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2022年12月02日 (金曜日)

西日本新聞に対する「押し紙」裁判の訴状を公開、20年の「押し紙」追及と研究の果実、注目される「債務不履行」についての審理

既報したように西日本新聞の元店主が、11月14日に福岡地裁へ「押し紙」裁判の訴状を提出した。代理人を務めるのは、「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士ら)である。

本稿で、訴状の中身を紹介しよう。結論を先に言えば、弁護団の20年を超える「押し紙」追及と研究の成果を結集した訴状になっている。訴状の全文とそれに関連する資料は、次のPDFからダウンロードできる。

訴状

「押し紙」一覧

資料(「押し紙」の定義に関する法律と規則)

◆◆

原告の元店主が請求している額は、2011年6月1日から2021年5月31日までの10年間に被った「押し紙」による被害と、訴訟に要する弁護士費用など総計で約5700万円である。

原告弁護団が請求の根拠としているのは次の3点である。

 

1, 公序良俗違反

民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と述べている。つまり社会通念を踏み外したとんでもな方法で、ビジネスを展開した場合など、ビジネスの根拠となっていた契約を白紙に戻す法律である。「押し紙」裁判では、無駄な新聞を大量に押し売りする行為が公序良俗に違反するかどうかが審理される。折込広告の廃棄や環境破壊も考察点になる。

 (写真は、本文とは関係ありません)

 

2, 不法行為

不法行為についての審理では、西日本新聞が元店主に対して、新聞を押し売りしたかどうかが争点になる可能性が高い。これは旧来の「押し紙」裁判で中心的な争点になってきたテーマである。原告は、新聞の買い取りを強制された事実を立証しなければならない。

従来の「押し紙」裁判では、裁判所は新聞社が新聞の買い取りを強制した事実をなかなか認めない傾向があった。たとえば日経新聞の「押し紙」裁判では、店主が少なくとも20回に渡って書面で「押し紙」を断ったにもかかわらず、販売局と店主の間で「注文部数」の決定について、議論をしたから強制には当たらないと判断した。論理が極端に飛躍しているが、「押し紙」裁判では、このレベルの幼稚な判定がまかり通っている。「押し紙」裁判が不透明だと言われる理由のひとつである。

新聞社による不法行為を否定することで裁判所は、延々と「押し紙」を放置してきたのである。

過去の「押し紙」裁判の傾向をみると、詭弁が最も多いのが不法行為に関する審理である。

 

3, 債務不履行

債務不履行についての審理は、最近の「押し紙」裁判の中で、新しい視点として浮上してきたテーマである。

商契約の中で西日本新聞は、販売店に対して法規を尊重したうえでビジネスを展開することを確約させている。しかし、相手方に法令遵守を求めるからには、みずからも法令を遵守しなければならないというのが一般的な法解釈である。

それを前提にした場合、新聞社は独禁法の新聞特殊指定を遵守して、販売店に真に必要な新聞部数を届ける義務がある。実際、西日本新聞が販売店の送る請求書には、「貴店が新聞部数を注文する際は,購読部数(有代)に予備紙等(有代)を加えたものを超えて注文しないで下さい。本社は,貴店の注文部数を超えて新聞を供給することは致しません」という注意書きをしている。

一方、独禁法の新聞特殊指定の下では、新聞の「注文部数」を次のように定義している。

【引用】「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。

※出典:1964年に公正取引委員会が交付した新聞特殊指定の運用細目

具体的にいえば、「実配部数+予備紙」の合計を「注文部数」(必要部数)と見なし、それを超える部数は、理由のいかんを問わず、原則として「押し紙」である。新聞の発注書に販売店が記入した外形的な「注文部数」と、特殊指定の下での「注文部数」とは意味が異なる。これを混同していたのが従来の「押し紙」裁判なのである。

従って西日本新聞が残紙の存在を認識していれば、その残紙は「押し紙」という判定になる。

この裁判では、西日本新聞が実配部数を把握していた証拠が残っている。従って西日本新聞は、新聞特殊指定でいう「注文部数」を越えて、新聞を提供していたことになる。

「債務不履行」についての審理では、部数の強制があったかどうかといった点は、枝葉末節であって、搬入されていた新聞の部数が新聞特殊指定が定義している「注文部数」を越えていたかどうかが、中心的なテーマとなる。

