄があるだけで実配数予備紙の記載欄はありません。メールによる報告システム構築されていません。)

 注文表参考に過ぎないとの主張

 被告は本件裁判では、注文表記載の注文部数は参考に過ぎず電話による注文部数が真の注文部数であると主張しています。常識的に考えれば書面による注文部数が正式な注文部数であると主張する方が自然です。しかし、被告は当初から一貫して正式な注文部数は電話による注文部数であると主張続けています。

 被告何故そのような不合理で奇妙主張を行うの

 その理由は、原告が注文表に記載した注文部数よりも実際は多い部数を供給たり、注文部数が記載されていない白紙の注文表がFAX送信されたりしているため、被告は注文表記載の注文部数が注文を受けていとの主張出来なくなっているからだと思われます。

しかし、電話で注文した部数を注文表に記載してFAXするように指示しているのに、何故、電話注文部数と注文表記載の注文部数が違うのか、あるいは注文表の注文部数紙でFAXされていのに、何故、新聞の供給ができるのかといった素朴な疑問わいてきます。

被告は、注文表のFAX送信は必ずしも電話報告のなされるだけではなく電話報告の前」になされることもある微妙説明を変化させています。そうすれば、タイムラグの関係、電話報告の前に注文表に記載した注文部数と、そのあとで電話で注文した部数に違いが出ることありえるとの主張が可能となるからと推測しています。しかし、注文表注文部数が白紙のまま送信された月の分については、そのような説明は通用しません。

そもそも電話による注文行為なるものは被告が考えだした虚構の注文行為ですから、被告は無理に無理を重ねた嘘の説明を続けざるを得なくなっているとみています。

押し紙問題のバブル(聖書)いうべき毎日新聞社の常務取締役河内孝氏の著作「新聞社 破綻したビジネスモデル」20073新潮新書のまえがきに次のような見識に満ちた一文が掲載されていますので、長くなりますが紹介ます。

「バブル崩壊の過程で、私たちは名だたる大企業が市場から撤退を迫られたケースを何度も目の当たりにしました。こうした崩壊劇にはひとつの特徴があります。最初は、いつも小さな嘘から始まります。しかし、その嘘を隠すためにより大きな嘘が必要になり、最後は組織全体が嘘の拡大再生産機関となってしまう。そしてついに法権力、あるいは市場のルール、なによりも消費者の手によって退場を迫られるのです。社会正義を標榜する新聞産業には、大きな嘘に発展しかねない『小さな嘘』があるのか。それとも、すでに取返しのつかない『大きな嘘』になってしまったのでしょか・・・・。」

 

 10増減

黒薮さんの調査によれば、4月と10月は全国的にABC部数が前後の月より多くなっているとのことで(注:この現象は、販売店経営者の間では「4・10増減」と呼ばれているそうです)とりわけ2000年代にその傾向が顕著に確認できるとのことです

4・10増減は、押し紙により4月と10月にABC部数をかさ上げさせる販売政策です。

ABC部数が、新聞の広告効果を判断する重要な基準のひとつになっていることから、広告営業のデータとして採用させる4月部数(6月~11月の広告営業に使われる)と10月部数(12月~翌年5月)を、その前後の月よりもかさ上げしていると考えられます。折込広告代理店を通じて公表される販売店ごとの発行部数も、原則的にABC部数に準じてるために、4・10増減は、不正な折込広告収入や紙面広告収入生みます

本件裁判のAさんの場合、4月と10月の定数が前後の月より200部くなっている点が特に注目されます。この4月と10月の部数を被告はABC協会と西日本オリコミに報告していることを認めています。

被告は200部を上乗せした販売収入を原告から即座に得ることが出来ます。またそれにより年間を通じて紙面広告料の単価と広告代理店の手数料増やすことが出来ます。、販売店の折込収入を増やすことで押し紙の仕入代金赤字の補助を減額すること出来ます。

しかし、被告が自己の利益のために、4月と10月に普段より200部も多い部数を販売店に注文させていることが社員に知渡れ深刻なモラル崩壊発生することが避けられません。このような取引方法を行うのは広告主に対する明らかな詐欺行為となりますから、自社がこのような重大な法律違反をしていることを知ったら、まともな常識を備えて社員は絶えられないでしょう。最近、嫌気がさした若手の販売局員が次々に転職している新聞社が出てきているとの話伝わっています。

新聞社詐欺行為している外部に知れれば、報道機関としての新聞社の信頼地に落ちるだけでなく警察・検察・国税等の国家権力の介入避けられません。そのような危険があるにもかかわらず、新聞社は、何故、押し紙をいつまでも続けてこられか? 単にマスメデイア業界の新聞・テレビ等が報道しないからというだけのことなのか、あるいは業界全体に押し紙問題については国家権力の介入ないとの暗黙の確信があるのか、疑問は尽きません。

この問題は深い闇が隠れているように思われますので、黒藪さんの最新「新聞と公権力の暗部-押し紙問題とメディアコントロール」(20235月・鹿砦社発行)を是非とも一読されることをお勧めします。

 実配数の秘匿

(1) 被告実配数の秘匿

 被告は販売店の実配数は知らないあるいは知り得ないと主張してきました。しかし、被告のこの主張も虚偽であることが明らかになりました。

 件裁判Bんが内部告発者から平成21年8月度の佐賀県地区部数表(販売店ごとに部数内訳を記録した一覧表)の提供を受けていたのです。それにより、私たち弁護団被告が販売店ごとの実配数と定数(=送付部数)を一覧表に整理して保管している事を知りました。本件裁判で、被告側証人の若い担当員が長崎県地区でも、佐賀県地区部数表と同じタイプの部数表を作成していることを正直に証言してくれました。

ところで驚いたことに被告は、この地区部数表を特定の幹部しか知り得ないよう厳重に管理していることを認めた上で裁判官に対し部数表の閲覧禁止を求めましたこれは、販売店の実配数が外部に漏れれば、広告主から広告料の損害賠償を求められること被告が極度に恐れていることを自ら認めたも同然と言えるでしょうまた、ABC協会への新聞部数の虚偽報告の問題も無視できません。

こうした問題が派生するので、新聞社は自社の実配数が外部に知れなることを恐れています

(2) 積み禁止文言と4・10増減

被告は、毎月の請求書に次のような文言を記載しています。

                記 

 貴店が新聞部数を注文する際は、購読部数(有代)に予備紙等(有代)を加えたものを超えて注文しないで下さい。本社は、貴店の注文部数を超えて新聞を供給することはいたしません。

これと同じ文言は、他の新聞社の請求書にも記載されてます。この文 言がいつから記載されるようになったのか正確には知りませんが、平成9年に公正取引委員会が北國新聞社の押し紙事件の調査を行った時期ではないかと推測します。この調査を通じて、他の新聞社も押し紙を行っている事実が判明しました

