1. 新聞の「折り込め詐欺」による毎日新聞販売店の年間収入、2002年10月の内部資料をベースに試算、最低でも総計140億円

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新聞の「折り込め詐欺」による毎日新聞販売店の年間収入、2002年10月の内部資料をベースに試算、最低でも総計140億円

新聞社の販売収入のうち、残紙よる収入はどの程度を占めるのかを試算してみよう。幸いにこの目的のために格好の内部資料がわたしの手元にある。2004年に毎日新聞東京本社の社長室から外部へ漏れた「朝刊 発証数の推移」と題する資料である。この資料は、『FLASH』『財界展望』など多くのメディアで紹介された。

この資料によると2002年10月の段階で、全国の新聞販売店に搬入される毎日新聞の総部数は約395万部だった。

これに対して発証数(購読料を集金する際に読者に対して発行される領収書の枚数)は、約251万部だった。差異の144万部が領収書の発行対象とはならない残紙ということになる。144万部の中に残紙ではないものが含まれているとすれば、それは新聞を購読しているが、集金が未完了になっている読者である。こうした読者は極めて少数なので、144万部のほぼ全部が残紙と考えても大きな間違いない。

◆◆
この資料に明記されている数字でまとめると次のようになる。

新聞の搬入部数:約395万部
発証部数:約251万部
残紙:約144万部
残紙率:36%

2002年10月のデータであるから、新聞社経営の情況は現在とは比較できないが、新聞社が残紙による収入に依存している状況は何も変わっていない。そしてそれは毎日新聞だけに限ったことでもない。残紙の発生を前提とした販売政策を徹底している新聞社では同じ構図がある。

そこで毎日新聞で記録された144万部の残紙により、どの程度の金額が販売店から新聞発行本社へ流入しているのかをシミュレーションしてみよう。それに際しては、次の条件を確認しておこう。

まず、「朝刊 発証数の推移」で明らかになった残紙144万部の中身である。周知のように新聞の購読形態は2つある。朝刊だけを購読する場合と、「朝刊・夕刊」のセット版を購読する場合である。当然、購読料も卸代金も、「朝刊・夕刊」のセット版の方が朝刊単体よりも高い。

ところが毎日新聞の残紙144万部を示すデータは、両者の区別がない。そこでシミュレーションの誇張を避けるために、144万部の全部が朝刊単体であるという設定にする。

毎日新聞の場合、朝刊単体の購読料は当時3007円だった。新聞の場合、卸代金は社によって異なるが、ほぼ購読料の50%である。そこでシミュレーションに採用する卸代金を、端数にして1500円と仮定する。

新聞1部に付き1500円の卸代金を144万部に対して徴収した場合の試算は、次の計算式で示される。

 1500円×144万部=21億6000万円(月間)

毎日新聞は残紙により月々21億6000万円のグレーな収益を上げていたことになる。これに12カ月をかけると、残紙による年間の収益が導きだされる。次の計算式である。

21億6000万円×12ケ月=259億2000万円

残紙により年間で259億2000万円の収益を上げている試算になる。

◆◆◆
読者は次のような疑問を抱くかも知れない。配達しない新聞を仕入れ、その卸代金を負担する新聞販売店から不満の声は上がらないのだろうかと。結論を先に言えば、残紙で生じた販売店の損害(新聞の卸代金)は、
折込媒体の水増しによって得た折込手数料や補助金によって相殺されるので、折込定数が低い販売店や、補助金が少ない販売店を除いて、販売店経営を破綻させる程の打撃は被らない。

そこで次に残紙とセットになっている折込媒体からどの程度の折込手数料が上がっているのかを試算してみよう。ただし新聞1部が生み出す折込手数料を示す毎日新聞の資料はわたしの手元にはない。また、仮にあったとしても、折込媒体の需要は地域により、季節により、さらには
時代や景気によって大きく異なるので、残紙による販売収入のような単純な試算はできない。

それを前提に、あくまでもシミュレーションの条件を設定してみよう。わたしがこれまで販売店を取材した限りでは、最近の都市部における折込媒体の収入は、新聞1部に付き800円から1500円程度である。これは毎日新聞以外の系統の店主からの情報も含めた情報である。

具体例を出すと、たとえば次に示す金額は、千葉県内の産経新聞を扱っていた販売店における折込手数料である。いずれも新聞1部が生み出す1か月の折込手数料である。

2016年1月:850円
2016年2月:740円
2016年3月:926円
2016年4月:848円
2016年5月:721円
2016年6月:789円
平均:         812円

ただし、この販売店は「押し紙」が原因で経営が悪化して廃業に追い込まれた経緯があるので、経営状態が最悪だったと考えなければならない。また、この数字を2002年10月の時点における毎日新聞の情況と類似しているとみなすこともできない。当時はまだ相対的に折込媒体の需要も比較的高く、現在よりも遥かに経営が良好だった。

そこで毎日新聞の残紙が生み出していた折込媒体の水増し手数料の試算には、2件の数字を想定する。最も低く見積もった場合の数値としては、前出の産経新聞販売店における2016年度前期の折込手数料の平均・812円である。最も高く見積もった場合の数値としては、わたしが取材で得た推定値の最高額1500円である。

計算式は極めて単純だ。それぞれ次のようになる。

(最低額による試算)残紙144万部×812円×12カ月=約140億

(最高額による試算)残紙144万部×1500円×12カ月=約259億

「最高額による試算」では、1年間の折込手数料は約259億円であり、この額は残紙によって毎日新聞が得た販売収入とはからずも一致する。これはシミュレーションであるから、推測の域を出ないが、少なくとも残紙で生じる損害を折込媒体の水増しで相殺する構図があることは間違いない。それが今の健在な新聞社のビジネスモデルなのである。

熊本日日新聞など、搬入部数を決める権利を販売店に委ねる制度(自由増減)を採用している若干の社を除き、日本の新聞社のビジネスモデルは、毎日新聞と基本的には同じである。

警察庁がまとめた2019年度における特殊詐欺による被害額は301億円だから、「折り込め詐欺」による被害は、その何十倍にもなるのだ。従って残紙問題は、公権力によるメディアコントロールのアキレス腱になりうるのである。

 

【写真説明】ビニール包装されている新聞が「押し紙」、新聞で包装されている包みは、廃棄される折込広告