 (写真は、本文とは関係ありません)

◆◆

今後の「押し紙」裁判でも、債務不履行に関する審理が中心的な論点になる可能性が高い。

従来、「押し紙」の定義は、「新聞社が販売店に押し売りした新聞」とされてきた。しかし、新聞特殊指定の下での定義は、既に述べたようにかなり異なっており、「実配部数+予備紙」からなる「注文部数」を超えた新聞部数の事である。強制があったかどうかは、2次的な問題なのである。

佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月判決)では、新聞特殊指定の下での「押し紙」の定義が「押し紙」弁護団から提唱され、裁判所もそれを参考にした可能性が高く、佐賀新聞社の独禁法違反を認定した経緯がある。

 

 

西日本新聞を提訴、「押し紙」裁判に新しい流れ、「押し紙」の正確な定義をめぐる議論と展望

「押し紙」裁判に新しい流れが生まれ始めている。半世紀に及んだこの問題に解決の糸口が現れてきた。

11月14日、西日本新聞(福岡県)の元店主が、「押し紙」で損害を被ったとして約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。訴状によると元店主は、2005年から2018年までの間に3店の販売店を経営した。「押し紙」が最も多い時期には、実配部数(実際に配達する部数)が約1300部しかないのに、約1800部の新聞が搬入されていた。

他の「押し紙」裁判で明らかなった「押し紙」の実態と比較すると、この販売店の「押し紙」率は低いが、それでも販売店経営を圧迫していた。

この裁判には、どのような特徴があるのだろうか?

◆多発する「押し紙」裁判、読売3件・西日本2件・日経1件

「押し紙」裁判は、今世紀に入ることから断続的に提起されてきた。しかし、新聞社の勝率が圧倒的に高い。裁判所が、新聞社の「押し紙」政策の存在を認定した例は、わたしが知る限りでは過去に3例しかない。2007年の読売新聞、2011年の山陽新聞、2020年の佐賀新聞である。

※2007年の読売新聞の裁判は、「押し紙」が争点になったが、地位保全裁判である。

現在、わたしが取材している「押し紙」裁判は、新たに提起された西日本新聞のケースを含めて次の6件である。

・読売新聞・東京本社VS販売店(東京高裁)
・読売新聞・大阪本社VS販売店(大阪地裁)
・読売新聞・西部本社VS販売店(福岡地裁)
・日経新聞・大阪本社VS販売店(大阪高裁)
・西日本新聞VS販売店1(福岡地裁)
・西日本新聞VS販売店2(福岡地裁)

販売店主の中には、新聞社の販売局員から面と向かって、

「あんたたちが裁判を起こしても、絶対に勝てないから」

と、冷笑された人もいる。確かにここ1年半ぐらいの間に裁判所が下した判決を見ると、残紙の存在が認定されているにもかかわらず販売店が3連敗しており、「押し紙」裁判を起こしても、販売店に勝算がないような印象を受ける。その敗訴ぶりも尋常ではない。いずれの裁判でも、判決の言い渡し日が2カ月から3カ月延期された末に、裁判所が販売店を敗訴させた。しかも、3件のうち、2件では最高裁事務総局が裁判官を交代させている。つまり裁判の透明性に明らかな疑問があるのだ。

◎参考記事:産経「押し紙」裁判にみる野村武範裁判長の不自然な履歴と人事異動、東京高裁にわずか40日

新聞社が日本の権力構造の歯車に組み込まれ、世論誘導の役割を担っているから、裁判所や公正取引委員会などの公権力機関が「押し紙」問題を放置する方針を取っている可能性が高いと、わたしは考えている。認識できないだけであって、ほとんどの国でメディアコントロールは国策として巧みに組み込まれているのである。

◆新聞特殊指定の下における「押し紙」とは?