公正取引委員会は日本新聞協会を通じて加盟新聞各社に対して、新聞の取引方法を改善するよう求めました私は、その時に各新聞社が足並みをそろえて文言を請求書に記載するようしたのではないかとみています。

被告請求書に「積み紙禁止文言」を記載ていますので、仮に原告が4月と10月注文部数前後の月より200部も多く注文すれば、被告は当然その理由を聞きただす必要と義務があります。とうのもと10月だけ200部のかさ上げが必要となる理由は一般に想定されないからです。

被告は、「販売店が注文した部数をのまま供給する販売店契約上の義務があるため、注文部数通りの部数を送付したにすぎない。」説明するだけで、肝心の積み紙禁止の文言との関係ついては一切説明しようとしません。

しかし、先に述べたように、被告の内部から流出した佐賀県地区部数表の存在により、被告が販売店ごとの実配数を毎月正確に把握し、一覧表にまとめ、一部の幹部社員した閲覧できない状態で厳重に保管していること判明しました。従って、被告が実配数を200部も超過する部数の注文が積み紙っであることは容易に認識可能なため、被告の上記のような主張通用しません。

第4 判決の見通し

以上述べたように、私ども弁護団は被告の押し紙責任の立証は充分出来たと考えております。しかし、これまでの裁判例をみますと殆ど裁判販売店側の敗訴に終わっているので楽観することできません。

販売店を敗訴させた過去の判決の論理構造をみると、平成11年新聞特殊指定の改定の際に公正取引委員会が昭和39年の押し紙禁止規定「注文部数」という文言「注文した部数」という文言に変更したことがその後裁判官の判断に影響を及ぼしているように思われます。

具体的に説明しますと、昭和39年新聞特殊指定押し紙禁止規程は「注文部数を超えて新聞を供給する行為」を押し紙と定め「注文部数」については、実配その2%程度の予備紙を加えた部数であるとの解釈を採用していました。これは公正取引委員会と新聞業界が共通に採用していた解釈でした。

しかし、平成11年の改定で、「注文部数」という文言「注文した部数」変更されたことから、裁判官たとえ50パーセントを超えるような大量の残紙を含む注文であってもその部数が外形上、販売店が「注文した部数」となっておれば押し紙には該当しないと判断するようになったのです。

ちなみに、私が押し紙問題に首を突っ込むようになったのは、平成135月に、福岡県の読売新聞販売店経営者であった真村久三さん夫婦から強制改廃の相談を受けた時からです。

当時、予備紙上限を実配部数の2%とする業界の自主規制平成10年すでに撤廃されており、平成11年押し紙禁止規定の改正かつての「注文部数」の文言「注文した部数」に変更されていました。その結果、新聞社は販売店が「注文した部数」を超え部数を供給しなければ「押し紙」でないという解釈に基づき押し紙を利用した公然たる部数拡張競争公然と繰り広げる状況が発生していました。全国的に、実際には販売していない新聞をABC部数として計上・公表するいびつな状況が生まれてたのです

真村裁判の勝訴判決を機に、押し紙に関する相談次々と持ち込まれるようになりましたが、多くのケースで押し紙率、新聞業界自身が定めた上限2パーセントどころか40から50パーセントんでいました。

公正取引委員会は平成9年の北國新聞社の押し紙事件を機に、それまでの押し紙禁止規定の新聞業界による自主規制の方針を変更し、直接取り締まることを宣言します。その結果、新聞社は上限2パーセントの制約から解放されます。さらに、平成11年の押し紙禁止規定の「注文部数」の文言「注文した部数」に改定されたため、新聞社は販売店が注文した部数を超えなければ押し紙ではないという身勝手な解釈に基づき、発行部数を際限なく増やしていきました。

北國新聞事件を機に押し紙はむしろ増大していったのです。押し紙を直接取り締まることを宣言した公正取引委員会も北國新聞社事件以降はまともな取り締まりうこともなく、サボタージュしたまま現在に至っています。

最近、国会で押し紙問題が再び取り上げられるようになっていますが、国会の質疑をみても公正取引委員会からは押し紙を積極的になくそういう熱意は伝わってきません。

ちなみに平成9年の北國新聞事件の当時と平成11年の押し紙禁止規定の「注文部数」の「注文した部数」への文言の改定当時の公正取引委員会委員長は、後に日本プロ野球連盟のコミッショナーに就任する元東京高等検察庁長官の根来泰周氏でした

根来氏が公正取引委員会委員長として、当時、押し紙問題にどのようにかかわってきたのか、読売新聞社の渡邉恒雄氏との関係を含め今後の解明が待たれるところです。(注:根来氏は2013年11月に死去されています。)

 話は変わりますが、静岡県清水市味噌製造会社の専務一家4人が殺害された強盗殺人・放火事件の犯人として死刑判決が確定していた元プロボクサーの袴田巌さんの無罪が、この度の再審無罪判決によりようやく確定しました。静岡大学で青年期を過ごした私には、袴田事件ともう一つの再審事件島田事件は忘れられない冤罪事件です。

当時、大学の先輩弁護士たちが、私たち学生に現地学習会への参加を呼び掛けていました。証拠の捏造までして袴田さんの人生を踏みにじった警察・検察のみならず、無罪を進言する同僚裁判官の意見を無視して死刑の有罪判決をくだした裁判官に対する国民の不信感は極めて大きなものがあります。司法の信頼を取り戻すために、弁護士を含め司法関係者の再発防止のための真剣な努力が求められています。

西日本新聞社を被告とする本件押し紙裁判は、当初若手裁判官の単独事件として受理され、早々に和解が打診されました。押し紙裁判として異例な対応です。ほどなくして3人の裁判官による合議体に審理は移行しましたが、そこでも裁判官は、これまでの見られなかったような詳細な争点整理表を作成し、原告・被告の双方の代理人弁護士に検討を求めるなど、押し紙問題の解決に向けて熱心に取り組む姿勢を示されました。

 そのような正常な流れを辿っていたにもかかわらず、昨年4月1日付で三名の新たな裁判官が福岡地裁に転任され、この押し紙裁判を担当されるようになりました。

私どもは、押し紙裁判で担当裁判官の奇妙な人事異動が行われるケースを経験しておりますので、本件の担当裁判官3名全員の交代にいささか懸念を覚えております。しかし、この名の裁判官原告本人と被告側の証人の証言を法廷で直接聞いておられますので、私どもの主張に十分耳を傾けた判断を示してくれる期待しているとろです。

 ネット社会のすみずみまでの普及と歩調を合わせるように紙の新聞の衰退が急速に進んでいます。そのような時代背景の中で本件押し紙裁判の判決がどのような結論になるのか、また、その理由はどのようなものになるのか、福岡地裁の判断を皆様と一緒に見届けたいと思います。

