化学物質過敏症の検索結果

2024年01月17日 (水曜日)

化学物質過敏症の診断をめぐる新しい流れ、一定の割合で精神疾患

化学物質過敏症がクローズアップされるようになっている。化学物質過敏症は、文字どおり、ある種の化学物質を体内に取り込んだときに、神経が過敏に反応して、さまざまな症状を引き起こすと説明されている現象である。

WHOは、化学物質過敏症を公式の病名として認定しているが、最近は、別の疾患が原因で出現する症状のひとつと考えている専門家も少なくない。

現在、最も中心的な議論のひとつが、化学物質過敏症状を訴えている患者の中に一定の割合で精神疾患の患者が含まれているのではないかという議論である。これについて、典子エンジェルクリニックの舩越典子医師(写真)は次のように話す。

「問診や行動から明らかに精神疾患の疑いがある患者さんに対してわたしは、精神科を受診するように勧めています。精神科で治療を受けて、回復された患者さんも多数おられます。こうした患者さんは、元々、精神疾患を患っているために化学物質過敏症の症状が出現したということです」

舩越医師の話を裏付ける公文書も存在する。たとえば東海大学医学部の坂部貢医師(写真)は、「平成 27 年度 環境中の微量な化学物質による健康影響に関する調査研究業務」と題する報告書の中で、化学物質過敏症と同じ症状を現わす患者には精神疾患の症状が見られるケースがあると述べている。精神疾患との併症率は、なんと80%にもなるという。

この報告書が公表されたのは平成27年、つまり2015年である。9年前には既に化学物質過敏症の伝統的な診断方法(問診を最重視した診断)をめぐる疑問が提起されていたのである。

◆◆

化学物質過敏症の診断について舩越医師は次のように話す。

「まず、よくあるのが神経に何らかの傷がある場合です。腫瘍、頸椎症、頸椎ヘルニア、腰椎症、腰椎ヘルニア、神経痛、脳脊髄液減少症などが原因で神経が傷つくと、神経が敏感になってごく微量の化学物質でも身体が反応しやすくなります。この状態を一般的には化学物質過敏症と言っていますが、神経を傷つけた別の疾患があるわけですから、化学物質過敏症は症状であって、病名というのは不適切です。実際、原因となる元の疾患を治療すれば、不快な症状は消えます。また、ビタミンDや亜鉛が不足するなど栄養がアンバランスになっていたり、慢性上咽頭炎がある場合なども、不快な症状が現れることがあります。さらに患者さんに統合失調症や神経発達症などの精神疾患がある場合もあります。」

ちなみに特定の化学物質に対するアレルギー反応は、体質が原因なので、俗にいう化学物質過敏症とは性質が異なるという。またサリンなど神経そのものに対する毒性が強い化学物質を体内に取り込んだ場合に出現する症状は、むしろ「中毒」の範疇にはいる。

◆◆

化学物質過敏症の診断方法をめぐる議論が活発化したのは、ここ数年のことである。その引き金となったのは、横浜副流煙裁判である。

この裁判は煙草の副流煙による健康被害を争点とした事件である。2017年11月に横浜地裁で始まった。Aさん一家3人が、同じマンションの下階にすむミュージシャンに対して、煙草の副流煙により「受動喫煙症」になったとして4500万円の損害賠償を求めた事件である。判決は2020年に原告の敗訴で終わった。

提訴の根拠となるA家3人の診断書を作成したのは、化学物質過敏症の権威と言われてきた作田学医師や宮田幹夫医師らである。しかし、2人は問診を重視して診断を下し、原告のひとりが精神疾患である可能性を考慮していなかった。考慮せずに、「受動喫煙症」、「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を交付したのである。その診断書が提訴の根拠となった。

ところが裁判の中で、ミュージシャンがほとんど煙草を吸っていなかったことが分かった。たとえ吸っても部屋が防音構造で密閉されていて、煙が外部にもれる状況がなかったことも判明した。さらにミュージシャンが自宅を不在にしているときにも、原告が煙草の匂いと煙に悩まされていたと訴えていたことが明らかになった。それにもかかわらず作田医師は、副流煙の発生源が1階に住むミュージシャンであると診断書に明記した。

現在、作田医師は元被告のミュージシャンとその家族から、損害賠償を請求する裁判を起こされている。化学物質過敏症をめぐる誤診が「冤罪」を生んでしまったからである。

横浜副流煙裁判に関心をいだいた舩越医師は、化学物質過敏症についての自らの見解を、インターネット放送などで表明するようになった。患者の中には、一定の割合で精神疾患の人が含まれているというのが舩越医師の見解である。前出の坂部医師の報告書もそれを裏付けている。

 

2023年09月30日 (土曜日)

化学物質過敏症は不治の病気ではない。舩越典子医師インタビュー

化学物質過敏症は不治の病気ではない。舩越典子医師インタビュ 新世代の公害として浮上している化学物質過敏症について、典子エンジェルクリニックの舩越典子医師に伺った。化学物質過敏症は一旦、罹患すると治癒しないという偏見が昔からあるが、最新の臨床医療では治癒できる病気になっている。それが常識として、定着しはじめている。(インタビュアー:黒薮哲哉)

―――化学物質過敏症の原因について教えてください。

現在のところ化学物質過敏症の原因はいくつかあると考えられます。まず、中枢性感作と呼ばれるものです。これは客観的に神経などに傷がある場合です。たとえば脳神経系の腫瘍、頚椎症、頸椎ヘルニア、腰椎症、腰椎ヘルニア、神経痛、脳脊髄液減少症などで、神経がダメージを受けている場合です。

また、病気ではなくても、交通事故や強いショックにより神経が損傷された場合です。神経が損傷すると、神経そのものが非常に敏感になり、化学物質過敏症になることがあります。従って、神経を薬剤などで修復すれば、化学物質過敏症は治癒します。ちなみに慢性上咽頭炎も、原因のひとつです。

また、栄養の面からいえば、ビタミンD、亜鉛が不足するとこの病気の原因になります。さらに類似した症状として、発達障害や統合失調症の可能性もあります。

―――治療方法を教えてください。

中枢性感作に対しては、リリカ・タリージェを処方します。特に頭痛、頭の圧迫感、集中力の低下、頭が回らない、動いているものが眼で追いにくい、眼のピントが合わないといった症状に有効です。
栄養不足が原因の場合は、内服で補給します。特にビタミンDは効果が大きいです。神経系の症状に有効です。

慢性上咽頭炎に対しては、鼻うがいや、EAT(上咽頭擦過治療で従来Bスポット治療と呼ばれていたもの)が有効です。ニオイに対して気にならなくなった、イライラが減ったという人が多いです。

さらに精神科疾患の場合は、精神科専門医による治療が必要です。精神疾患であるのに、化学物質過敏症と誤診されてしまうと、この患者さんは、延々と不快な症状を引きずることになります。

―――治療する上で、難しい点は?

