1. 地方紙の「押し紙」と折込媒体の水増し問題、元販売店員へのインタビュー

「押し紙」の実態に関連する記事

2020年05月24日 (日曜日)

地方紙の「押し紙」と折込媒体の水増し問題、元販売店員へのインタビュー

 新聞販売店で働く人は、残紙問題、労務問題、メディアをどのように見ているのだろうか。Aさん(女性)の例を紹介しよう。在職期間は、2015年5月から2017年10月である。勤務先は、地方紙の販売店である。

・・・現場で働いていたとき残紙や折込広告の水増しと廃棄について、どう感じましたか?

A:仕事をはじめてまもなくに、奇妙な二つのことに気付きました。ひとつは配達後に新聞が相当余っていることでした。ひとつの新聞の梱包は60部、あるいは80部のいずれかなのですが、その梱包が10個以上も解かれないまま残っていました。

わたしは在職中に他の販売店に異動しましたが、そこでもやはり同じ光景を見ました。10個ぐらいの梱包が毎日残っていました。

・・・当然、折込チラシも大量に余っていたと思いますが、どう処理していましたか。

A:余ったチラシは、新聞紙で包装して処理していました。残紙を収納するコンテナに、包装したチラシの束も捨てていました。あるとき先輩に「なんで折込チラシを新聞でくるむのか」と聞いたら「見栄えが悪いので」との返事でした。コンテナの中身は月に数回、夕方に軽トラがきて、荷台に次々と残紙とチラシを積んでいました。

・・・折込チラシの広告主を覚えていますか?

A:折込チラシはパチンコ店やスーパーが多かったです。毎週金曜には不動産屋のチラシが入っていたように記憶しています。

市会議員の三上明(仮名)氏は、何か月かおきに活動報告のチラシを折り込んでいました。三上氏の活動に注目していたことと、活動報告チラシの紙が硬めのいい紙質だったことで印象に残っています。ただ、三上氏のチラシが捨てられていたかは確証がありません。県会議員のチラシもたまに折込がありました。

この新聞社は、夕刊を廃止して、それに代わる『エポカ』(仮名)という情報紙を発行するようになった。そして朝刊とセットにしたり、単独の販売を始めた。販売ルートが広がるにつれて配達員の負担も増えたという。

・・・『エポカ』が創刊されたころのことを教えてください。

A:夕刊が廃止になって『エポカ』になるに際しては、従来の夕刊読者に対して、契約を継続してくれるように、各戸をまわってお願いしました。社から命令が下ったのです。先輩の配達員が顧客に説明にまわるのに、わたしも一緒しました。しかし、みたこともない情報紙をどう営業しろというのかと心の中で毒づきました。

スタート時に営業でかなりの購読契約を取り付けましたが、一か月か二か月すると購読を止めたいという顧客がではじめました。一人の顧客から『エポカ』を止めたいと直接言われたときに理由を聞くと「おもしろくないから」との返事でした。

以前の夕刊は一部40円でしたが、『エポカ』は60円になりました。個人的には『エポカ』より元の夕刊のほうがいいのにと思っていました。紙の質は夕刊よりも上質でしたが。

・・・・『エポカ』は駅売りをしていましたか?

A:JR内の売店に搬入していました。夕刊の時代よりも、『エポカ』の方が搬入部数は多かったです。一店舗に50部ぐらいは搬入していたように記憶しています。ただ、売店のおばちゃんに、「売れないのにまだこんな数もってくるの?いつまで?!」とこぼされたことがあります。

コンビニにも搬入していました。こちらも搬入数と残数がどの店舗も毎回ほぼ同じでした。コンビニ店員からも、また売れてないよと言われたことがあります。『エポカ』発行部数は朝刊より少ないでしょうが売れ残りが相当あるのではと思っていました。

2014年から月に2回、『フレンテ』(仮名)というフリーペーパーも発行されるようになった。配布日は、第二金曜日と第四金曜配である。

・・・『フレンテ』の中身について教えてください。

A:配達員になる前からこのフリーペーパーの存在は知っていました。当時は新聞を取っていませんでしたが、勝手に『フレンテ』をポストインしてくれていました。わたしは「生ごみを包むのに助かる」と思って保管しておきました。届いたらひととおり目を通していました。

最初は地元の漫画家の作品などを掲載していましたが、内容はだんだん企業PRが増えてきたように思います。

・・・朝刊と一緒に配達するのですか。

A:配達員になってから身に染みたのですが、『フレンテ』は朝刊と同時配布ではなく朝刊配達後にまた同じ区域をひと回りするのです。配達員にとって『フレンテ』の配達はタダ働きだと思います。配布日にかかってもかからなくても賃金は同じでした。何軒か『フレンテ』を嫌っている個人宅があり、間違って配達しないように順路帳にその旨を記載していました。ある日『フレンテ』拒否の家の人が表に出ていたので「どうぞ」と手渡しを試みましたが「いりません!」と一蹴されたことがあります。とことん嫌っているようでした。

・・・フリーペーパーは読まれていないということですか?

A: アパートやマンションでは多くの場合集合ポストに入れるのですが、あるレオパレスのアパートの集合ポストに入れたところ、午後にはごみ箱に『フレンテ」がたくさん捨てられていました。

あるマンションの集合ポストに入れていたら、管理人から「これ、迷惑なんだよね」と言われたこともあります。

最近は、『フレンテ』にチラシを折り込んでいる不動産会社もあります。現場でこのような光景を見ていたので広告効果はあるか疑問です。「金をかけてごみを作っている」と感じました。

・・・・他に本業以外の仕事を課せられたことは?

A:発行本社が映画を作ることになった時のことです。原作の文庫本を販売するように強制されたことがあります。ノルマは一人一冊でした。売る相手が思いつかないので、自腹で一冊買いました。文庫本なのに価格は1000円ちかくしたと思います。まず、新聞社が映画を作るなんて話は他に聞いたことがなかったので驚きました。

当時路線バスに乗るとその映画をアピールする広告が出ていたことを覚えています。興行成績はわかりませんが。