しかし、販売店を敗訴させる判決は、原告の理論上の弱みに付け込んでいる側面もある。その理論上の弱みとは、新聞の「注文部数」の定義に関する不正確な見解である。

通常、「注文部数」とは、販売業者が卸問屋に対して発注する商品の数量のことである。たとえばコンビニの店主が、牛乳を10パック注文すれば、注文数は10個である。同じように新聞販売店の店主が新聞を1000部注文すれば、それが注文部数ということになる。このような「注文部数」の定義は、半ば空気のようにあたりまえに受け入れられている。わたし自身も「押し紙」問題を扱った旧著や記事で、「注文部数」をそのように捉えてきた。しかし、これは誤りである。

今、この旧来の「注文部数」の定義の再考が始まっている。

「押し紙」問題に取り組んできた江上武幸弁護士は、新聞は特殊指定の商品であり、特殊指定の下での「注文部数」の定義は、コンビニなど一般的な商取引の下での「注文部数」の定義とは異なると主張している。

実際、1964年に公正取引委員会が交付した新聞特殊指定の運用細目は、「注文部数」を次にように定義している。

「注文部数」とは、新聞販売業者が新聞社に注文する部数であって新聞購読部数(有代)に地区新聞公正取引協議会で定めた予備紙等(有代)を加えたものをいう。

※注:文中の地区新聞公正取引協議会とは、日本新聞協会に加盟している新聞社で構成する組織である。実質的には日本新聞協会そのものである。

この定義によると新聞の商取引における「注文部数」とは、実際に販売店が配達している部数に予備紙の部数(搬入部数の2%とされている)を加えた総部数(「必要部数」)のことである。この「必要部数」を超えた部数は、理由のいかんを問わず機械的に「押し紙」という分類になる。販売店と新聞社が話し合って「注文部数」と決めたから、残紙が発生しても「押し紙」には該当しないという論理にはらないらい。

新聞特殊指定の下における「注文部数」とは、「実配部数+予備紙」の総数のことなのである。

江上弁護士は、独禁法の新聞特殊指定が作成された経緯を詳しく調べた。その結果、一般に定着している「押し紙」の定義--「押し売りされた新聞」という定義が、微妙に歪曲されたものであることが分かった。この誤った定義の下では、新聞社は販売店の「注文部数」に応じて、新聞を提供しただけで自分たちに新聞を押し売りした事実はないと主張できる。「押し紙」問題の逃げ道があるのだ。

公正取引委員会は、新聞特殊指定の下で、「注文部数」の定義を厳格にすることで、社会問題になり始めていた「押し紙」を取り締まろうとしたのである。

◆佐賀新聞の独禁法違反を認定

この理論を江上弁護士が最初に提示した裁判は、2020年5月に判決があった佐賀新聞の「押し紙」裁判である。この裁判で佐賀地裁は、佐賀新聞社に対して1066万円の損害賠償を命じた上に、同社の独禁法違反を認定した。

江上弁護士が打ち出した「押し紙」の定義を裁判所が無条件に認めたわけではないが、裁判官は法律の専門家なので、法律が規定している客観的な定義を考慮に入れて、判決を書かざるを得なかった可能性が高い。新聞特殊指定の下における客観的な「押し紙」の定義が示されているのに、それを無視して判決を下すことは、プロの法律家としての良心が許さなかったのだろう。

11月14日に提起された西日本新聞の「押し紙」では、「押し紙」の定義が、重要な争点のひとつになる可能性が高い。それを前提として、新聞社の公序良俗違反や押し売りなどの不法行為などが検証される。新聞社の詭弁は、徐々に通用しなくなっている。

この裁判の原告代理人を務めるのは、江上弁護士らである。

■初出、「デジタル鹿砦社通信」

2022年11月15日 (火曜日)

押し紙弁護団が報告書を公開、西日本新聞を被告とする「押し紙」裁判で、報道自粛の背景に「押し紙」問題

押し紙弁護団(江上武幸弁護士、他)は、14日に提訴した西日本新聞の「押し紙」裁判の提起に続いて、最新の「押し紙」裁判についての報告書を公表した。全文は、次の通りである。

 

「西日本新聞押し紙訴訟」追加提訴のご報告

2022年(令和4年)11月15日

福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団
                                                弁護士 江上武幸(文責)

