ニュースを読み解く際の視点は、メディアが「ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる」(故新井直之創価大学教授)。
イスラム国に関する報道で、日本の新聞・テレビがほとんど報じなかった事実のひとつに、湯川遥菜氏の職業がある。(ただし死後は、職業を公にしている)
湯川氏は、(株)民間軍事会社(PMC)という企業の設立者である。通常、軍隊に関する業務は、国家の管轄になるが、それを私企業として代行するのが、この種の会社の役割である。つまり戦争関連業務の民営化である。
公的なものを民間へゆだねることで、市場を創出する新自由主義政策の中で、PMCは誕生したと言っても過言ではない。いわば橋本内閣(1996年成立)以後の自民党が押し進めてきた新自由主義と軍事大国化の中で生まれた会社である。
安部内閣は、昨年の4月に閣議決定により、武器輸出を原則禁止から、条件付きで認めることを取り決めた。こうした軍事大国化の流れの中で、民間企業が海外の紛争地帯で、戦争ビジネスを展開できる温床ができあがったのである。
湯川氏が設立したPMCの顧問は、自民党の元茨城県議・木本信男氏である。 この民間企業が紛争地帯でどのようなビジネスを展開しようとしていたのかについての詳細は、不明だが、いつくかのヒントがある。
たとえば湯川氏がみずからのFACEBOOKで公開している射撃訓練の様子である。
■射撃の動画
ちなみに湯川氏は元•航空幕僚長の田母神俊雄氏とも関係があったらしく、両氏が撮影された数多くの写真が存在する。
■湯川氏と田母神氏の写真
◇恣意的に客観性を欠いた報道
新聞・テレビが積極的に報じない2つ目の事実は、米国とその同盟国がイスラム国に対して激しい空爆を行っている事実である。たとえば、1月23日付け「ロイター」の報道によると、米国の同盟国は、前日に25回に渡ってイスラム国を空爆している。
また、欧米だけではなく、ロシアや中国もからんでいる石油利権についても、故意に報じていない。資源の収奪という問題が隠されているのだ。民族自決権を蹂躙(じゅうりん)しているのは、「先進工業国」の側であるという重い事実がある。
なお、報道用語について言えば、日本の新聞は、イスラム国の軍隊に対して「イスラム過激派」という言葉を使っている。海外の報道は、単なるIslamic State militants(イスラム州戦士)である。
改めて言うまでもなく、イスラム国は現在、戦時下である。戦時下では、戦闘に参加する者は、敵味方を問わず、すべて「過激派」である。米国主導の空爆も、イスラム国による捕虜殺害も、同じ蛮行である。
ところが日本の新聞は、イスラム国は過激派で、米国とその同盟国は過激派ではないという間違った前提で報道を続けている。その姿勢が、「過激派」という言葉の選択にも現れている。
なお、テレビ画像の解析に関して、注意しなければならない点がある。それはイスラム国側の軍隊が、黒い覆面をしている映像が、視聴者に恐怖感を与えている点である。覆面をしている理由は単純で、敵対国側のブラックリストに顔写真が登録されるリスクを避けるためである。従って、この点を考慮して、公正中立の立場から画像を読み解かなければならない。
◇湯川氏と後藤氏の質的な違い
戦争報道では、こうした基本的な解釈を踏まえなければならないはずだが、日本の新聞・テレビは、今回の事件の舞台が戦時下にある点をきれいさっぱりと忘れている。故意にさけているのではなく、おそらく認識できていないのではないかと思う。これが安倍首相ら「戦争を知らない人々」の実態だ。
政府の対応も同じ初歩的な問題をはらんでいる。他国に乗り込んで戦争ビジネスの準備をしていた湯川氏と、ジャーナリストとして正当な活動をしていた後藤健二氏を、同一に捉えて対処しているわけだから、救出できるはずがない。
湯川氏に関しては、最初から釈放の意思など毛頭なかったはずだ。「捕虜」として認識していた可能性が高い。それゆえに裁判(後述)を予定していたのである。
イスラム国にしてみれば、湯川氏と行動を共にしていた後藤氏を湯川氏の仲間と勘違いするのは当然である。激しい空襲の下で、スパイ行為に対しては極めて敏感になっていることが推測される。これがしばしば内ゲバの引き金になったりする。それゆえにスパイ活動に対しては、極めて厳しい。
と、なれば政府は、湯川氏と後藤氏の質的な違いをはっきりとイスラム国に伝えたうえで、湯川氏の助命と後藤氏の釈放を求めるべきだった。
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