今後も裁判の進捗状況は逐一報告し続けたいと思いますので、皆様のご支援のほどをよろしくお願い申し上げます。

                                 以上

🟢写真と本文は関係ありません。

 

2024年07月08日 (月曜日)

―モラル崩壊の元凶、「押し紙」― 西日本新聞・押し紙訴訟の報告

福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団 弁護士・江上武幸(文責)

去る7月2日、西日本新聞販売店を経営していたAさんが、押し紙の仕入代金3051万円の損害賠償を求めた福岡地裁の裁判で、被告の担当員と販売部長の証人尋問が実施されました。双方の最終準備書の提出を待って、早ければ年内に判決が言い渡される見込みです。

押し紙は、新聞社が販売店に対し経営に必要のない部数を仕入れさせることをいいます。販売店への売上を増やすと同時に、紙面広告料の単価を吊り上げるためABC部数の水増しを目的とする独禁法で禁止された違法な商法で
す。

押し紙は、1955年(昭和30年)の独占禁止法の新聞特殊指定で禁止されてから約70年になります。このような長い歴史があり、国会でも再三質問に取り上げられてきたにもかかわらず、なぜ押し紙はなくならないのか、公正取引委員会や検察はなぜそれを取り締まろうとしないのか、押し紙訴訟に見られる裁判官の奇怪な人事異動の背景にはなにが隠されているのか、といった問題については、マスコミ関係者、フリージャーナリスト、新聞労連、独禁法研究者、公正取引委員会関係者、司法関係者など多方面の関係者、研究者・学者らによって更に解明が進められることが求められます。

新聞の発行部数は1997年(平成9年)の5376万部をピークに、2023年(令和5年)10月には2859万部と半世紀で約46%も減少しています。新聞販売店も2004年(平成16年)の2万1064店舗から、2023年(令和5年)の1万3373店舗と大きく減っています。

このまま推移すれば、10数年後には紙の新聞はなくなるだろうと予想されており、現在進行中の裁判の経過や背景事情について、時期を失せず皆様にお知らせすることはますます重要性を増しています。

西日本新聞社は、販売店からの注文は書面やメールではなく電話で受け付けていると主張しています。他の新聞社が、販売店の注文はFAXやメールで受けているのを認めているのに対し、西日本新聞社は別途注文部数を記載した注文表のFAX送信を指示しているにもかかわらず、販売店から電話で受けつけた部数が正規の注文部数であるとの主張をくずそうとしていません。

FAXやネットではなく電話で受けた部数が正規の注文部数であると主張するメリットは、電話の会話には文字情報の記録が残らないからです。

押し紙裁判では、販売店経営に真に必要な部数を超える新聞がどれだけ多く供給されているかが審理の出発点となります。

西日本新聞社は販売店が電話で注文した部数が正式な注文部数であり、その部数を供給しているにすぎないと主張しているため、その主張をくつがえすには、電話の会話を録音する以外に他に適当な方法がありません。福岡市西部の西日本新聞・今津販売店の場合、店主は電話で報告した部数をノートに記録して残す方策を構じたものの、電話の会話を録音することまではしていませんでした。

私どもは、ノートに記載した部数は電話による注文部数と同じであるとの立証趣旨でノートを提出しましたが、西日本新聞社はノートに記載された実配数に多数の間違いがあると指摘し、ノートに記載された部数全体の信用性を争う訴訟戦術に出ました。裁判所も結局、西日本新聞社のこの主張を認め今津販売店の損害賠償請求を棄却しました。

今回は、佐賀県で販売店を経営していたBさんが電話で報告した部数を所定の用紙に書き込んで記録として残すだけでなく、電話の会話も録音していましたので、西日本新聞社はBさんが電話で報告した部数と記録された部数とが一致していることは認めざるを得なくなりました。

他方、Aさんは電話録音をしていませんので、録音データーを証拠に提出することは出来ませんが、Bさんが提出した証拠はAさんの裁判でも有利な証拠として利用することが出来ましたので、裁判所はAさんの主張を無下に退けることが難しくなったと見ています。

もう一つの成果は、電話で報告を受けた担当員は、報告部数をその場でメモし、後刻、長崎県全体の販売店ごとに、電話による報告部数と定数を一覧表に整理して記録している事実を認めたことです。

販売店毎の実配数がわかれば、広告主から公正取引委員会に対する押し紙の調査や、警察・検察に対し広告料の詐欺罪の告訴・告発が可能となります。

私は以前、ある新聞社の販売店経営者から、「押し紙をなくすために、まず自分が地元の警察に折込広告料の詐欺罪で自首しようと思っているがどうだろうか。」との相談を受けたことがあります。新聞社と販売店は折込広告料の詐欺罪の共犯関係にあるので、まず自分が自首して新聞業界の押し紙問題を世間に訴えたいというのです。

私は、「警察・検察・裁判所などの司法機関は、記者クラブなどの便宜供与にみられるように、新聞社と日常的に密接に交流しており、基本的には持ちつ持たれつの関係にあると考えた方が良い。仮に自首しても、新聞社は押し紙はしていないと言い張るし、新聞やテレビで報道されることもない。詐欺罪で立件されるとしても犯人はあなただけにされますよ。そうなれば家族を路頭に迷わせ、あなた自身の人生も台無しになるので、自首することは考えないほうがいいですよ。」といって、警察や検察への自首を断念させたことがありました。

今回は、部外秘の佐賀県販売店の部数報告書を内部関係者が公益通報してくれましたので、4・10増減の問題(*注記参照)と併せて、西日本新聞社の折込広告料の詐欺の事実は認定可能ではないかと考えます。

しかし、民事裁判だけでなく、公正取引委員会や、警察・検察庁に対する詐欺の容疑の証拠資料として提出することは決断しかねています。予想される社内圧力により、内部からの公益通報がなくなる危険性が懸念されるからです。

最後に、個人的感想を述べますが、西日本新聞社の押し紙は、読売・朝日等の中央紙の地方進出の防戦のために余儀なくされた側面がないとはいえないと思っています。私は当年73歳になりますが、福岡県南部の農村で生まれ育っており、家の購読紙は西日本新聞でした。

役場の職員の方が朝日新聞を購読しておられるのを知り、インテリの人は読む新聞が違うなと妙に感心したことを思い出します。当時、夏と冬休みの期間中の新聞配達は村の子供達の仕事でした。アルバイト代として10円玉を何枚か握らせてもらった時のうれしさは今でも覚えています。

