公共事業は諸悪の根源 ジャーナリズムでなくなった朝日 その10【前編】
◆吉竹幸則(フリージャーナリスト・元朝日新聞記者)
安倍政権は、もはや経済再建などそっちのけ。「9条のある国」から、「集団的自衛権」をこの国に取り入れ、9条を形骸化。「戦争の出来る国」、戦前の軍事国家に逆戻りさせることのみに専念しているように見えます。
そんな中、今年も「5.3」、憲法記念日には、様々な行事が行われました。この日は、私たち朝日新聞出身者にとって、特別な日でした。1987年5月3日夜、兵庫県西宮市にある朝日の阪神支局に何者かが押し入り、「反日朝日を処刑する」として、銃弾を撃ち込みました。居合わせた当時29歳の小尻知博記者が死亡、もう1人の記者も重傷を負った日でもあるからです。
朝日では、その年以降毎年、小尻記者の追悼行事を阪神支局でしてきました。しかし、今年、「反日朝日を処刑したのは当然」として、この襲撃を美化するデモを支局周辺でしようとの呼びかけが、ネット上で流されていました。
この人たちが朝日を「反日」と言うなら、私がこの欄で報告した通り、無駄な公共事業で膨大な借金を溜め、この国を沈没させた官僚・政治家は、それ以上の「反日」のはずです。そんな官僚・政治家の所業を読者・国民に知らせる私の記事を止め、彼等の利権漁りに手を貸した朝日幹部も確かに「反日」かも知れません。しかし、襲撃事件を美化する人たちは、こうした「反日」は糾弾しません。その裏にどんな人たち・勢力がいて、どう操られているのか。私はそれが気掛りです。
◇小尻記者の霊前に向かい・・・
昨年も私は憲法記念日に、「言行一致で表現・報道の自由を守る覚悟を 、5・3の憲法記念日に複雑な思い」との文章をこの欄で書きました。今年も昨年と同様、「複雑な思い」でこの日を迎えました。
昨年から今年にかけこれまで9回にわたり私は、「ジャーナリズムでなくなった朝日」について、報告して来ました。私の「複雑な思い」が、何故か。この欄の読者は、より具体的にお分かり戴けたのではないかと思います。
出来れば、「公共事業は諸悪の根源?」の後篇の編集局長から私への手紙についてももう一度、読み返してみて下さい。こんな人たちが小尻記者の霊に向かい、「報道の自由を守る」とぬけぬけと語りかけるのが、朝日の追悼行事です。口先だけで、「人々の知る権利」に奉仕する強固な意志が固まるはずもありません。
◇二枚舌は絶対にあってはならない
冒頭で言ったように、安倍政権の登場で、この国の進路は大きな曲がり角を迎えています。国民はより多くのことを知り、「表現の自由」をもって自分たちの国の在り方について、自らの考え・意見を表明しなければならない時代に来ています。そんな人々に情報を提供するジャーナリズムの役割・責務もより重くなっています。
「表現・報道の自由を守れ」は、口先では誰でも言えます。しかし、権力者が本気で抑圧して来たなら、体を張って心の底から守る覚悟がどれだけのジャーナリズム・ジャーナリストにあるのでしょう。それが問題なのです。
昨年の特定秘密保護法制定の際も、既成メディアは当初及び腰でした。「知る権利」の危機、戦前回帰を心配する多くの国民の声で背中を押されて重い腰を上げ、やっと取り組みを始めました。しかし、制定されるともう諦め、最近ではその報道にお目に掛かることはほとんどなくなりました。
人様に格好のいいことを言うなら言行一致、自らも不退転の決意で、人々の「知る権利」のために真剣に取り組む。二枚舌は絶対にあってはならない。それがジャーナリズム・ジャーナリストたりうる最低限の条件・掟であるはずです。
しかし、この国の既成メディア、とりわけ、幹部に登り詰めた人ほど、その意志を失っていくのは、何故か。「ジャーナリズムでなくなった朝日」で報告しているのは、その具体的な実例です。
この時代だからこそ、人々の「知る権利」のために真剣に取り組むジャーナリズムの再生が必要です。朝日が「過去の過ち・体質」に目をそむけることなく自らの姿をもう一度見つめ直し、言行一致の組織への再生を願うが故に、赤裸々にこの報告をしています。それが追悼式で朝日幹部が語る空虚な言葉より、小尻記者の霊に応えていく本来の道と考えています。
さて、「公共事業は諸悪の根源」のこのシリーズも、もう14回目です。そのうち「ジャーナリズムでなくなった朝日」は今回で10回目、いよいよ朝日についての報告は大詰めです。読者の皆さんも、朝日組織の内情について、それなりにお分かり戴けた頃かと思います。
武富士事件や若い記者による記事の盗用など朝日で不祥事が相次いだ2005年、「その原因は、私の問題と根っこで共通するものがある」として、多くの質問状を私が出したことまでを、前回報告しました。私は社説での朝日の主張も引用。前述通り、ジャーナリズムの掟である「言行一致」を求めたのです。しかし、朝日はまともに回答して来ませんでした。今回はこの後からです。