この度、当弁護団は、佐賀県の西日本新聞販売店元経営の●氏を原告として5718万円(弁護士費用を含む)の押し紙仕入代金の返還を求める裁判を福岡地方裁判所に提訴しました。当弁護団は他にも西日本新聞社・読売新聞西部本社・読売新聞大阪本社を被告とする裁判をかかえており、いずれも最終局面を迎えています。全国的には、他の弁護士による訴訟が各地で提訴されており、今後も同様の裁判が続くことが予想されます。

新聞社の収入は販売店の仕入代金と紙面広告料の二本立てになっています。そのため、新聞業界では、販売店に経営に必要のない新聞を供給して仕入れ代金を不当に利得し、ABC部数を大きくして高額の紙面広告料を得ることを目的とした押し紙が古くから半ば公然と行なわれてきました。

昭和30年の新聞特殊指定で押し紙が禁止されましたが、それから67年が経過した現在も多くの新聞社は押し紙問題を自主解決できないまま今日に至っています(注:私どもが知る限りでは、熊本日々新聞は押し紙問題を自主解決しています。)。

急速な新聞離れと新聞広告収入の減少により、中央紙・地方紙を問わず新聞社の経営は極めて深刻な状況だといわれています。パソコンやアイホンの普及によって、紙の新聞の存続すら危ぶまれる時代になっています。そのような現実に直面し、新聞社はますます押し紙をやめようにもやめられなくなっているではないでしょうか。

これまでも、販売店経営者の入れ替わりは激しかったのですが、最近はいよいよ末期的症状を呈しているようです。販売店主の間では、借金を残さないで廃業できた販売店はまだ益しであるとの会話が交わされています。

押し紙は販売店経営者を苦しめるだけでなく、紙面広告料・折込広告料の詐欺であり、貴重な資源や労力の無駄づかいであり、新聞業界にあってはならない行為です。

社会の木鐸たるべき新聞社が、自社の利益のために長年にわたり押し紙を続け、その結果、経営陣だけなく記者や一般社員に至るまで法令遵守(コンプライアンス)意識の欠如やモラル崩壊がおきているとしても不思議ではありません。

旧統一教会と政権党との関係や、東京オリンピックをめぐる贈収賄事件など、本来、新聞社が真っ先に調査報道すべきだったと思われるニュースが何故これまで報道されてこなかったのか、その背後に押し紙問題のやましさが隠されているとしたら、憲法により知る権利を保障されている国民にとって、これほど不幸なことはありません。

私達弁護団は、押し紙問題はもはや司法の力に頼るしか解決の道はないと考えていますが、かならずしも三権分立の徹底していない司法制度のもとで、押し紙裁判を担当する裁判官が、司法の独立を堅持して押し紙撲滅のための抜本的な解決の道筋を示してくれるかどうかについても注目したいと思います。

「日本中枢の崩壊」(元通産官僚古賀茂明著)、「黒い巨頭最高裁判所」(瀬木比呂志元裁判官著)、「面従腹背」(前川喜平元文部事務次官著)、「アメリカに潰された政治家たち」(孫崎亮元外交官著)、「日本会議の正体」(ジャーナリスト青木理著)等の著作を読むとき、「風に立つライオン」(さだまさし作詞・作曲)の一節に「やはり僕たちの国は、残念だけれども何か大切な処で、道を間違えたようですね。」という歌詞が浮かんできます。

押し紙によって新聞販売店を廃業せざるを得なかった原告の皆さん方は、自身の損害の回復を求めるだけでなく、あとに残された販売店経営の方達が、胸をはって押し紙のない販売店経営ができるようにと願って裁判に立ち上がっておられます。新聞業界の将来を担う若い記者や担当の皆さん達が、正義感を奮い起こして、それぞれの社がかかえる押し紙問題の解決に向かって立ち上がられるよう期待しています。

以上

 

2022年11月14日 (月曜日)

【臨時ニュース】西日本新聞を提訴、「押し紙」による被害5700万円の損害賠償

【臨時ニュース】

西日本新聞の元店主が、「押し紙」で被害を受けたとして14日、約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。「押し紙」率は、最大で搬入部数の約25%程度。10%を下回っている時期もあり、相対的にはこれまで提起された「押し紙」裁判の例よりも低い。

原告代理人は、「押し紙」問題に取り組んでいる福岡の「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士)が担当する。同弁護団は、佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月15日判決)では、佐賀新聞による独禁法違反を認定させる判決を勝ち取っている。