新聞記者は若者のあこがれの職業でしたので、西日本記者に就職した友人・知人もおります。そのほとんどは社の幹部として定年を迎え、悠々自適の生活を送っています。

隣県の熊本日々新聞社は昭和40年代に予備紙2%の業界の自主目標を達成していますので、私はその事実を法廷で紹介しながら、担当員に、「熊本日日新聞社に習って西日本新聞でも押し紙をなくそうという動きはなかったのですか」と質問しました。比較的若い担当員でしたが、「他社のことですから」と口ごもりながら答えをはぐらかしてしまいました。

政治家、行政・司法官僚、大企業の役員、やくざや半ぐれなど、白アリが木造物を食い尽くすように、社会の隅々までモラルの崩壊現象が発生しています。私は、目を背けたくなるようなこれらのモラル崩壊の元凶は、新聞の押し紙にあると確信をもっていうことが出来ます。

最近、ユーチューブの番組をよく見るようになりましたが、様々な分野の人たちが新聞・テレビでは報道されない問題を分かりやすく紹介してくれています。インターネット社会の情報変化をつくづく感じています。

グーグルで「押し紙」を検索すると黒薮哲哉さんだけでなく、他の多くの人達による押し紙問題の調査・報道の記事、動画があふれるように出てきます。黒薮さんは、今回の裁判に、遠路わざわざ福岡市まで駆けつけていただき、西日本新聞社の証人の証言をいち早く記事にして発信していただきました。

インターネット上の押し紙に関する記事や動画は、海外のマスメディア関係者、公正取引委員会関係者、国会・地方議会の議員、学者・研究者など、関係各方面の多種多様な方たちが閲覧しておられます。本件裁判の行方についても、新聞業界関係者だけでなく、多くの方達から見守っていただいています。

押し紙問題に関する内部情報については匿名で結構ですので、私どもに公益通報していただくようお願いする次第です。

押し紙の解決のために、引き続き皆様のご支援・ご鞭撻をお願いして、今回の報告といたします。

* 4・10増減について
西日本新聞の郡部の販売店の場合、折込広告部数は4月と10月の年2回の定数が基準とされています。その月だけ約200部も多い部数が供給されています。
   折込広告主は、折込広告会社の公表部数を信頼して枚数を発注します。あらかじめ押し紙を見込んで7掛けや8掛けで部数を発注する賢い折込広告主もいますが、自治体の広報紙などは公表部数通りの部数を発注しますので完全に税金の無駄使いが行われています。

注:「押し紙」の写真は西日本新聞とは関係ありません。

2024年07月03日 (水曜日)

西日本新聞「押し紙」裁判、証人尋問で残紙部数を把握した機密資料の存在を認める、担当員「私が作りました」

長崎県の元販売店主が2021年に起こした西日本新聞社を被告とする「押し紙」裁判の尋問が、7月2日の午後、福岡地裁で行われた。この中で証人として出廷した西日本新聞社の担当員は、原告弁護士の質問に答えるかたちで、同社が管轄する長崎県全域の販売店の残紙の実態を示す機密資料が存在することを認めた。

すでに佐賀県下の販売店については2016年に、この種の資料が存在することが、メディア黒書への内部告発で明らかになっていた。今回の尋問により、長崎県についても、同種の資料を西日本新聞社が内部で作成していた事実が分かったのだ。

既に暴露されている「佐賀県の資料」によると、西日本新聞社は、8月3日に販売店からの新聞の注文部数を確認し、その後、6日に販売店に新聞を搬入していた。しかし、搬入部数が注文部数を超えていた。

たとえば3日の注文部数が2000部で、6日の搬入部数が2200部であれば、差異の200部が残紙ということになる。たとえば次のように。

新聞社にとって実配部数と公称部数の両方を正確に把握することは、経営戦略の基本である。実際、毎日新聞社にも、「発証数の推移」と題する同じ性質の機密資料が存在することが、2005年に暴露された。朝日新聞でも、この種の資料の存在が内部告発で明らかになっている。

今回の尋問の中で、西日本新聞社の担当員は、佐賀県を対象とした機密資料だけではなく、原告店主が販売店を経営していた長崎県についても、同種の資料が存在することを認めたのである。そのうえで、

「わたしが作りました」

と、証言した。

参考記事;「押し紙」の決定的証拠、西日本新聞の内部資料を公開、佐賀県下の販売店ごとの「押し紙」部数が判明

 

◆◆

この裁判では4・10増減(よんじゅう・そうげん)」がひとつの争点となっている。これは4月と10月に搬入部数を増やす新聞社の販売政策で、新聞業界では昔から周知の手口となっている。新聞社が販売店に対して注文部数を指定していることを示す典型例に外ならない。

今回の裁判を起こした元店主の販売店では、4月と10月におおむね200部がかさ上げされていた。

次に示すのは、2017年3月・4月・5月の搬入部数である。中央が突出する部数の増減に着目してほしい。

2017年3月 :1115部
2017年4月 :1315部
2017年5月 :1116部

西日本新聞社は4月に搬入部数を増やし、5月に減部数している。さらに次に示すように、同年9月から11月にかけても、搬入部数が増減する。同じパターンである。

2017年9月:946部
2017年10月:1316部
2017年11月:1116部

10月に搬入部数を増やし、11月に減部数している。

4月と10月をピークに設定したのは、元店主の販売店があった長崎県下の郡部では、4月と10月のABC部数が広告(紙面広告・下り込み広告)の媒体価値を評価する指標となっていたからだ。

実際、尋問の中で、西日本新聞社の販売局員は、これらの月の新聞発行部数を日本ABC協会へ報告したと証言した。実配部数とABC部数の乖離がひろがることを認識しながら、ABC協会へ部数を計上していたことになる。

◆◆

参考までに、4大中央紙の4月部数・10月部数の変動は次のようになっている。このデータだけでは、「4・10増減」とは、断言できないが、全国規模の部数を見ても、「4・10増減」の傾向があることは間違いない。

2024年07月01日 (月曜日)

7月2日に尋問、西日本新聞の「押し紙」裁判、福岡地裁で、「4・10増減(よんじゅう・増減)」をどう見るか?

