1. 読売裁判の中で、見解を180度変更した竹内啓・東京大学名誉教授の陳述書に見る日本の統計学者の実態

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2016年01月22日 (金曜日)

読売裁判の中で、見解を180度変更した竹内啓・東京大学名誉教授の陳述書に見る日本の統計学者の実態

次の書面は、2009年に読売新聞社が新潮社とわたしに対して提起した「押し紙」をめぐる名誉毀損裁判の中で、東京大学名誉教授であり日本統計協会会長の竹内啓氏が、提出した陳述書である。読売に利する陳述書である。

■竹内啓氏の陳述書

この裁判の発端は、週刊新潮に掲載した記事のなかで、わたしが読売の「押し紙」率を30%から40%と推定したことである。推定の根拠のひとつは、(株)滋賀クロスメディアが滋賀県の大津市などで実施した新聞の購読紙の実態調査だった。

◇滋賀クロスメディアの調査

調査対象は、大津市、草津市、守山市、栗東市、野洲市の24万世帯である。調査の方法は、電話(自動ではない)と個別訪問である。個別訪問でも購読紙が判明しない場合は、滋賀クロスメディアのスタッフが、直接、調査対象世帯のポストをのぞき込んで確認した。

裁判の詳細については、ここでは述べないが、裁判の結果は読売の勝訴だった。地裁、高裁、最高裁とも読売の勝ちだった。

裁判所は、読売新聞の「押し紙」率が30%から40%あるとする推測は、名誉毀損にあたると判断した。「押し紙」は1部も存在しないと認定したのだ。

統計学者の竹内啓氏の陳述書は、読売側の主張-つまり滋賀クロスメディアの調査は信用できないとする主張の裏付けとして、提出されたのである。

ところが、問題となった週刊新潮の記事の中で、竹内氏が滋賀クロスメディアの調査を高く評価していたことを、読者はご存じだろうか?

つまり竹内氏は、読売裁判が起きた後、自分の見解を180度変えたのだ。

記事の中に引用された竹内氏のコメントは次のようなものだった。変更前の見解である。陳述書の内容とは完全に異なり、滋賀クロスメディアの調査を高く評価していたのである。それが週刊新潮に記録として残っている。

その手法は、統計調査として非常にまともだと思います。電話、戸別訪問、そしてポストの確認と、かなり綿密な調査が出来ている。購読判明件数も14万件と多いですし、購読不明の件数が多い点は懸念材料ではありますが、信頼性は非常に高いと思います。

ところが読売が裁判を提起すると、竹内氏は前言を翻して、陳述書を作成し、今度は読売の主張に加勢したのである。

◇NHKの世論調査

わたしが竹内氏の陳述書を引用したのは、日本のメディア界には世論調査の信頼性を判断する基準が極めて曖昧だと感じているからだ。

たとえばNHKが毎月実施する国民の政治意識を調べる調査の手法を取り上げてみよう。直近の調査は、1月 9日(土)~11日(月)の期間に、電話法(RDD追跡法)で行われた。これはコンピューターが選んだ番号に、コンピューターが自動電話をかけて回答を得る方式である。自動電話であるから、受話器から聞こえてくるのはロボットの声である。回答者は電話のボタンを押すかたちで意思表示する。

コンピューターとの「会話」を嫌う人は、即座に電話を切りかねない。また、携帯電話を主要な通信手段にしている若い層は、調査の対象外になりがちだ。
だれが見ても信頼性のある調査方法とは思えない。

1月の調査では、このような方法で1,618件の電話がかけられ、そのうちの 1,043人が回答した。たった1000件の回答から、国民の政治意識を見るデータを作成しているのだ。滋賀クロスメディアが対象とした14万世帯とは比較にならない。

ところがこのNHKの調査は、信憑性のあるデータとして、メディアで公表され、信頼性のあるデータとしてほとんどの人が受け入れている。

わたしは、日本の統計学の学者が、専門家の立場から世論調査を正確に検証しているのか、疑問に思う。NHKなど巨大メディアの世論調査に対して「監視」の役割を果たしているのだろうか。滋賀クロスメディアの調査について見解を変更した竹内氏は、NHKレベルの調査について、どのように考えているのだろうか。

見解を変更するのは、もちろん個人の自由だが、竹内氏は最初の見解が完全に間違っていたと自分で認めたわけだから、陳述書だけではなく、どこかの媒体で、間違い部分を説明すべきだろう。

裁判も終わり、いま検証する時期ではないだろうか。