かつて化学物質過敏症は治癒しないという考え方が一般的でした。
患者さんは、治らない難病だと信じ切っている。治療法がないと思い込んでいるために、徹底的に化学物質を排除しなければならないと思っている。

そのため、患者さんの中には、治療についての話に積極的に耳を傾けない人がいます。そんなことより、化学物質を排除する情報が欲しいと言われます。ひどい場合は、わたしの話を全く聞かず、他のクリニックではこうだったと、逆にわたしの方が説教されます。

薬剤に対する拒否感が強く、どんな病気になっても、薬は飲んではいけないものだと信じ切っています。

そのため、いろいろな医療機関でトラブルを起こします。あれもダメこれもダメと言う。

―――精神疾患との区別は?

これがなかなか難しい。わたしは、精神疾患の疑いがある患者さんには、まず最初に精神科の受診を勧めます。しかし、そのアドバイスがが大変屈辱的なことだと受け止められてしまいます。
少しでも精神科というワードを言うと、怒り出す。他の医師は精神科疾患ではないとはっきり認めてくれたと叱られることもあります。
わたしの方から、「あなたは元気になりたいのですか?治りたくないのですか?」と聞くと、「もちろん!元気になりたいし、治るものなら治りたいですよ」と言われます。

―――障害年金が目的で、クリニックを受診する患者も増えていると聞きますが。

もし、障害年金の診断書だけが欲しいというのであれば、それは医療とは呼べません。1例ではありますが、当院では実施した神経生理学的検査が全く正常値であった診断しているの、他のクリニックが化学物質過敏症の診断書を発行していたケースがありました。
医師の側にも、積極的に化学物質過敏症の診断書を発行して、障害年金の受給を支援している人がいますが、長い目でみると、それにより患者さんは治療の機会を奪われます。本当の親切とは言えないでしょう。

2023年02月03日 (金曜日)

《診断書の闇》を医師が内部告発--化学物質過敏症の権威・宮田幹夫教授が「エイヤッ」で交付、障害年金・スラップ訴訟に悪用も

化学物質過敏症の権威として知られる宮田幹夫・北里大学名誉教授(87歳)が、大阪府に住む女性患者のために、診断書を交付した。女性は最初、地元のクリニックを受診したが、診察した舩越典子医師は、化学物質過敏症とは診断しなかったため、上京して宮田医師の外来を受診した結果、宮田医師が診断のうえ交付したもの。その後、宮田医師は船越医師に書簡を送付し、女性に精神疾患の疑いがあることを知りつつも「エイヤッ」(書簡より)で化学物質過敏症の診断書を交付したと報告。

さらに「何かありましたら、(患者を)お馬鹿な宮田へ回して頂きたいと思います」とも伝えた。化学物質過敏症と精神疾患の間にはグレーゾーンがあり、診断は医師によって異なる。安易な診断書交付は、交付料をとるビジネスになりかねないほか、障害年金不正受給の温床になる。さらには、横浜副流煙裁判のように「SLAPP訴訟」にも悪用される。昔から水面下で行われていた「不正診断書交付」問題を、初めてクローズアップする。

Digest
化学物質過敏症と受動喫煙症の関係
診断書を、「エイヤッと書いております」
横浜副流煙裁判に材を取った映画『窓 Mado』
作田医師が作成した3通の診断書の問題点
宮田医師、「すべて問診だけで決めます」
現在も使われている20年前の診断基準
精神疾患との関係を指摘する環境省の報告書

著名な医師による診断書の不適切な交付をめぐり、Twitter上で「炎上」が広がり始めたのは、ニューソク通信が須田慎一郎氏のインタビュー番組(YouTube)を公開した後だった。

140文字の短い投稿。そのツィートの中には、憎悪を露呈して言葉を吐き散らした印象のものもある。たとえばアカウント名「化学物質過敏症患者」は、その典型にほかならない。番組が批判した医師をかばう次の投稿である。

あの鼻くそ動画がでても、Twitterを見る限り、先生の評価は揺るがない。知識のある人はきちんとした評価をできる。藪から棒の黒い鼻くそ達を信じる人はいないが、今後、無知な短絡的思考の人が、あの鼻くそ動画のわかりやすいレトリックを信じる恐れはある。藪からいでし、黒い鼻くそたち。【続きはMyNewsJapan】

化学物質過敏症をめぐるツイッター「炎上」、知的な人々による軽い言葉の発信、毎日新聞の元記者も

デジタル鹿砦社通信(1月14日付け)で紹介したYouTube番組に、SNS上で波紋が広がっている。ニューソク通信が配信した須田慎一郎さんの下記インタビュー番組である。既にアクセス数は、10万件を超えた。

配信直後からSNS上で、出演者に対する批判が広がった。それ自体は、議論を活性化するという観点から歓迎すべき現象だが、ツィートの内容が事実からかけ離れたものがある。わたしに対する批判のひとつに、「取材不足」という叱咤があった。化学物質過敏症がなにかを理解していないというのだ。【続きはデジタル鹿砦社通信】

2022年12月05日 (月曜日)

医師が内部告発、宮田幹夫・北里大学名誉教授の医療行為の評価、化学物質過敏症の安易な診断書交付を問題視

糸口が見つかると、そこから連鎖が起きて事件が拡大することがある。煙草の副流煙で「受動喫煙症」になったとして隣人が隣人を訴えた横浜副流煙裁判で新しい動きがあった。日本禁煙学会の作田学理事長と共に意見書を提出して原告を支援した宮田幹夫・北里大学名誉教授の医療行為に汚点があるとする内部告発が筆者のもとに寄せられたのだ。

既報してきたように、横浜副流煙裁判では作田医師が作成した診断書が信用できないしろものではないかとの疑惑が浮上した。原告の請求は棄却され、作田医師は刑事告発された。警察の取り調べ後に検察へ書類送検された。不起訴になったものの、検察審査会が「不起訴不当」の判断を下した。