西日本新聞社を被告とする「押し紙」裁判の尋問が、次のスケジュールで実施される。

場所;福岡地裁 903号法廷
日時:7月2日 13時から17時
被告:西日本新聞社

この「押し紙」事件では、業界用語でいう「4・10増減(よんじゅう・増減)」が問題になっている。4・10増減とは、4月と10月に「押し紙」を増やす販売政策である。4月と10月のABC部数が、折込広告の定数を決める重要な目安になることから、新聞社が4月と10月に「押し紙」を増やしてABC部数をかさ上げする手口である。広告主の怒りをかいかねない販売政策にほかならない。

原告の元店主は、「4・10増減(よんじゅう・増減)」の被害を受けており、裁判所がそれをどう判断するかが注目されている。

【参考記事】元店主が西日本新聞社を「押し紙」で提訴、3050万円の損害賠償、はじめて「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)」問題が法廷へ、訴状を全面公開

 

 

 

2022年12月02日 (金曜日)

西日本新聞に対する「押し紙」裁判の訴状を公開、20年の「押し紙」追及と研究の果実、注目される「債務不履行」についての審理

既報したように西日本新聞の元店主が、11月14日に福岡地裁へ「押し紙」裁判の訴状を提出した。代理人を務めるのは、「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士ら)である。

本稿で、訴状の中身を紹介しよう。結論を先に言えば、弁護団の20年を超える「押し紙」追及と研究の成果を結集した訴状になっている。訴状の全文とそれに関連する資料は、次のPDFからダウンロードできる。

訴状

「押し紙」一覧

資料(「押し紙」の定義に関する法律と規則)

◆◆

原告の元店主が請求している額は、2011年6月1日から2021年5月31日までの10年間に被った「押し紙」による被害と、訴訟に要する弁護士費用など総計で約5700万円である。

原告弁護団が請求の根拠としているのは次の3点である。

 

1, 公序良俗違反

民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と述べている。つまり社会通念を踏み外したとんでもな方法で、ビジネスを展開した場合など、ビジネスの根拠となっていた契約を白紙に戻す法律である。「押し紙」裁判では、無駄な新聞を大量に押し売りする行為が公序良俗に違反するかどうかが審理される。折込広告の廃棄や環境破壊も考察点になる。

 (写真は、本文とは関係ありません)

 

2, 不法行為

不法行為についての審理では、西日本新聞が元店主に対して、新聞を押し売りしたかどうかが争点になる可能性が高い。これは旧来の「押し紙」裁判で中心的な争点になってきたテーマである。原告は、新聞の買い取りを強制された事実を立証しなければならない。

従来の「押し紙」裁判では、裁判所は新聞社が新聞の買い取りを強制した事実をなかなか認めない傾向があった。たとえば日経新聞の「押し紙」裁判では、店主が少なくとも20回に渡って書面で「押し紙」を断ったにもかかわらず、販売局と店主の間で「注文部数」の決定について、議論をしたから強制には当たらないと判断した。論理が極端に飛躍しているが、「押し紙」裁判では、このレベルの幼稚な判定がまかり通っている。「押し紙」裁判が不透明だと言われる理由のひとつである。

新聞社による不法行為を否定することで裁判所は、延々と「押し紙」を放置してきたのである。

過去の「押し紙」裁判の傾向をみると、詭弁が最も多いのが不法行為に関する審理である。

 

3, 債務不履行

債務不履行についての審理は、最近の「押し紙」裁判の中で、新しい視点として浮上してきたテーマである。

商契約の中で西日本新聞は、販売店に対して法規を尊重したうえでビジネスを展開することを確約させている。しかし、相手方に法令遵守を求めるからには、みずからも法令を遵守しなければならないというのが一般的な法解釈である。

それを前提にした場合、新聞社は独禁法の新聞特殊指定を遵守して、販売店に真に必要な新聞部数を届ける義務がある。実際、西日本新聞が販売店の送る請求書には、「貴店が新聞部数を注文する際は,購読部数(有代)に予備紙等(有代)を加えたものを超えて注文しないで下さい。本社は,貴店の注文部数を超えて新聞を供給することは致しません」という注意書きをしている。

一方、独禁法の新聞特殊指定の下では、新聞の「注文部数」を次のように定義している。

【引用】「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。

※出典:1964年に公正取引委員会が交付した新聞特殊指定の運用細目

具体的にいえば、「実配部数+予備紙」の合計を「注文部数」(必要部数)と見なし、それを超える部数は、理由のいかんを問わず、原則として「押し紙」である。新聞の発注書に販売店が記入した外形的な「注文部数」と、特殊指定の下での「注文部数」とは意味が異なる。これを混同していたのが従来の「押し紙」裁判なのである。

従って西日本新聞が残紙の存在を認識していれば、その残紙は「押し紙」という判定になる。

この裁判では、西日本新聞が実配部数を把握していた証拠が残っている。従って西日本新聞は、新聞特殊指定でいう「注文部数」を越えて、新聞を提供していたことになる。

「債務不履行」についての審理では、部数の強制があったかどうかといった点は、枝葉末節であって、搬入されていた新聞の部数が新聞特殊指定が定義している「注文部数」を越えていたかどうかが、中心的なテーマとなる。

 (写真は、本文とは関係ありません)

◆◆

今後の「押し紙」裁判でも、債務不履行に関する審理が中心的な論点になる可能性が高い。

従来、「押し紙」の定義は、「新聞社が販売店に押し売りした新聞」とされてきた。しかし、新聞特殊指定の下での定義は、既に述べたようにかなり異なっており、「実配部数+予備紙」からなる「注文部数」を超えた新聞部数の事である。強制があったかどうかは、2次的な問題なのである。

佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月判決)では、新聞特殊指定の下での「押し紙」の定義が「押し紙」弁護団から提唱され、裁判所もそれを参考にした可能性が高く、佐賀新聞社の独禁法違反を認定した経緯がある。

 

 

西日本新聞を提訴、「押し紙」裁判に新しい流れ、「押し紙」の正確な定義をめぐる議論と展望

「押し紙」裁判に新しい流れが生まれ始めている。半世紀に及んだこの問題に解決の糸口が現れてきた。

11月14日、西日本新聞(福岡県)の元店主が、「押し紙」で損害を被ったとして約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。訴状によると元店主は、2005年から2018年までの間に3店の販売店を経営した。「押し紙」が最も多い時期には、実配部数(実際に配達する部数)が約1300部しかないのに、約1800部の新聞が搬入されていた。

他の「押し紙」裁判で明らかなった「押し紙」の実態と比較すると、この販売店の「押し紙」率は低いが、それでも販売店経営を圧迫していた。

この裁判には、どのような特徴があるのだろうか?