詳細は後日。

2021年09月18日 (土曜日)

西日本新聞の「押し紙」裁判、裁判官が「和解に応じることはありますか」、4月と10月に過重な「押し紙」、その背景に広告営業の戦略

西日本新聞の元販売店主・下條松治郎さんが起こした「押し紙」裁判の第1回口頭弁論が、9月16日に福岡地裁で開かれた。被告の西日本新聞社は、擬制陳述を行った。

※擬制陳述:第1回の口頭弁論に限って、答弁書の提出を条件に、被告の出廷が免除される制度

出廷した原告弁護団によると、裁判長は原告の主張を確認した後、和解に関する弁護団の方針について意思を確認したという。

「裁判官から和解に応じることはありますかと聞かれ、ハイと答えたところ、『和解が有りなら裁判の体制が単独になるかも知れません、もちろん合議制になるかも知れませんが』と言われました」

第1回口頭弁論で、裁判官が和解に関する当事者の考えを確認するのは異例だ。その背景に、司法関係者が「押し紙」問題の本質を理解しはじめた事情があるのかも知れない。

◆◆
今年の7月27日、長崎県で西日本新聞の販売店を経営していた下條さんは、「押し紙」で損害を受けたとして、西日本新聞社に対し約3050万円の支払いを求める裁判を起こした。原告代理人は、江上武幸弁護士ら、「『押し紙』弁護団」が担当している。

この裁判の重要な争点のひとつに、「4・10増減」(よんじゅう・ぞうげん)と呼ばれる新聞社の販売政策がある。「4」は4月のABC部数を、「10」は10月のABC部数を意味する。
新聞社は、4月と10月に「押し紙」を増やすことによりABC部数をかさあげする。と、いうのも4月と10月のABC部数が、紙面広告の媒体価値を評価する祭のデータになるからだ。また、折込広告の営業の際に、広告主に提示する折込定数(適正な折込広告の枚数)の基礎データとなるからだ。

4月のABC部数は、6月から11月までの広告営業に使われる。また、10月のABC部数は、12月から翌年5月までの広告営業に使われる。広告主にとっては、悪質な「騙しの手口」であるが、多くの新聞社が販売政策として採用してきた。公正取引委員会や警察も、それを放置してきた。

下條さんが起こした「押し紙」裁判では、この「4・10増減」がはじめて法廷で審理される。

【参考資料】

■訴訟

■「押し紙」一覧

◆◆
なお、4・10増減は、かつてはあたりまえに行われていた。次に示すのは、2004年から2008年のデータである。調査対象の新聞社は、朝日、読売、毎日、産経の4社である。グレーの部分で4・10増減が確認できる。

2021年07月28日 (水曜日)

元店主が西日本新聞社を「押し紙」で提訴、3050万円の損害賠償、はじめて「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)」問題が法廷へ、訴状を全面公開

長崎県で西日本新聞の販売店を経営していた下條松治郎さんが、「押し紙」で損害をうけたとして、西日本新聞社に対し約3050万円の支払いを求める裁判を福岡地裁で起こした。福岡地裁は、27日に訴状を受理した。原告代理人は、江上武幸弁護士ら、「『押し紙』弁護団」が務める。

訴状によると、下条さんは2015年4月1日から2020年11月30日まで、西日本新聞エリアセンター「AC佐々・AC臼の浦」を経営した。

◆4月と10月に搬入部数が増加

この裁判で注目される争点のひとつは、水面下で問題になってきた「4・10増減」(よんじゅうぞうげん)と呼ばれる販売政策である。

「4・10増減」とは、新聞社が4月と10月を対象に、販売店に対する搬入部数を増やす販売政策のことである。4月と10月のABC部数が、広告営業のための公表データとして普及している事情があるからだ。

新聞社は4月と10月の搬入部数を水増しすることでABC部数をかさ上げし、優位に広告営業を展開する。クライアントに対して、より高額な広告料金を提示できる。販売店も折込広告の収入が増える可能性があるが、その反面、「押し紙」の負担が増え、結局、なんの益にもならに場合が多い。

