1. 読売の「押し紙」裁判、原告が準備書面を公開(全文を掲載)、「押し紙」の定義、残紙と渡邉恒雄の関係にも言及

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読売の「押し紙」裁判、原告が準備書面を公開(全文を掲載)、「押し紙」の定義、残紙と渡邉恒雄の関係にも言及

YC大門駅前の元店主が読売新聞大阪本社に対して起こした「押し紙」裁判(大阪地裁)の審理が、12月17日、コロナウィルスの感染拡大をうけて、ウエブ会議のかたちで行われた。原告は準備書面(1)を提出(PDFで全文公開)した。次回期日は、3月16日に決まった。

準備書面の中で原告は、「押し紙」の定義を明らかにすると同時に、読売新聞に残紙が存在する背景を、渡邉恒雄会長による過去の発言などを引用しながら歴史的に分析している。

◆新聞の「注文部数」をめぐる原告の主張

改めて言うまでもなく、「押し紙」裁判では、審理の大前提として「押し紙」の定義を明確にする必要がある。一般的に「押し紙」とは、新聞社が販売店に対して買い取りを強制した新聞と解されてきた。筆者の古い著書においても、そのような説明をしている。従ってこの定義を採用すると、新聞販売店が折込媒体の水増しを目的として、自主的に注文した部数は「押し紙」に該当しない。「積み紙」という解釈になる。

しかし、独禁法の新聞特殊指定でいう厳密な「押し紙」行為とは、次の2点である。

①販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。

②販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

実は、この定義には抜け穴がある。注文部数の定義があいまいなのだ。

一般に商取引においては、商店の側が卸問屋に対して、注文部数を決めて発注書を発行する。これはあたりまえの慣行で、全ての商取引に共通している。新聞の商取引も例外ではない。形式的には販売店が新聞社に対して新聞の注文部数を決め、それを伝票に記入する。

ところが販売店は発注の際に実配部数だけではなく、残紙部数を含めた部数を伝票に記入する。「押し紙」が独禁法に抵触するから、「押し紙」を隠すためにそのような慣行になっているのだ。しかし、形式的にはこれが新聞の注文部数ということになる。

従って、実際には「押し紙」が存在していても、新聞特殊指定の①②をすり抜けてしまう。新聞社は、「押し紙」行為はしていないと強弁することも一応はできる。実際、読売新聞社は「押し紙」をしたことは一度もないと主張してきた。

この点を前提として、原告準備書面(1)は、新聞特殊指定でいう注文部数の定義が別に存在していることを、歴史的に証明している。それは独禁法の中で、新聞が一般指定ではなく、特殊指定に分類されている事実とも整合している。特殊指定であるから別の定義があるのだ。

1964年に公正取引委員会は「新聞業界における特定の不公正な取引方法」を交付した。その中で日本新聞協会が定めた「注文部数」の解釈基準が引用されている。以下、引用してみよう。

①「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。
(黒薮注:当時の予備紙率は2%である)

①を前提として、次の行為を禁止している。

②新聞社は新聞販売業者に対し、「注文部数」を超えて新聞を供給してはならない。

③新聞販売業者は、新聞社に対し、「注文部数」を超えて新聞を注文しないものとする。

つまり新聞特殊指定でいう「注文部数」とは、一般の商取引でいう「注文部数」とは定義が異なり、新聞の実配部数に予備紙を加えた部数を意味する。従って、「実配部数+予備紙」を超えた部数は、「押し紙」ということになる。このようにして、公取委は種類のいかんを問わず全ての残紙を排除する方向性を打ち出しているのである。

ちなみに公正取引委員会が新聞特殊指定でいう「注文部数」の定義を根拠に新聞社を指導した例としては、1997年の北國新聞がある。その際、公取委は、北國新聞とは別の新聞社でも同様の「押し紙」行為があることに苦言を呈している。

◆渡邉恒雄と残紙問題

また、原告準備書面(1)は、読売で残紙が発生している理由として、1991年に渡邉恒雄社長(当時)が打ち出した「販売第一主義」をあげている。同準備書面は、渡邉氏の次の発言を引用している。

「戦いはこれからである。再来年(94年)11月の創刊百二十周年までには是非とも1千万部の大台を達成して、読売新聞のイメージをさらに高め、広告の増収に貢献、経営体質を不動のものにしたい。現在、本社の全国部数は約980万部だが、今後2年余で30万部の増紙をしたい。1千万部を達成といっても、少し手を抜けば990万部になる。一度1000万部を達成したら、2度と1000万部を切らぬようにするためには、押し紙、積み紙、無代紙を完全に排除したうえで、1000万部以上を確保しておかなければならない。それにはどうしても30万部の増紙が必要だ。戦いは容易ではない。皆さんの指導力、経営力に頼るほかない」

渡邉氏は、「押し紙、積み紙、無代紙を完全に排除したうえで、1000万部以上を確保しておかなければならない。」と述べており、押し紙、積み紙、無代紙(新聞特殊指定の定義では、すべて「押し紙」)の存在を認めているのである。

原告は準備書面(1)全文

 

【資料】

■訴状

■「押し紙」一覧

真村訴訟福岡高裁判決

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