◆多発する「押し紙」裁判、読売3件・西日本2件・日経1件

「押し紙」裁判は、今世紀に入ることから断続的に提起されてきた。しかし、新聞社の勝率が圧倒的に高い。裁判所が、新聞社の「押し紙」政策の存在を認定した例は、わたしが知る限りでは過去に3例しかない。2007年の読売新聞、2011年の山陽新聞、2020年の佐賀新聞である。

※2007年の読売新聞の裁判は、「押し紙」が争点になったが、地位保全裁判である。

現在、わたしが取材している「押し紙」裁判は、新たに提起された西日本新聞のケースを含めて次の6件である。

・読売新聞・東京本社VS販売店(東京高裁)
・読売新聞・大阪本社VS販売店(大阪地裁)
・読売新聞・西部本社VS販売店(福岡地裁)
・日経新聞・大阪本社VS販売店(大阪高裁)
・西日本新聞VS販売店1(福岡地裁)
・西日本新聞VS販売店2(福岡地裁)

販売店主の中には、新聞社の販売局員から面と向かって、

「あんたたちが裁判を起こしても、絶対に勝てないから」

と、冷笑された人もいる。確かにここ1年半ぐらいの間に裁判所が下した判決を見ると、残紙の存在が認定されているにもかかわらず販売店が3連敗しており、「押し紙」裁判を起こしても、販売店に勝算がないような印象を受ける。その敗訴ぶりも尋常ではない。いずれの裁判でも、判決の言い渡し日が2カ月から3カ月延期された末に、裁判所が販売店を敗訴させた。しかも、3件のうち、2件では最高裁事務総局が裁判官を交代させている。つまり裁判の透明性に明らかな疑問があるのだ。

◎参考記事:産経「押し紙」裁判にみる野村武範裁判長の不自然な履歴と人事異動、東京高裁にわずか40日

新聞社が日本の権力構造の歯車に組み込まれ、世論誘導の役割を担っているから、裁判所や公正取引委員会などの公権力機関が「押し紙」問題を放置する方針を取っている可能性が高いと、わたしは考えている。認識できないだけであって、ほとんどの国でメディアコントロールは国策として巧みに組み込まれているのである。

◆新聞特殊指定の下における「押し紙」とは?

しかし、販売店を敗訴させる判決は、原告の理論上の弱みに付け込んでいる側面もある。その理論上の弱みとは、新聞の「注文部数」の定義に関する不正確な見解である。

通常、「注文部数」とは、販売業者が卸問屋に対して発注する商品の数量のことである。たとえばコンビニの店主が、牛乳を10パック注文すれば、注文数は10個である。同じように新聞販売店の店主が新聞を1000部注文すれば、それが注文部数ということになる。このような「注文部数」の定義は、半ば空気のようにあたりまえに受け入れられている。わたし自身も「押し紙」問題を扱った旧著や記事で、「注文部数」をそのように捉えてきた。しかし、これは誤りである。

今、この旧来の「注文部数」の定義の再考が始まっている。

「押し紙」問題に取り組んできた江上武幸弁護士は、新聞は特殊指定の商品であり、特殊指定の下での「注文部数」の定義は、コンビニなど一般的な商取引の下での「注文部数」の定義とは異なると主張している。

実際、1964年に公正取引委員会が交付した新聞特殊指定の運用細目は、「注文部数」を次にように定義している。

「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。

※注:文中の地区新聞公正取引協議会とは、日本新聞協会に加盟している新聞社で構成する組織である。実質的には日本新聞協会そのものである。

この定義によると新聞の商取引における「注文部数」とは、実際に販売店が配達している部数に予備紙の部数(搬入部数の2%とされている)を加えた総部数(「必要部数」)のことである。この「必要部数」を超えた部数は、理由のいかんを問わず機械的に「押し紙」という分類になる。販売店と新聞社が話し合って「注文部数」と決めたから、残紙が発生しても「押し紙」には該当しないという論理にはらないらい。

新聞特殊指定の下における「注文部数」とは、「実配部数+予備紙」の総数のことなのである。

江上弁護士は、独禁法の新聞特殊指定が作成された経緯を詳しく調べた。その結果、一般に定着している「押し紙」の定義--「押し売りされた新聞」という定義が、微妙に歪曲されたものであることが分かった。この誤った定義の下では、新聞社は販売店の「注文部数」に応じて、新聞を提供しただけで自分たちに新聞を押し売りした事実はないと主張できる。「押し紙」問題の逃げ道があるのだ。

公正取引委員会は、新聞特殊指定の下で、「注文部数」の定義を厳格にすることで、社会問題になり始めていた「押し紙」を取り締まろうとしたのである。

◆佐賀新聞の独禁法違反を認定

この理論を江上弁護士が最初に提示した裁判は、2020年5月に判決があった佐賀新聞の「押し紙」裁判である。この裁判で佐賀地裁は、佐賀新聞社に対して1066万円の損害賠償を命じた上に、同社の独禁法違反を認定した。

江上弁護士が打ち出した「押し紙」の定義を裁判所が無条件に認めたわけではないが、裁判官は法律の専門家なので、法律が規定している客観的な定義を考慮に入れて、判決を書かざるを得なかった可能性が高い。新聞特殊指定の下における客観的な「押し紙」の定義が示されているのに、それを無視して判決を下すことは、プロの法律家としての良心が許さなかったのだろう。

11月14日に提起された西日本新聞の「押し紙」では、「押し紙」の定義が、重要な争点のひとつになる可能性が高い。それを前提として、新聞社の公序良俗違反や押し売りなどの不法行為などが検証される。新聞社の詭弁は、徐々に通用しなくなっている。

この裁判の原告代理人を務めるのは、江上弁護士らである。

■初出、「デジタル鹿砦社通信」

2022年11月15日 (火曜日)

押し紙弁護団が報告書を公開、西日本新聞を被告とする「押し紙」裁判で、報道自粛の背景に「押し紙」問題

押し紙弁護団(江上武幸弁護士、他)は、14日に提訴した西日本新聞の「押し紙」裁判の提起に続いて、最新の「押し紙」裁判についての報告書を公表した。全文は、次の通りである。

 

「西日本新聞押し紙訴訟」追加提訴のご報告

2022年(令和4年)11月15日

福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団
                                                弁護士 江上武幸(文責)

この度、当弁護団は、佐賀県の西日本新聞販売店元経営の●氏を原告として5718万円(弁護士費用を含む)の押し紙仕入代金の返還を求める裁判を福岡地方裁判所に提訴しました。当弁護団は他にも西日本新聞社・読売新聞西部本社・読売新聞大阪本社を被告とする裁判をかかえており、いずれも最終局面を迎えています。全国的には、他の弁護士による訴訟が各地で提訴されており、今後も同様の裁判が続くことが予想されます。

新聞社の収入は販売店の仕入代金と紙面広告料の二本立てになっています。そのため、新聞業界では、販売店に経営に必要のない新聞を供給して仕入れ代金を不当に利得し、ABC部数を大きくして高額の紙面広告料を得ることを目的とした押し紙が古くから半ば公然と行なわれてきました。

昭和30年の新聞特殊指定で押し紙が禁止されましたが、それから67年が経過した現在も多くの新聞社は押し紙問題を自主解決できないまま今日に至っています(注:私どもが知る限りでは、熊本日々新聞は押し紙問題を自主解決しています。)。

急速な新聞離れと新聞広告収入の減少により、中央紙・地方紙を問わず新聞社の経営は極めて深刻な状況だといわれています。パソコンやアイホンの普及によって、紙の新聞の存続すら危ぶまれる時代になっています。そのような現実に直面し、新聞社はますます押し紙をやめようにもやめられなくなっているではないでしょうか。