患者の自己申告に基づいて所見を作成し、しかも現地を取材することなく煙の発生源を特定していたからだ。診断書交付の手続きにも、医師法20条(無診察による診断書交付の禁止)に違反するなどの汚点があった。

こうして捻じ曲げられた診断書を根拠に原告の患者らは、隣人に対して裁判へと暴走し、4518万円の金銭を請求したのである。

この裁判で原告は、宮田医師が交付した診断書も裁判所に提出した。宮田医師はその診断書に化学物質過敏症の病名を付していた。

この診断書自体が患者の自己申告による根拠に乏しいものだという証拠はなにもないが、宮田医師について筆者は、容易に化学物質過敏症の診断書を交付してくれる医師であるという評判をたびたび聞いていた。

11月に、化学物質過敏症の治療を行っているあるひとりの医師から筆者のもとに内部告発があった。宮田医師が安易に化学物質過敏症の病名を付した診断書を交付するというのだ。筆者は、告発者の酒井淑子(仮名)医師から、その裏付け証拠を入手した。

◆化学物質過敏症とは診断できず

酒井医師は、具体例として患者A(女性40代)のケースを報告した。Aさんは、社労士を同伴して酒井医師の外来を受診した。化学物質過敏症を理由に障害年金を申請するので、化学物質過敏症の病名を付した診断書を交付してほしいというのだった。治療を受けることは希望していなかった。Aさんは、酒井医師の外来を訪れる前には、他の医療機関を転々としていた。酒井医師が言う。

「入室するなり、この場所にいるとしんどいとか、窓を開けてとか、様々な症状を訴えておられました。当院は患者さんに配慮してかなり無香料にしていますが、化学物質過敏症になったことがある私にも感じられない臭いを訴えておられました。ジェスチャーも派手でした。診断書を交付してもらえるかどうかをずっと心配しておられました」

ちなみに酒井医師によると、Aさんに同伴した社労士が着ていた衣服から柔軟剤の臭いがしたという。

酒井医師は問診を行った後、Aさんを検査した。最初に神経経路に異常がないかを確かめるために眼球運動の検査を実施した。患者にランプの光を目で追ってもらい、反応を確かめる。Aさんは「見えない」「追えない」と繰り返すだけで、目で光を追う努力をしない。酒井医師が、「これでは診断書は書けませんよ」と注意すると大声で泣き始めた。

「わたしは、Aさんに『頑張ってランプを追いかけてくれた方が悪い所見が取れるから』と言って再検査を行いました。検査の結果は、念のために知り合いの専門家にもアドバイスを求め、最終的に化学物質過敏症とは診断しませんでした。受診するときの様子からして心因性の疾患を強く疑いました」

◆診断書を「エイヤッと書いております」

酒井医師から診断書交付を断られたAさんは、電車を乗り継ぎ、5時間かけて上京し、東京都杉並区にある宮田医師のクリニックを訪れた。そして宮田医師から化学物質過敏症の病名を付した診断書交付を受けたのである。これらのことは、後日、酒井医師が宮田医師のクリニックのスタッフと電話で話して判明した。スタッフはAさんについて、「一人でいらっしゃいましたよ」と言ったという。

宮田医師は9月に酒井医師に対して、Aさんの診断書交付について報告する書簡を送付してきた。それによると宮田医師も、心因性のものなのか、それとも化学物質過敏症であるかの判断に悩んだようだ。たとえば次の記述である。

「精神科の医師が診断書を書くか、私が書くか、だけの違いだと思って、エイヤッと書いております」

「ともかく火の粉をかぶるつもりで、診断書を書かせて頂きました」

「何かありましたら、お馬鹿な宮田へ回して頂きたいと思います」

病状が明確に判断できないのに、「エイヤッ」で化学物質過敏症の診断を下し、その責任は自分が取ると言っているのだ。

その後、Aさんが実際に診断書を根拠に障害年金を申請したかどうかは不明だが、最初に酒井医師の外来を受診したとき、社労士を伴っていたことからしても、障害年金が目的で、診断書を入手しようとしていたことが推測できる。酒井医師が言う。

「本当に重症な化学物質過敏症であれば、5時間も電車に乗って宮田先生の外来まで行けないと思います」

筆者は宮田医師の外来を受診したひとを何人か知っているが、全員が化学物質過敏症の診断書を交付してもらったと話している。

◆市民運動・住民運動に客観性に乏しいデータは禁物

化学物質過敏症は客観的な病気のひとつである。それゆえに本当にこの病気に罹患して苦しんでいる患者は、障害年金などで手厚く保護しなければならない。しかし、心因性の患者が多いのも事実なのである。また、他の病気との区別が難しい。たとえば頭痛や吐き気やめまいといった症状は、化学物質過敏症に罹患していなくても現れるからだ。それを無視して、化学物質過敏症と断定してしまうと、病状の正確な実態と、患者の広がりの実態が客観的に把握できなくなる。

病状の原因が不明なのに、「エイヤッ」で診断書を交付することは、科学者の姿勢として間違っている。

化学物質や電磁波による複合汚染の問題に取り組んでいる市民運動や住民運動は全国各地にある。宮田医師の診断書は、これらの運動の重要な根拠になってきた。しかし、その診断書に疑義があるとなれば、運動を破滅に追い込みかねない。客観的な事実を前提に運動を進めなくては、運動が広がらないだけではなく、深刻な2次被害を招きかねない。その典型が横浜副流煙事件なのである。

また障害年金などの不正受給に繋がりかねない。

筆者は宮田医師に対しAさんを化学物質過敏症と診断した根拠などについて、書面でコメントを求めた。回答は次の通りである。

「お問い合わせのありました化学物質過敏症の診断基準については、1999年に米国国立衛生研究所主催のアトランタ会議において、専門家により化学物質過敏症の合意事項が設けられております。こちらをご確認頂ければと思います」

1999年の合意事項とは、次の6項目である。

【1】化学物質への曝露を繰り返した場合、症状が再現性をもって現れること。

【2】健康障害が慢性的であること。

【3】過去に経験した曝露や、一般的には耐えられる曝露よりも低い濃度の曝露に対して反応を示すこと。

【4】原因物質を除去することによって、症状が改善または治癒すること。

【5】関連性のない多種類の化学物質に対して反応が生じること。

【6】症状が多種類の器官にわたること。

化学物質過敏症の診断は一筋縄ではいかない。診断に関する疑問が浮上した以上、学閥や派閥を排除してオープンな議論や論争を行うべきだろう。科学の世界に上下関係はないはずだ。さもなければ2次被害に繋がりかねない。