次に引用するのは、訴状に添付された「押し紙」一覧表から抜粋した2017年3月・4月・5月の搬入部数である。部数の増減に着目してほしい。

2017年3月 :1115部
2017年4月 :1315部
2017年5月 :1116部

西日本新聞社は4月に搬入部数を増やし、5月に減部数している。さらに次に示すように、同年9月から11月にかけても、搬入部数が増減する。同じパターンである。

2017年9月:946部
2017年10月:1316部
2017年11月:1116部

10月に搬入部数を増やし、11月に減部数している。

このように西日本新聞社は、4月と10月をターゲットとして搬入部数を増やす販売政策を採用していた疑惑がある。そのことは、「押し紙」一覧でも確認できる。

「押し紙」一覧

訴状の中で、原告は「4・10増減」について次のように述べている。

被告は原告ら販売店に対する押し紙行為のひとつとして、本件で特徴的なものとして、4月と10月に他の月よりABC部数を増加させる「4・10増減」と呼ばれる販売方法をとっている。

紙面広告や折込広告を発注する広告主は、毎年4月と10月のABC協会が発表するABC部数(新聞社の新聞発行部数)を紙面広告や折込広告の発注部数を決定する指標として用いており、ABC部数は、広告媒体価値を決める上で、重要な役割を持つものとして知られている。そのため、発行本社としては、4月及び10月時点の発行部数が多ければ多いほど、広告料収入が増えることになり、その反射的効果として、販売店の折込収入が増えることとなる。

 そこで、被告は、原告に対する供給部数を4月と10月に外の月より増やす方策をとっている(以下「4・10増減」という。)。

◆新聞特殊指定に則した「注文部数」の解釈

独禁法の新聞特殊指定は、新聞社が「販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること」を禁止している。法廷でこの点を検証する前提となるのが、新聞特殊指定に則した「注文部数」の解釈である。コンビニなど普通の商取引においては、「注文部数」とは、単純に販売業者が注文した部数を意味する。

これに対して、新聞特殊指定の下における「注文部数とは販売業者が発行本社に注文する部数ではなく、販売業者がその経営上真に必要であるとして、実際に販売している部数にいわゆる予備紙、予備紙等を加えた部数のことである」(訴状)というのが、原告の主張である。

「注文部数」の解釈の重要性について、原告は訴状の中で、次のように述べている。

*なお、過去の押し紙裁判において、新聞社側は「注文部数」の解釈について、販売店が新聞社に文字通り「注文する部数」を意味しており、新聞社は販売店契約の新聞供給義務に基づき販売店が注文した部数を供給しているにすぎず、独禁法が禁止する「注文部数」越える部数の供給行為(押し紙行為)はしていないとの主張を行ってきていることから、本件でも被告がそのような主張を行うことが予想される。そのため、審理の初期の段階で新聞特殊指定の「注文部数」の定義をあらかじめ確認しておくことは極めて重要である。

この裁判では、「押し紙」行為による公序良俗違反も審理される見込みだ。詳細については、メディア黒書で順次報じる予定。

訴状の全文は次の通り。

 

西日本新聞「押し紙」裁判の訴状

2018年11月09日 (金曜日)

この1年の減部数、朝日は約34万部、読売は約37万部、日経は約31万部 西日本新聞は宮崎県と鹿児島県で休刊、埼玉県で朝日と読売の合売店が誕生

2018年9月度のABC部数を紹介しよう。新聞の没落傾向にはまったく歯止めがかかっていない。朝日はこの1年で約34万部、読売は約37万部、日経は約31万部の減部数となった。

繰り返し述べてきたように、ABC部数には「押し紙」が大量に含まれているので、ABC部数の減部数がそのまま読者数の減少を意味するわけではない。読者は減っているが、同時に「押し紙」を減らさなければ、販売網が維持できないほど、経営が悪化していると考えるのが妥当だ。

中央紙のABC部数は次の通りである。

朝日:5,793,425(342,912)
毎日:2,699,790(242,457)
読売:8,346,122(367,863)
日経:2,393,195(309,389)
産経:1,495,586(60,059)

 