これまでも、販売店経営者の入れ替わりは激しかったのですが、最近はいよいよ末期的症状を呈しているようです。販売店主の間では、借金を残さないで廃業できた販売店はまだ益しであるとの会話が交わされています。

押し紙は販売店経営者を苦しめるだけでなく、紙面広告料・折込広告料の詐欺であり、貴重な資源や労力の無駄づかいであり、新聞業界にあってはならない行為です。

社会の木鐸たるべき新聞社が、自社の利益のために長年にわたり押し紙を続け、その結果、経営陣だけなく記者や一般社員に至るまで法令遵守(コンプライアンス)意識の欠如やモラル崩壊がおきているとしても不思議ではありません。

旧統一教会と政権党との関係や、東京オリンピックをめぐる贈収賄事件など、本来、新聞社が真っ先に調査報道すべきだったと思われるニュースが何故これまで報道されてこなかったのか、その背後に押し紙問題のやましさが隠されているとしたら、憲法により知る権利を保障されている国民にとって、これほど不幸なことはありません。

私達弁護団は、押し紙問題はもはや司法の力に頼るしか解決の道はないと考えていますが、かならずしも三権分立の徹底していない司法制度のもとで、押し紙裁判を担当する裁判官が、司法の独立を堅持して押し紙撲滅のための抜本的な解決の道筋を示してくれるかどうかについても注目したいと思います。

「日本中枢の崩壊」(元通産官僚古賀茂明著)、「黒い巨頭最高裁判所」(瀬木比呂志元裁判官著)、「面従腹背」(前川喜平元文部事務次官著)、「アメリカに潰された政治家たち」(孫崎亮元外交官著)、「日本会議の正体」(ジャーナリスト青木理著)等の著作を読むとき、「風に立つライオン」(さだまさし作詞・作曲)の一節に「やはり僕たちの国は、残念だけれども何か大切な処で、道を間違えたようですね。」という歌詞が浮かんできます。

押し紙によって新聞販売店を廃業せざるを得なかった原告の皆さん方は、自身の損害の回復を求めるだけでなく、あとに残された販売店経営の方達が、胸をはって押し紙のない販売店経営ができるようにと願って裁判に立ち上がっておられます。新聞業界の将来を担う若い記者や担当の皆さん達が、正義感を奮い起こして、それぞれの社がかかえる押し紙問題の解決に向かって立ち上がられるよう期待しています。

以上

 

2022年11月14日 (月曜日)

【臨時ニュース】西日本新聞を提訴、「押し紙」による被害5700万円の損害賠償

【臨時ニュース】

西日本新聞の元店主が、「押し紙」で被害を受けたとして14日、約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。「押し紙」率は、最大で搬入部数の約25%程度。10%を下回っている時期もあり、相対的にはこれまで提起された「押し紙」裁判の例よりも低い。

原告代理人は、「押し紙」問題に取り組んでいる福岡の「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士)が担当する。同弁護団は、佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月15日判決)では、佐賀新聞による独禁法違反を認定させる判決を勝ち取っている。

詳細は後日。

2021年09月18日 (土曜日)

西日本新聞の「押し紙」裁判、裁判官が「和解に応じることはありますか」、4月と10月に過重な「押し紙」、その背景に広告営業の戦略

西日本新聞の元販売店主・下條松治郎さんが起こした「押し紙」裁判の第1回口頭弁論が、9月16日に福岡地裁で開かれた。被告の西日本新聞社は、擬制陳述を行った。

※擬制陳述:第1回の口頭弁論に限って、答弁書の提出を条件に、被告の出廷が免除される制度

出廷した原告弁護団によると、裁判長は原告の主張を確認した後、和解に関する弁護団の方針について意思を確認したという。

「裁判官から和解に応じることはありますかと聞かれ、ハイと答えたところ、『和解が有りなら裁判の体制が単独になるかも知れません、もちろん合議制になるかも知れませんが』と言われました」

第1回口頭弁論で、裁判官が和解に関する当事者の考えを確認するのは異例だ。その背景に、司法関係者が「押し紙」問題の本質を理解しはじめた事情があるのかも知れない。

◆◆
今年の7月27日、長崎県で西日本新聞の販売店を経営していた下條さんは、「押し紙」で損害を受けたとして、西日本新聞社に対し約3050万円の支払いを求める裁判を起こした。原告代理人は、江上武幸弁護士ら、「『押し紙』弁護団」が担当している。

この裁判の重要な争点のひとつに、「4・10増減」(よんじゅう・ぞうげん)と呼ばれる新聞社の販売政策がある。「4」は4月のABC部数を、「10」は10月のABC部数を意味する。
新聞社は、4月と10月に「押し紙」を増やすことによりABC部数をかさあげする。と、いうのも4月と10月のABC部数が、紙面広告の媒体価値を評価する祭のデータになるからだ。また、折込広告の営業の際に、広告主に提示する折込定数(適正な折込広告の枚数)の基礎データとなるからだ。

4月のABC部数は、6月から11月までの広告営業に使われる。また、10月のABC部数は、12月から翌年5月までの広告営業に使われる。広告主にとっては、悪質な「騙しの手口」であるが、多くの新聞社が販売政策として採用してきた。公正取引委員会や警察も、それを放置してきた。

下條さんが起こした「押し紙」裁判では、この「4・10増減」がはじめて法廷で審理される。

【参考資料】

■訴訟

■「押し紙」一覧

◆◆
なお、4・10増減は、かつてはあたりまえに行われていた。次に示すのは、2004年から2008年のデータである。調査対象の新聞社は、朝日、読売、毎日、産経の4社である。グレーの部分で4・10増減が確認できる。

2021年07月28日 (水曜日)

元店主が西日本新聞社を「押し紙」で提訴、3050万円の損害賠償、はじめて「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)」問題が法廷へ、訴状を全面公開

長崎県で西日本新聞の販売店を経営していたSさんが、「押し紙」で損害をうけたとして、西日本新聞社に対し約3050万円の支払いを求める裁判を福岡地裁で起こした。福岡地裁は、27日に訴状を受理した。原告代理人は、江上武幸弁護士ら、「『押し紙』弁護団」が務める。

訴状によると、Sさんは2015年4月1日から2020年11月30日まで、西日本新聞エリアセンター「AC佐々・AC臼の浦」を経営した。

◆4月と10月に搬入部数が増加

この裁判で注目される争点のひとつは、水面下で問題になってきた「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)と呼ばれる販売政策である。

「4・10増減」とは、新聞社が4月と10月を対象に、販売店に対する搬入部数を増やす販売政策のことである。4月と10月のABC部数が、広告営業のための公表データとして普及している事情があるからだ。

