1. 警察と連携してきた博報堂の戦略、『見えざる政府―児玉誉士夫とその黒の人脈』②

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2017年05月16日 (火曜日)

警察と連携してきた博報堂の戦略、『見えざる政府―児玉誉士夫とその黒の人脈』②

『見えざる政府』が記録している博報堂コンサルタンツのその後の軌跡を紹介しよう。2回目、後編である。前編は次のリンクから。

■前編

児玉が乗っ取った博報堂コンサルタンツ(持ち株会社、前身は伸和)は、「まず企業を児玉の系列下に置く作業からはじめた」

手口はブラックジャーナリズムである。メディアに企業スキャンダルの記事を書かせる。スキャンダルを暴かれた企業は、対策として博報堂と取引を開始する。それにより危機を回避する。『見えざる政府』によると、三越や味の素がこうした戦略の標的になったという。

このような戦略の裏付けは、はからずもロッキード事件を機に明らかになった。

「東京地検特捜部、警視庁、国税局のロッキード事件合同捜査本部は、51年2月24日、児玉誉士夫の自宅を家宅捜索した。その際、十数社にのぼる政治・経済雑誌の会社証券が多数発見された。それは、児玉がブラック・ジャーナリズムに資本金の形で出資し、連帯を深めていたことを物語っていた。これらの新聞、雑誌のなかには、児玉とは別に博報堂と資本提携を結んでいたものもあれば、博報堂の口ききで三菱地所など一流企業が所有するビルの中に事務所を開設していたものもあった」

 「しかし、福井社長が(黒薮注:特別背任罪容疑で)逮捕され、児玉もロッキード事件の容疑者になったことで、『言論統制機関を作る構想は挫折したのだが・・・』」

◇警察と連携した新戦略

『見えざる政府』によると、その後、新しい戦略が浮上したという。結論を先に言えば、それは警察の情報を利用したものだった。

「福井が特別背任容疑で逮捕された事件を取材した新聞記者は、元警察関係役員とからませて次のように説明した。
『警視庁は今年の9月をメドに〝土地カン情報管理システム〝を発足させるが、児玉らはこれを利用して会社の乗っ取り、マスコミ支配を進めようとしていたのではないか。このシステムは都内を2万7000個のメッシュ(網の目)に分けて、前歴者、素行不良者、非行少年をプット・インしてコンピューターに覚え込ませるほか、氏名、生年月日、本籍、住居、勤務先なども記憶させている。だから企業乗っ取りの場合など社長からヒラ社員に至るまで必要な全情報を短時間に入手できるわけだ。そして、児玉はこの警察の資料をもとに言論出版を自由にコントロールしようとした。そのためにも、元警察高級官僚を役員に入れて、警察関係とコネクションをもつ必要があった。』」

元警察高級官僚を天下りさせて、このような路線を選択した可能性があるというのだ。

◇国税局におびえる企業

以上が『見えざる政府』に描かれた博報堂に関する記述の要約である。どこまでが真実であるかは、検証する必要があるが、少なくとも博報堂への天下りに関しては、信頼できる。筆者が調査した範囲でも、児玉が博報堂を乗っ取った1975年以降、現在まで博報堂へ多人数の警察関係者と内閣府の官僚が「天下って」いる。
財務省からも元国税局長官が2名天下り、いずれも社長に就任している。これでは企業は、国税局の摘発を警戒せざるを得なくなる。ある意味では、児玉が目指したブラックジャーナリズムよりも脅威だ。

『現代の眼』(1975年7月)によると、乗っ取りの時期に次の人々が博報堂へ天下っている。博報堂が児玉とかかわりを持つようになった時期である。

・松本良佑(副社長):元警察大学教頭

・佐藤彰博(公共本部長):内閣審議官室審議官兼総理府広報室参事官

・千島克弥(顧問):総理府広報室参事官

・池田喜四郎(公共本部次長):内閣総理大臣官房副長官秘書

・毛利光雄(社長秘書):警視庁総監秘書

・町田欣一(特別本部CR担当):警視庁科学検査部文書鑑定課長

 また、日本経済新聞の人事欄によると、旧大蔵省からの天下りも確認できる。

・近藤道生(社長):国税庁長官

・磯邊 律男(社長):国税庁長官

また、2017年3月の時点での天下り者は次の通りだ。

・阪本和道氏(審議官)[博報堂の顧問]

・田幸大輔氏(広報室参事官補佐・広報戦略推進官)[博報堂の顧問]

・松田昇(最高検刑事部長)[博報堂DYホールディングスの取締役]

・前川信一(大阪府警察学校長)。[博報堂の顧問]

・蛭田正則(警視庁地域部長)。[博報堂DYホールディングスの顧問  ]

このほかにも多人数が確認されている。
筆者は、今世紀になってから博報堂が起こした経済事件の背景を考える場合、「社史」の検証は不可欠だと考えている。

 

郵政事件・博報堂に関する総務省の調査報告書(博報堂関連の記述は29ページから)

『見えざる政府』の博報堂関連の記述