◇進む販売店の統合

極端な部数減の下で新聞販売店の整理統合が進んでいる。業界紙によると埼玉県の西部地区にある朝日新聞と読売新聞の販売店が統合され、毎日、産経、日経を含む全紙を配達する体制になったという。

専売店単独では、経営が成り立たなくなってきたのである。

販売店の合売店化は、今後、急激に進みそうだ。

一部の新聞社が関東北部で近々に夕刊を廃止するのではないかという情報も飛び交っている。

西日本新聞はこの4月から宮崎県と鹿児島県での発行を休止した。また、日経新聞は、やはり4月に沖縄県で夕刊を休止した。

2018年09月25日 (火曜日)

佐賀県全域における西日本新聞の「押し紙」率は17%、2009年の内部資料

個々の新聞販売店における「押し紙」の実態は、「押し紙」裁判などを通じて明らかになったケースが数多くあるが、特定の新聞社の広域における「押し紙」の詳細も徐々に暴露され始めた。

最初に広域における「押し紙」の実態が表沙汰になったのは、2005年の毎日新聞社のケースである。社長室からもれた内部資料を『FLASH』などがスクープした。毎日新聞の全国における「押し紙」の実態が暴露されたのだ。それによると2002年10月段階で「押し紙」率は36%だった。

2016年には、北九州の地方紙(厳密にはブロック紙)である西日本新聞の佐賀県全域における「押し紙」の実態が明らかになった。この資料(2009年8月度)については、まだ認知度が低いので、再度紹介しておこう。

次に示すエクセルがその資料である。

西日本新聞・佐賀県全域における「押し紙」の実態

【表の見方】

1、表の最左の縦列は、佐賀県下の新聞販売店を示している。

2、黄色の縦帯は、新聞販売店が西日本新聞に注文した部数を意味する。たとえば鳥栖中央店では、1,802部を注文したことを意味する。

3、緑の縦帯は、新聞社が実際に搬入した部数を示している。鳥栖中央店のケースでは、2,158部である。

つまり鳥栖中央店は、1802部を注文したにもかかわらず、新聞社は注文部数を超えた2,158部を搬入したことになる。

佐賀県下における「押し紙」率は17%である。新聞社サイドがこの資料を作成して販売店と共有していたわけだから、新聞社は注文部数を超えた部数を販売店に搬入していることになる。当然、誰が見ても独禁法の新聞特殊指定に抵触している。

残紙は予備紙という詭弁も成り立たない。残紙が回収された事実があるわけだから、予備紙としては使われていなかったことになる。

2016年05月10日 (火曜日)

「押し紙」の決定的証拠、西日本新聞の内部資料を公開、佐賀県下の販売店ごとの「押し紙」部数が判明

次に紹介(エクセルにリンク)する一覧表は、西日本新聞の販売店主から提供された内部資料である。西日本新聞の佐賀県下における新聞の部数内訳を、販売店ごとに示したものである。

■西日本新聞の「押し紙」を示す内部資料

この内部資料は、西日本新聞社では、「押し紙」政策が行われていることを示している。念のために筆者は、同社の販売局に、「これは貴社の資料か?」と問い合わせてみたが、回答はなかった。

内部資料の提供者によると、この表は次のように読み解く。

1、表の最左の縦列は、佐賀県下の新聞販売店を示している。

2、最上段の列、左から4枠目にある「8/3数」は、新聞販売店が西日本新聞に注文した部数を意味する。たとえば鳥栖中央店では、1,802部を注文したことを意味する。

3、「8/3数」の右隣りの枠にある「8/6数」は、新聞社が実際に搬入した部数を示している。鳥栖中央店のケースでは、2,158部である。

つまり鳥栖中央店は、1802部を注文したにもかかわらず、新聞社は注文部数を超えた2,158部を搬入したことになる。

ちなみに「前年数」も「前月数」も、「8/3数」も同一の数字(鳥栖中央店のケースでは2,158部)になっているの事実から察すると、注文部数が固定化されている可能性が高い。