 ■初出、デジタル鹿砦社通信 

2019年02月06日 (水曜日)

「その一服、4500万円」、横浜の副流煙裁判、十分な根拠なく化学物質過敏症の原因を藤井家の煙草と事実摘示

横浜の副流煙裁判の資料を入手してコピーした。この裁判の取材をはじめたのは、昨年の9月で、予定では2月で終止符を打つことになっていた。ところが先日、裁判の体制が合議制になったので、わたしも取材を本格化させ、古い取材ノートや資料を倉庫から取り出したうえで、他の裁判資料も被告の藤井さんから入手した。

裁判資料を読みかえしてみて、暗い好奇心を刺激された。わたしはこれまで数多くの裁判を取材してきたが、横浜の副流煙裁判ほど不可解な事件は前例がない。2008年に弁護士で自由人権協会の喜田村洋一代表理事が、読売の江崎徹志法務室長と結託して、わたしを提訴した事件(喜田村らの敗訴、弁護士懲戒請求)を体験したことがあるが、その事件よりもはるかに悪質だ。

裁判の構図は、既報したようにマンションの2階に住む横山(仮名)家の3人(夫妻と娘)が、同じマンションの1階に住む藤井将登さんに対して、煙草による副流煙で化学物質過敏症になったとして、4500万円を金銭支払いを求めたものである。

訴状や準備書面などによると藤井将登さんは四六時中、外国製の煙草を吸っていたとされている。奥さんの敦子さんも、ヘビースモーカーという設定になっている。が、事実は藤井将登さんは、ヘビースモーカーではなく、少量の煙草を二重窓になった自室で吸っていたに過ぎない。奥さんは煙草は吸わない。

原告・横山氏の山田義雄弁護士は、藤井夫妻の副流煙が原因で横山家の人々が重症の化学物質過敏症になったという事実を摘示した上で、4500万円を請求してきたのである。その前段、神奈川県警の斎藤本部長も動かしている。

◆原告が実は元スモーカーだった

ところが昨年の10月の下旬になって、実は横山家の主である横山明氏が、元スモーカーであったことが発覚した。発覚の経緯は明かさないが、そ結果、裁判所へ次のような陳述書を提出せざるを得なくなったのである。

私は、以前喫煙しておりましたが、平成27年春,大腸がんと診断され、その時から完全にタバコを止めました。(略)

私は、タバコを喫っていた頃は、妻子から、室内での喫煙は、一切、厳禁されていましたので、ベランダで喫煙する時もありましたが、殆どは、近くの公園のベンチ、散歩途中、コンビニの喫煙所などで喫煙し、可能な限り、人に配慮して喫っておりました。

裁判所に自分の喫煙歴を隠し、もっぱら藤井家の副流煙が化学物質過敏症の原因と事実摘示をした上で、高額訴訟を起こしたのである。みすからが喫煙者であったのだから、原因は自分にあるはずだが、藤井家の副流煙が第一原因であるというのだった。

明氏は、前出の申述書で述べているように、「ベランダ」など野外で煙草を吸っていた。自分の煙草の副流煙が自宅に入っていたと考えるのが自然だ。物理的にはそう考えうる。

また、明氏は公園のベンチやコンビニの喫煙所でも、煙草を吸っていたというのだが、そうした家族への「配慮」により、煙に含まれる化学物質を遮断できるわけではない。『化学物質過敏症』(文春新書)の中で、著者の宮田幹夫氏は、衣類や文房具に付着した煙草の煙も、化学物質過敏症の患者にとっては苦痛であると記述している。次のくだりである。(77ページ)

実はインタビューをしているとき、近くにいた次男の茂弘くんが突然、鼻血を出してしまった。昌子さんが「どうしたん?」と聞くと、茂弘くんは、「分からん」と答える。すかさず紘司くんが「タバコやと思う。さっきから喉がひりひりしていたから」と指摘した。

もちろん、われわれは煙草を吸っていたわけではない。その日は朝から喫煙を控え、整髪料もつけづに入江さん宅を訪問した。おそらく、入江さん宅へ向かう途中、新幹線の車内で他の人の吸うタバコの煙が服に染みついたに違いない。日頃から使っているノートや書類、手荷物にも染み込んでいる。

横山家の生活環境と藤井家の生活環境の違いは、副流煙だけに関して言えば、同じなのだ。差別化するものは、吸っていた煙草種類ぐらいである。

とはいえ、煙草だけが化学物質過敏症の原因とは限らない。それは無数にある原因のひとつに過ぎない。特定は不可能というのが実態である。さらに電磁波問題とのかかわりも考慮しなければならない。ある特定の化学物質に汚染された状況の下で、電磁波に被曝したときの人体影響などである。(この問題に最も詳しいのは、宮田幹夫氏である。)

われわれの生活空間は化学物質で溢れている。米国のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する新しい化学物質の数は、1日で優に1万件を超える。電磁波による被曝も増えている。生活環境そのものが静止の状態ではなく、常に変化しているのである。複合汚染の時代なのだ。

こうした時代において、ある特定の化学物質だけをピックアップして、化学物質過敏症の原因として特定する態度は、科学的とは言えない。(この点については、2月4日付けの黒書を参照)

 

◆化学物質曝露の積み重ね

さて、明氏が元喫煙者であったことを、昨年の10月まで、原告は裁判所に隠していたわけだが、それ以降も裁判を取り下げていない。訴訟の前提事実が虚偽だったにもかかわらず、依然として、藤井家の煙草が化学物質過敏症の唯一の原因だという主張を続けているのだ。しかも、その主張に宮田幹夫博士が加勢している。

1月24日付けインタビュー(山田義雄弁護士が宮田博士に対しておこなったもの)で、明氏の喫煙歴と化学物質過敏症の関係について、次のような質問をしている。

山田:○子(娘)さんの父明さんは、平成27年春頃までタバコの喫煙者であったのですが、明さんは■子(妻)さんや○子さんに配慮して、室内では喫煙せず、近所の公園で喫煙していたとのことです。父明さんが仮に、室内でタバコを吸っていなかったという前提でも、それも1年程前に喫煙をやめていた場合でも、父明さんの過去の喫煙は、○子さんの化学物質過敏症の発症に何らかの影響があるものでしょうか。

