読者がいない「押し紙」にも数10億円規模の消費税、新聞人が軽減税率の適用を求める本当の理由
新聞は文化的商品であり、国民にとっての必需品だから、消費税の軽減税率の適用対象になって当然という新聞関係者によるプロパガンダが拡散している。この理屈は果たして真実なのだろうか?それを新聞社のビジネスモデルの観点から考えてみると、まったく別の不純な側面が輪郭を現してくる。
結論を先に言えば、それは「押し紙」に消費税がかかって、新聞社と販売店の経営を圧迫することを、新聞人が恐れている結果にほかならない。
「押し紙」に消費税がかかる理由は、「押し紙」にも読者がいるという偽りのリアリティーを前提に、経理処理が行われているからだ。独禁法は、「押し紙」を禁止している。その結果、PC上に架空の配達地域を設け、それに準じて、架空の読者を設け、帳簿上で販売収入と「読者数」の整合性を保つ必要が生じる。当然、「押し紙」にも消費税がかかることを前提に帳簿を作成する。
さもなければ会計監査が通らない。粉飾ということにもなりかねない。
しかも、都合の悪いことに、「押し紙」には読者がいないわけだから、購読料はいうまでもなく、消費税も販売店と新聞社が負担することになる。
消費税率の引きあげによって新聞社と販売店がどれほど過酷な負担を強いられるかを試算したものを2つ紹介しよう。
◇河内孝氏による試算
『新聞社』(新潮新書、河内孝著)の中で河内氏は、2004年度のABC部数を基礎データとして使い、消費税が5%から8%になった際の消費税負担の変化を試算している。結果は、次の通りだ。
読売新聞社:108億6400万円
朝日新聞社: 90億3400万円
毎日新聞社: 42億6400万円
日経新聞社: 38億7100万円
産経新聞社: 22億1800万円
◇黒薮による試算
筆者も拙著『新聞の凋落と「押し紙」』(花伝社)の中で、新聞に対する軽減税率の適用問題を取りあげ、毎日新聞の「押し紙」に課せられる消費税額(河内氏の試算は新聞全体が対象)を試算している。基礎資料としたのは、同社の内部資料「朝刊 発証数の推移」である。それによると2002年10月の段階で、毎日新聞の「押し紙」は、全国で約144万部。「押し紙」率は36%。誇張を避けるために月極の購読料を3000円で計算した。
5%の場合:25億9200万円
8%の場合:41億4720万円
10%の場合:51億8400万円
詳細については、『新聞の凋落と「押し紙」』の138ページ、「驚くべき販売店の税負担」を参考にしていただきたい。
「押し紙」は経営上の汚点である。この汚点を公権力は知っている。当然、この汚点を摘発すれば、新聞社は決定的な打撃を受ける。こうした力学の原理が働いているから、日本の新聞社は「発表ジャーナリズム」、あるいは「パック・ジャーナリズム」に徹し、調査報道ができないのである。