◇疑いの余地がない独禁法違反

独禁法の新聞特殊指定は次のように「押し紙」の禁止条項を設けている。

3 発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。

一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。

二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

◇販売店名を公表した理由

今回、販売店名をあえて公表したのは、販売店名と数字を公表することで、折込広告の水増し行為の防止策になるからだ。クライアントの利益に配慮したものである。

新聞社の「押し紙」にメスが入るのは時間の問題だ。秒読み段階に入っている。と、すれば次のテーマは、折込広告の水増し行為(「折り込め詐欺」)に対する賠償問題になる。

この問題は、新聞社よりもむしろ広告代理店の体質解明が前提になりそうだ。

2016年04月13日 (水曜日)

「押し紙」の存在を示す西日本新聞の内部資料を入手、崩壊へ向かう新聞販売店経営

「これからどんどん店主の自殺が増えるでしょう」

こんな訴えが、新聞販売店の店主からあった。新聞の没落が止まらないなか、販売店主らの間に絶望感が拡がっている。元凶は、「押し紙」である。

折込広告の需要が好調だった時代には、販売店は「押し紙」があっても、折込広告の水増しで「押し紙」の損害を相殺できたので、なんとか経営を維持できた。

たとえば1000部の「押し紙」があっても、折込広告を(一種類につき)1000枚水増しすれば、「押し紙」の損害を相殺できていた。ところがその折込広告の需要が低迷して、新聞販売店の経営基盤そのものが揺らいでいる。

しかし、新聞代金の納金を怠るわけにはいかない。怠れば、たちまち新聞社から担当員がやってきて、しつこく入金を迫る。期限までに入金しなければ、容赦なく新聞の供給を止めてしまう。

新聞は「味覚期限」が1日であるから、在庫品を配達するわけにはいかない。その結果、新聞販売店は入金を履行するために、借金まみれになったあげく、一方的に廃業に追い込まれる。自殺者もでる。

実態は昔からなにひとつ変わっていないが、最近は店主の方から「こんなばからしい仕事はできない」と言って、みずから廃業するケースが増えている。

◇西日本新聞の内部資料

最近、西日本新聞の「押し紙」を立証する決定的な内部資料を入手した。販売店ごとに、店主が注文した部数と、実際に新聞社が搬入した部数を記録したエクセル・ファイル形式のものだ。訪店した際に、担当員がPC上にこのデータをアップした後、消し忘れていたのを、店主が保存したものである。

この資料の公表方法は今後、検討していくが、少なくとも次のことが言える。

①同社が注文部数を上回る部数を販売店に搬入している事実。

②「①」は、「押し紙」を禁じた独禁法の新聞特殊指定に抵触している。

③昨年、西日本新聞の元店主が起こした「押し紙」裁判で、福岡地裁は原告の店主を敗訴させたが、判決が間違っている可能性が高くなった。資料により、「押し売り」が完全に立証できる。

実は、わたしはこの資料の存在を3、4年前から聞いていた。しかし、入手することはできなかった。店主さんが提出をためらっていたからである。

ところがあまりにも凄まじい経営実態を前に、内部告発の決意を固められたのだ。

「今、おおやけにしなければ、タイミングを逸する」

販売店の経営は追いつめられているのだ。

◇「押し紙」小屋の存在

「押し紙」問題は戦前からあったが、病的な異常さを呈してきたのは、今世紀に入ってからである。搬入される新聞の半分が「押し紙」だという内部告発を受けるようになった。

最初、わたしは「ガセネタ」だと思って取材しなかった。ところが2002年に産経新聞の店主・今西龍二さんが起こした「押し紙」裁判の資料を見て、状況の変化に気づいた。今西さんの店では、4割から5割が「押し紙」だった。

今西さんは入金が出来なくなり、銀行から自宅を取り上げられた。「押し紙」小屋の存在や「押し紙」回収の伝票の存在も明らかになった。

その後、次々と同じような内部告発があり、今では、7割が「押し紙」と聞いても驚かない。特に毎日新聞の実態が凄まじい。

しかし、日本新聞協会は、相変わらず「押し紙」の存在を否定している。「押し紙」の存在を認めたら、広告代理店に対して広告主から損害賠償の訴訟が次々と起こされるリスクがあるからではないか。

「折込詐欺」の主犯は、広告代理店である。販売店ではない。広告代理店の営業マンが架空の新聞部数を提示して、クライアントを騙しているのである。

しかも、この業務に大手の広告代理店もかかわっていることが最近分かってきた。