宮田:化学物質過敏症の発症には、それまでの化学物質曝露の積み重ねの後に発症してくることもあります。その意味では発症の基盤の一部には父親からの喫煙被曝歴が関与している可能性はあると思います。しかし副流煙曝露もない状態だったとしたら、父親の喫煙の影響は非常に少ないと思います。

宮田博士の回答には論理に矛盾がある。回答の前半では、「発症の基盤の一部には父親からの喫煙被曝歴が関与している可能性はあると思います」と述べ、その直後には、わざわざ「しかし副流煙曝露もない状態だったとしたら、父親の喫煙の影響は非常に少ないと思います」と正反対のことを言っている。ベランダでの喫煙に副流煙がセットになっていると考えるのが常識ではないか。

ところが山田弁護士は、このわずかな論理の破綻に付け込んで、次のように宮田理論を歪曲している。

これについて宮田医師は、

「化学物質過敏症の発症には、それまでの化学物質曝露の積み重ねの後に発症してくることもあります。その意味では発症の基盤の一部には父親からの喫煙被曝歴が関与している可能性はあると思います。しかし副流煙曝露もない状態だったとしたら、父親の喫煙の影響は非常に少ないと思います。」

 と、述べる。
 すなわち、原告明の喫煙が原告○子や■子に何らかの形で、積み重なって化学物質過敏症の要因の一つになる可能性があることはあり得るとのことである。それもある意味では当然であろう。
  しかし、平成28年3月頃までは、原告明はタバコを止めて1年以上経過しており、その後副流煙被曝の可能性がなかったとすれば、2人に化学物質過敏症の発症はあり得なかったと言えるであろう。

 その意味でも、被告の喫煙、副流煙(すなわち喫煙の二次被害)が最大の要因であったことは、少しも揺るがない事なのである。

宮田氏が言う「化学物質曝露の積み重ね」をまったく無視して、ひたすらその責任を藤井家に転嫁しているのである。

 

◆宮田意見書は、「信頼性に疑問があるという意見も」

なお、化学物質過敏症をめぐる裁判は、過去にも起きているが、被告はいずれも化学物質の発生源である企業である。個人が訴えられたケースは初めてである。過去の裁判でも、診断方法が問題になっている。

横浜の副流煙裁判で山田弁護士は、問診の重要性を強調している。「診断に一番重要なのは問診です」(宮田氏)。しかし、たとえばジョンソンカビキラー事件の第1審では、「宮田意見書は問診だけに頼ったもので、医学的裏付けに乏しく、信頼性に疑問があるという意見もあることが認められる」と判断している。(出典:「化学物質過敏症をめぐる問題点」)

 

煙草の副流煙と化学物質過敏症をめぐる裁判、診断書を作成した作田医師に対して訂正を求める内容証明を送付

煙草の副流煙が原因で化学物質過敏症になったとして隣人相互が原告(3人)と被告(1人)の関係になって進行している裁判に新しい動きがあった。被告の藤井将登さんの妻である藤井敦子さんが、原告3人が被告の煙草が原因で「受動喫煙症」になったと診察した作田学医師(訴外)に対して、診断書の訂正を求める内容証明を送付したのである。

この裁判は受動喫煙により健康被害を受けたとして、4500万円の金銭支払いなどを求めたものである。訴状にある訴因は、「受動喫煙による化学物質過敏症に罹患するなど甚大な被害を被った」と述べている。

【これまでの概要】重大な疑問が浮上、作田学医師は「受動喫煙レベルⅢ」と診断・認定したが、原告患者が喫煙者だった事実をどう見るのか? 煙草の煙と化学物質過敏症をめぐる裁判

作田医師は、3人の原告を次のように診断した。

原告A:受動喫煙レベルⅢ、咳、淡、咽頭炎

原告B:受動禁煙レベルⅣ、化学物質過敏症、

原告C:受動禁煙レベルⅣ、化学物質過敏症

ところが提訴から約1年後の平成30年10月26日になって、原告Aが平成27年の春まで煙草を吸っていた事実をみずからの陳述書で明らかにした。(理由については言及しない)作田医師が診断書を作成したのが、平成29年4月で、原告らが体調不良を訴えはじめたのは、それよりも半年ほど前だから、原告Aがみずから吸っていた煙草が体調不良の原因である可能性の方がはるかに高い。

それにも係らず作田医師は上記のような診断を下したのである。そこで藤井敦子さんは、内容証明で訂正を求めたのだ。

 

◇喫煙習慣についての事実摘示

藤井さんが訂正を要求している点はいくつかある。たとえば夫である藤井将登さんの喫煙歴である。藤井さんは内容証明で次のように述べている。

夫の喫煙量は1日1.4グラム(そのうち半量は外出時に吸われます)でしかなく、私と同居の娘も全く煙草を吸いません。近所からクレームが寄せられたことはなく、管理組合へも●●氏以外からのクレームはありません。

これに対して作田医師は、原告Bの診断書の中で次のように藤井将登さんの喫煙習慣について事実を摘示している。

藤井将登の副流煙を四六時中吸わされたことにより、受動喫煙症および化学物質過敏症になっていった。

なお、問題になっているマンションのすぐ近くのバス停付近で煙草の吸殻が散乱している場所が確認されており、ここが煙の発生源である可能性もある。が、それにもかかわらず作田医師は、藤井将登さんが四六時中煙草を吸う事が原告Bが受動喫煙症や化学物質過敏症になった原因であると断定的に記述したのである。

藤井さんが記述の訂正を求めるのは当然である。

さらに原告Aが、元喫煙者であるにもかかわらず、「受動喫煙レベルⅢ」と診断したことについても訂正を求めている。

念のために補足しておくが、被告にされた藤井将登さんが煙草を吸っていたのは事実である。しかし、それはベランダで吸うといったものではなく、二重窓になった部屋の中で吸っていたに過ぎない。しかも、仕事の関係で外出していることの方が多い。自室で四六時中煙草を吸うなどということはありえない。

 

◇尿からのニコチン検出は?