新聞社は4月と10月の搬入部数を水増しすることでABC部数をかさ上げし、優位に広告営業を展開する。クライアントに対して、より高額な広告料金を提示できる。販売店も折込広告の収入が増える可能性があるが、その反面、「押し紙」の負担が増え、結局、なんの益にもならに場合が多い。

次に引用するのは、訴状に添付された「押し紙」一覧表から抜粋した2017年3月・4月・5月の搬入部数である。部数の増減に着目してほしい。

2017年3月 :1115部
2017年4月 :1315部
2017年5月 :1116部

西日本新聞社は4月に搬入部数を増やし、5月に減部数している。さらに次に示すように、同年9月から11月にかけても、搬入部数が増減する。同じパターンである。

2017年9月:946部
2017年10月:1316部
2017年11月:1116部

10月に搬入部数を増やし、11月に減部数している。

このように西日本新聞社は、4月と10月をターゲットとして搬入部数を増やす販売政策を採用していた疑惑がある。そのことは、「押し紙」一覧でも確認できる。

「押し紙」一覧

訴状の中で、原告は「4・10増減」について次のように述べている。

被告は原告ら販売店に対する押し紙行為のひとつとして、本件で特徴的なものとして、4月と10月に他の月よりABC部数を増加させる「4・10増減」と呼ばれる販売方法をとっている。

紙面広告や折込広告を発注する広告主は、毎年4月と10月のABC協会が発表するABC部数(新聞社の新聞発行部数)を紙面広告や折込広告の発注部数を決定する指標として用いており、ABC部数は、広告媒体価値を決める上で、重要な役割を持つものとして知られている。そのため、発行本社としては、4月及び10月時点の発行部数が多ければ多いほど、広告料収入が増えることになり、その反射的効果として、販売店の折込収入が増えることとなる。

 そこで、被告は、原告に対する供給部数を4月と10月に外の月より増やす方策をとっている(以下「4・10増減」という。)。

◆新聞特殊指定に則した「注文部数」の解釈

独禁法の新聞特殊指定は、新聞社が「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること」を禁止している。法廷でこの点を検証する前提となるのが、新聞特殊指定に則した「注文部数」の解釈である。コンビニなど普通の商取引においては、「注文部数」とは、単純に販売業者が注文した部数を意味する。

これに対して、新聞特殊指定の下における「注文部数とは販売業者が発行本社に注文する部数ではなく、販売業者がその経営上真に必要であるとして、実際に販売している部数にいわゆる予備紙、予備紙等を加えた部数のことである」(訴状)というのが、原告の主張である。

「注文部数」の解釈の重要性について、原告は訴状の中で、次のように述べている。

*なお、過去の押し紙裁判において、新聞社側は「注文部数」の解釈について、販売店が新聞社に文字通り「注文する部数」を意味しており、新聞社は販売店契約の新聞供給義務に基づき販売店が注文した部数を供給しているにすぎず、独禁法が禁止する「注文部数」越える部数の供給行為(押し紙行為)はしていないとの主張を行ってきていることから、本件でも被告がそのような主張を行うことが予想される。そのため、審理の初期の段階で新聞特殊指定の「注文部数」の定義をあらかじめ確認しておくことは極めて重要である。

この裁判では、「押し紙」行為による公序良俗違反も審理される見込みだ。詳細については、メディア黒書で順次報じる予定。

訴状の全文は次の通り。

 

西日本新聞「押し紙」裁判の訴状

2018年11月09日 (金曜日)

この1年の減部数、朝日は約34万部、読売は約37万部、日経は約31万部 西日本新聞は宮崎県と鹿児島県で休刊、埼玉県で朝日と読売の合売店が誕生

2018年9月度のABC部数を紹介しよう。新聞の没落傾向にはまったく歯止めがかかっていない。朝日はこの1年で約34万部、読売は約37万部、日経は約31万部の減部数となった。

繰り返し述べてきたように、ABC部数には「押し紙」が大量に含まれているので、ABC部数の減部数がそのまま読者数の減少を意味するわけではない。読者は減っているが、同時に「押し紙」を減らさなければ、販売網が維持できないほど、経営が悪化していると考えるのが妥当だ。

中央紙のABC部数は次の通りである。

朝日:5,793,425(342,912)
毎日:2,699,790(242,457)
読売:8,346,122(367,863)
日経:2,393,195(309,389)
産経:1,495,586(60,059)

 

◇進む販売店の統合

極端な部数減の下で新聞販売店の整理統合が進んでいる。業界紙によると埼玉県の西部地区にある朝日新聞と読売新聞の販売店が統合され、毎日、産経、日経を含む全紙を配達する体制になったという。

専売店単独では、経営が成り立たなくなってきたのである。

販売店の合売店化は、今後、急激に進みそうだ。

一部の新聞社が関東北部で近々に夕刊を廃止するのではないかという情報も飛び交っている。

西日本新聞はこの4月から宮崎県と鹿児島県での発行を休止した。また、日経新聞は、やはり4月に沖縄県で夕刊を休止した。

2018年09月25日 (火曜日)

佐賀県全域における西日本新聞の「押し紙」率は17%、2009年の内部資料

個々の新聞販売店における「押し紙」の実態は、「押し紙」裁判などを通じて明らかになったケースが数多くあるが、特定の新聞社の広域における「押し紙」の詳細も徐々に暴露され始めた。

最初に広域における「押し紙」の実態が表沙汰になったのは、2005年の毎日新聞社のケースである。社長室からもれた内部資料を『FLASH』などがスクープした。毎日新聞の全国における「押し紙」の実態が暴露されたのだ。それによると2002年10月段階で「押し紙」率は36%だった。

2016年には、北九州の地方紙(厳密にはブロック紙)である西日本新聞の佐賀県全域における「押し紙」の実態が明らかになった。この資料(2009年8月度)については、まだ認知度が低いので、再度紹介しておこう。

次に示すエクセルがその資料である。

西日本新聞・佐賀県全域における「押し紙」の実態

【表の見方】

1、表の最左の縦列は、佐賀県下の新聞販売店を示している。

2、黄色の縦帯は、新聞販売店が西日本新聞に注文した部数を意味する。たとえば鳥栖中央店では、1,802部を注文したことを意味する。

3、緑の縦帯は、新聞社が実際に搬入した部数を示している。鳥栖中央店のケースでは、2,158部である。

つまり鳥栖中央店は、1802部を注文したにもかかわらず、新聞社は注文部数を超えた2,158部を搬入したことになる。

佐賀県下における「押し紙」率は17%である。新聞社サイドがこの資料を作成して販売店と共有していたわけだから、新聞社は注文部数を超えた部数を販売店に搬入していることになる。当然、誰が見ても独禁法の新聞特殊指定に抵触している。

残紙は予備紙という詭弁も成り立たない。残紙が回収された事実があるわけだから、予備紙としては使われていなかったことになる。