さらに筆者が藤井さんを取材したところ、上記2点以外にも検証すべき項目が浮上した。次のURLで紹介するのは、作田医師らが作成した「受動喫煙症診断基準」と題する文書である。

「受動喫煙症診断基準」

後半に受動禁煙レベル0からレベル5までの判断基準が明記されている。この部分に注目してほしい。

作田医師は原告Bと原告Cを、レベルⅣと診断しているが、「受動喫煙症診断基準」によると、「非喫煙者が週1時間を超えて繰り返しタバコ煙に曝露。曝露後24時間以内に測定した尿からコチニンを検出」されなければ、レベルⅣとは診断されない。筆者が取材した限りでは、原告Bと原告Cの尿からニコチンが検出されたことを裏付ける証拠は提出されてない。

ちなみに作田医師がこれら3通の診断書を作成した平成29年4月は、事件現場のマンションでは、定期修繕工事が行われており、塗装のさいにイソシアネートなどの化学物質が大量に空気に混入していた可能性が高い。もし、そうであれば、原告Aを受動喫煙レベルⅢと認定したことに別の判断ミスも浮上する。と、いうのも「受動喫煙症診断基準」によると、「タバコ煙以外の有害物質曝露がない」ことがレベル3の認定条件になっているからだ。

 

◇神奈川県警の刑事3人と警官1人

提訴の根拠となる事実に十分な裏付けがないことが、作田医師による診断書作成プロセスの中で見えてくる。根拠に乏しいことを知りながら裁判を起こしたのであれば、訴権の濫用ということになる。

喫煙者を減らしたいという運動は理解できる。筆者も嫌煙派だから、非喫煙人口が増えることは歓迎する。しかし、運動の方法があまりにもラジカルになり、医療や司法が悪用されるとなれば、疑問視せざるを得ない。

しかも、この事件には、神奈川県警の刑事3人と警官1人が、藤井家の人々を2度に渡り取り調べているのである。こちらの真相はまだ全く闇の中だ。

重大な疑問が浮上、作田学医師は「受動喫煙レベルⅢ」と診断・認定したが、原告患者が喫煙者だった事実をどう見るのか? 煙草の煙と化学物質過敏症をめぐる裁判

俗な表現をすれば、「とんでも裁判」が増えている。そのなかでもとりわけ見過ごせないのは、メディア黒書でもたびたび取り上げてきた煙草の副流煙が化学物質過敏症の原因だとして、隣人を提訴した裁判である。請求額4500万円。

謎の渦中にあるといおうか、悪意に満ちているといおうか、取材を重ねるにつれて、その背後にほのみえる像が輪郭を現してくる。

何が問題なのかを整理しておこう。

【概要】
裁判の原告は小野田家(仮名)の3人。夫妻とその娘である。被告は、藤井家の家主である。

原告の小野田家と被告の藤井家は同じマンションの2階と1階に住む隣人同士である。2階に住む小野田家(仮名)の3人が、1階に住む藤井家の家主を訴えたのである。原因は藤井家を発生源とする煙草の副流煙である。副流煙で化学物質過敏症になったから、4500万円のお金を払いなさい、という訴訟だ。

なお、筆者はこの裁判に重大な関心を寄せているが、禁煙を奨励する運動には賛同するし、自分自身は煙草を吸わないし、化学物質過敏症が客観的な「病気」であるという認識も持っている。さらには煙草の副流煙が化学物質過敏症の原因のひとつであるという論理的方向性にも大きな異論はない。

ただ、論理の誇張や事実の捏造が化学物質過敏症を正しく理解する上で大きな負の要因になるから、裁判を通じて浮上した事実を公表するのである。

【何が問題なのか?】
この裁判の最大の問題は、原告家主(男性)が、数年前まで喫煙者であった事実が、提訴後に発覚したことである。ところが原告の書面は、後述するある時期まで、原告が元喫煙者だった事実の言及を避けたうえで作成されているのだ。それを明かすと副流煙による被害という大前提が破綻するからだろう。

分かりやすい問題例を紹介しよう。作田学医師が作成した原告家主の診断書である。そこには病名として次のように記されている。

「受動喫煙レベルⅢと診断する」

原告家主が元喫煙者であることが判明したのは、10月18日に筆者が原告弁護士を取材した際、その旨をもらしたからだ。その約1週間後、10月26日には、なぜか原告家主が喫煙者だったことを認める陳述書が裁判所へ提出された。そこにはこう書いてある。

「私は、以前喫煙しておりましたが、平成27年春、●●と診断され、その時から完全にタバコを止めました。」

なぜこのような書面が提出されたのかは不明だが、ひとつには喫煙の事実を隠していたのではないという立場を証拠付けるためではないかと思う。時期を逸しているのは論をまたない。

【作田医師の診断書】
以上の事実を踏まえた時、作田医師が作成した診断書の記述が問題になる。既に述べたように作田医師は、診断書に「受動喫煙レベルⅢと診断する」と記述したのだ。

原告家主が禁煙したのは平成27年春で、診断書が作成されたのは平成29年4月19日である。禁煙期間はおよそ2年である。2年の禁煙歴で、それまで蓄積された喫煙による人体影響が消えるのか疑問がある。

さらに原告家主の陳述書(平成30年9月15日付け)によると、家族全員が「受動喫煙により、恒例の家族旅行を中止せざるをえない状況」になったのは、平成28年の秋となっている。原告家主が禁煙に踏み切って1年半後である。それまでに蓄積された喫煙による影響が残っている可能性が極めて高いのだ。

東京大学と国立がん研究センターの研究によると、「年齢や体格指数、飲酒の習慣など、喫煙以外の発がん性に影響する条件を調整して分析した結果、男性はある時点から21年間禁煙を続けた場合、発がんリスクが全くたばこを吸わない男性なみに下がることが判明した」という。■出典

喫煙歴の影響が消えるまで男性の場合、21年を要するというのが専門家の見解だ。

筆者は、原告家主を「受動喫煙レベルⅢ」とした作田氏の診断は間違いだと考える。誤診はどんな名医でもある。しかし、問題は弁護士が、誤診の事実を知っていながら、裁判所に作田診断書を提出したことである。これらの証拠を前提に受動喫煙が化学物質過敏症の原因だと主張したのである。

ちなみに作田診断書は「甲1号証」、つまり原告が提出した最初の証拠書面である。

【禁じられた行為】
しかし、ある事実が虚偽と知りながら、それに言及した証拠を提出することは、弁護士職務基本規程で禁止されている。次の条項だ。

第75条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。

作田診断書が誤りであるこは、原告家主の喫煙歴が判明すれば、だれにでも判断できるだろう。それを知りながら、弁護士が診断書を提出した疑いがあるのだ。

【刑事が出動】
さらに不可解なことに、提訴に至るまえに、神奈川県警の刑事3人と警官1人が藤井家を訪問して取り調べを行った事実である。しかも、取り調べは2度も行われてる。取り調べの指示を出したのが、神奈川県警の斉藤実本部長であることも判明している。

何を根拠とした捜査なのだろうか。

また、筆者に対しても、原告弁護士から、記事を書かないように要請する文書が送付された。これについては、後日、公開する機会があるかも知れない。

 

【参考記事】煙草の副流煙で病気に、裁判で4500万円を請求も実は原告本人が元喫煙者だった

【参考記事】煙草以外にもある化学物質過敏症のメインな原因、 「煙草の副流煙で病気に、裁判で4500万円」②

煙草の煙をめぐる裁判、副流煙が原因で化学物質過敏症になった、作田学医師の診断書を批判する

煙草の煙が原因で化学物質過敏症になったとして、起こされた裁判が横浜地裁で進行している。この裁判は近年まれにみる“恐怖裁判”である。禁煙を奨励する運動にかかわっている人々が介入していて、化学物質過敏症の主要な原因が煙草だとする極論を展開しているのだ。その中には医者も含まれており、原告の診断書まで裁判所に提出している。

裁判の原告と被告は、同じマンションの1階と2階に住む隣人同士である。2階に住む小野田家(仮名)の3人(夫妻とその娘)が、1階に住む藤井家の家主を訴えたのである。あなた方の煙草の煙で、化学物質過敏症になったと。だから4500万円のお金を払いなさい、と。

ところが10月になって、被告にとって怒り心頭に達する事実が判明する。原告夫妻の夫が数年前まで喫煙者であったことが判明したのだ。しかし、依然として裁判は続いている。【続きはウェブマガジン】

2018年11月29日 (木曜日)

煙草以外にもある化学物質過敏症のメインな原因、 「煙草の副流煙で病気に、裁判で4500万円」②

隣人の副流煙で化学物質過敏症を発症したので4500万円を支払え。

この裁判には不可解な部分が多い。昨日の記事で述べたように隣人の副流煙で1家3人が化学物質過敏症になったとして裁判を起こした原告が、実は、提訴の2年半前まで煙草を吸っていて重病になった事実が10月の下旬に判明したのだ。訴えられた藤井家は、怒り心頭に達しているのではないか。

被告の藤井氏には弁護士費用が発生している上に、裁判のために自分の仕事のスケジュールを調整しなければならない。それだけでも大きな負担になるうえに、敗訴した場合に発生する金銭負担を考えると気がきではないだろう。

 

◇化学物質過敏症を理解せずに提訴

原告は、副流煙が化学物質過敏症の原因になるという観点の論文や記事を大量に提出している。その中には、この分野の権威として知られる宮田幹生博士の書面もある。そこでは、確かに煙草の煙が化学物質過敏症の原因になることが語られている。

が、化学物質過敏症に関する論文や本をよく読んでみると、副流煙は数ある原因のひとつで、他に主要な要因があることが分かる。煙の場合は、畑で煙草を育てる段階で農薬を使うから、煙にも化学物質がまじり、それを体内に取り込んで人体影響を及ぼすという論拠なのだ。従って有機栽培のものはほぼ該当しない。

「副流煙で気管支炎や肺ガンになったから賠償せよ」というのであれば、理解できる。しかし、化学物質過敏症の原因を煙草だけに限定するのは、科学的ではない。原告が提出した資料だけでは十分とはいえない。

われわれの日常生活の中に潜んでいる他の誘発因子と比較すれば、煙草はむしろマイナー要因である。それを示すデータもある。

主要な原因は、たとえば芳香剤や柔軟剤などから空気中に飛び散るイソシアネートである。イソシアネートは接着剤や塗料の類にも使われている。アスファルトにも使われている。排気ガスも因子である。原告と被告が住むマンションから50メートルの地点に幹線道路が走っており、ここからも汚れた空気が団地へ流れ込んでいる。ダニや花粉も、化学物質過敏症の原因だ。

当然、原告が化学物質過敏症になったというのなら、煙草以外の観点からも、その原因を検証なければ、フェアーではない。ところが原告は、原因を副流煙だけに限定して、都合よくそれと整合する証拠だけを提出しているのだ。木を見て森も見ない論法なのだ。

化学物質過敏症とは何かをよく理解しないまま、裁判をすすめている。理解していなかったから、山田義雄弁護士も提訴を止めなかったのだろう。

そして提訴から約1年が経過して、原告は突然、提訴の2年半前まで煙草を吸っていたことを書面で認めたのだ。筆者は、この時点で原告が裁判を取り下げるのではないかと思った。少なくともある時期までは、副流煙の発生源は原告自身であったからだ。「闘値」が存在しないとする化学物質の毒性評価の原理からすれば、原告の副流煙は安全で、被告の副流煙は有害ということにはならない。

裁判の前提が崩壊しているのだ。

が、原告に訴訟を取り下げる意思はさらさらないようだ。

この裁判には、何か別の意図があるように感じる。提訴前に3人の刑事と1人の警察が動いており、藤井家の自宅内の写真も撮影している。こうした経緯からして、刑事告訴が行われ、それが受理されていた可能性もある。

しかし、訴えに十分な根拠がないことを、原告自身が知っていながら、告訴すれば、虚偽告訴罪になる可能性がある。

筆者は、こういう裁判は許してはいけないと考えている。

 

◇喫煙率の変遷

ちなみに次の図(出典;厚生労働省)は、喫煙率の変遷を示したものだ。喫煙率は年々減っている。これに対して化学物資過敏症は年々増えている。もし、煙草が化学物質過敏症の主要な原因であれば、両者の傾向は整合しない。煙草とは別に強い原因があるから、化学物資過敏症が増えていると考えるのが自然だ。(下記のグラフ:喫煙率(%)上群男性、下群女性)

2018年10月25日 (木曜日)

「タバコの副流煙で化学物質過敏症になった」と4500万円請求の訴訟に――神奈川県警まで動いた団地の近隣トラブル

マンションの2階に住む一家3人が、斜め下にあたる同1階に住む家族による煙草の副流煙が原因で化学物質過敏症になったとして、1階に住む男性に対して約4500万円の損害賠償を求める訴訟が、横浜地裁で起こされたことがわかった。ベランダでの喫煙を規制した判例はあるが、自宅での喫煙を裁判所がどう判断するのか、注目だ。

煙草の副流煙をめぐるトラブルが発生した後、複数の刑事が被告宅を2回も訪問して事情聴取し室内を写真撮影、という異例の事態にも発展。警察署長が、原告代理人・山田義雄弁護士に「場合によれば傷害罪になり得るかも知れない」とも伝えたという。だが化学物質過敏症の原因は、副流煙以外にも数多くあり、特に欧米では、いわゆる「香害」の原因物質でもある「イソシアネート」が主要原因とされる。その他、塗料や柔軟剤、内装材など、その用途は極めて多岐にわたり、日常生活に入り込んでいる。原因を副流煙だけに特定して高額訴訟を起こすことは、訴権の濫用に該当しないのか――。

化学物質過敏症をめぐる近隣トラブルの経緯をレポートする。【続きはMyNewsJapan】

2018年05月23日 (水曜日)

化学物質過敏症に取り組む7団体が院内集会、厚生労働省などに「香害」の対策を申し入れ

日本消費者連盟など化学物質による人体影響に警鐘を鳴らしている7つの市民団体が、22日、東京永田町の衆議院第1議員会館で院内集会を開き、「香害」の実態を報告した後、消費者庁、厚生労働省、文部科学省、経済産業省の4省庁に対策を取るように申し入れた。

集会を共催したのは、日本消費者連盟、化学物質支援センター、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、日本消費者連盟関西グループ、香料自粛を求める会、反農薬東京グループ、VOC研究会の7団体。

◇水面下で広がる健康被害

「香害」とは、芳香剤や柔軟剤に使われている化学物質が引き起こすアレルギー症状のことである。化学物質過敏症の一種である。

院内集会での報告によると、昨年の夏、日本消費者連盟の洗剤部会が「香害110番」を開催したところ、2日間で65名の電話相談があったという。その中には、たとえば飛行機の機内サービスで提供されるおしぼりに香料が使われていたために、体調が悪くなったという相談などがあった。報告者の杉浦陽子さんは、

「善意のサービスが、健康被害を増やすことになっている」

と、コメントした。

「香害110番」の反響が大きかったこともあり、日本消費者連盟が他の市民団体に問題提起をしたところ、運動が急速に広がった。

院内集会の参加者の中には、東京近郊はいうまでもなく、北海道から惨状を訴えるために上京した男性もいた。一旦、化学物質過敏症になると、極めて微量の化学物質に被曝しても、体が反応するようになるが、その度合いは個人差が極めて大きい。

そのために患者の家族など患者を取り巻く人々が病気をよく理解できずに、患者が孤立することも少なくない。たとえば、集会に参加したある患者は、電車の座席に坐る際に、座席に付着した化学物質を避けるためにアルミシートを敷くなどの対策を取らざるを得ない、と化学物質による人体影響を報告した。

また別の患者で元音楽教師の女性は、柔軟剤の化学物質が原因で、退職を余儀なくされたあげく、治療に全貯金を使ってしまったと体験を語った。

児童の被害例としては、教室の中で浮遊している衣服の柔軟剤などが原因で、体調を崩し登校が困難になるケースも報告された。幼児なので体の不調を具体的に説明するだけの知識がなく、対策が取れないまま放置されることもままある。

化学物質が氾濫している現代において、化学物質過敏症はだれもが等しくリスクを負っている疾患である。ただ、人体に対する汚染が一定レベルに達するまでは、なかなか症状が表面化しない場合もある。しかし、一旦発症すれば、生活に支障をきたすほど重症化することも少なくない。

その意味で新世代の深刻な公害なのである。化学物質支援センターの広田しのぶさんは、

「患者さんは、カナリアのような存在です」

と、被害者との共生の重要性を強調する。

◇予防原則を無視する省庁

こうした深刻な実態が広がっているにもかかわらず、省庁サイドの対応は欧米に比べてかなり遅れている。その原因のひとつが、科学的な根拠が医学的に立証されるまでは、腰を上げない省庁の姿勢である。「予防原則」をあえて無視することで、問題を放置しているといえるだろう。

集会の最後に共催者らは、省庁間で協働して解決に努めるように要望した。

 

消費者庁に対する要望書(PDF準備中)

 

2018年05月14日 (月曜日)

芳香剤や建材等の化学物質過敏症、原因は化学物質イソシアネート、被害者の急増で社会問題化…日常生活に支障で退職の例も

化学物質過敏症とは、化学物質に体が反応して体調の悪化をもたらす病気である。芳香剤、柔軟剤、化粧品、農薬、塗料、建材など広範囲な製品に使われている化学物質が原因になる。将来的に患者数が花粉症なみに増えるのではないかともいわれている。

米国化学会(ACS)の情報部門であるケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する化学物質の数は、1億件を超えている。そんなおびただしい種類の化学物質のなかでも、化学物質過敏症の因子として特に注視されているのが、ウレタン原料のイソシアネートである。その危険性に警鐘を鳴らしている内田義之医師(東京都練馬区・さんくりにっく)に、化学物質過敏症について伺った。

――化学物質過敏症の診断基準を教えてください。

内田義之医師(以下、内田) 日本と欧米では、診断基準に大きな差があります。たとえば米国では、慢性疾患で微量の化学物質への曝露にも反応するなど、具体的な6項目(別表参照)を基準に診断しており、アレルギー疾患としてとらえられています。ところが日本の基準は曖昧で、たとえば「倦怠感や疲労感が持続すること」が主症状として定義されていますが、こうした症状は誰にでもありがちなものです。また、「持続する頭痛」も主症状として定義されていますが、化学物質過敏症なのにまったく頭痛がない方もたくさんおられます。

日本の診断基準は、あまりにも心理面を強調し過ぎ、化学物質過敏症という病気を正確にとらえられていないと思います。とはいえ、化学物質過敏症を疑って受診される患者さんのなかには、実はノイローゼや思いこみである人も少なくありません。

私は、日本も米国の診断基準を採用すべきだと考えています。グローバルにデータを比較するという意味でも、日本の診断基準は問題があります。これでは化学物質過敏症の実態を、ほかの国と比較することはできません。ですから専門家が議論して、新たに診断基準を決めるべきでしょう。これは国の役割であると考えます。

――化学物質過敏症の大きな因子になっている化学物質、イソシアネートはどのような製品に使われていますか。【続きは、Business Journal】