1. JRAから滋賀県、そして・・・、ついに始まった「電通外し」、オリンピック業務への波及も必至

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2017年01月20日 (金曜日)

JRAから滋賀県、そして・・・、ついに始まった「電通外し」、オリンピック業務への波及も必至

執筆者:本間龍(作家)

1月17日、JRA(中央競馬会)が電通を1ヶ月の業務指名停止処分にしたと発表、翌18日には滋賀県も3ヶ月の指名停止処分を発表した。遂に電通に対する行政上のペナルティーが顕在化し始めた。
私は一連の電通事件の行き着く先は電通に対する官民企業・団体による指名停止処分にあり、最終的に東京五輪関係業務にどう影響するかが最大の焦点であると指摘し、このメディア黒書でも繰り返し書いてきた。

労務管理問題に限れば指名停止要件になっていない場合が殆どだが、犯罪の内容に関わらず書類送検されれば指名停止処分を科す内規を持つ団体や行政が、いち早く動き出した格好だ。また19日には、厚労省が電通の全社員7000人余の出退勤データを2015年11月から昨年10月の1年間に渡って捜査していると報道された。

7000人という全社員の膨大なデータを1年間という長期に渡って調べるのは極めて異例であり、さらなる書類送検に向けての捜査が続行していることが確認されたのだ。今後も送検される者が出る可能性は高く、捜査の進展によっては行政だけでなく、民間企業においても指名停止が考えられる状況になってきた。

◇JRAと滋賀県に続き注目される44の五輪ホストタウンの動き

まず1月17日、JRA(日本中央競馬会)が電通に対し1ヶ月の業務指名停止を発表した。たった1ヶ月ではあるが、JRAは国が全額出資する特殊法人であり知名度も高いため、多くのメディアが報じた。昨年の電通への発注額は約22億円と思ったよりも少ないが、ついに来るものが来たということで大きな話題になった。

さらに18日には、滋賀県も電通を3ヶ月間の指名停止処分にする予定であると発表。「滋賀県建設工事等入札参加停止基準」には「禁固刑以上の刑に当たる犯罪の容疑による書類送検」があり、該当すると3ヶ月の参加停止となる。今回はそれが適用されるのだが、実はここでさっそく五輪業務の裾野の広さを確認できる。

実は電通は滋賀県から、2020年東京五輪で参加国の選手と交流する「ホストタウン」の誘致事業を受注していた。この「ホストタウン」事業には現在既に全国44の県や市町が登録申請していているが、当然その全ての業務に電通が関わっている。

電通は五輪本体の実施業務を独占受注しているため、その関連であるホストタウンを含め、これから全国で行われる五輪本番までのあらゆる歓迎行事の実施をも優先的に受注できるのだ。それほど五輪関連の業務は裾野が広く、しかも電通の一社独占なのである。だが裏を返せば、今後捜査の進展により、最低でもホストタウンに登録申請している44の県や市町村は、電通への対応を考慮しなければならなくなるということだ。

滋賀県はそれ以外にも、今年度の観光や近江牛などの特産品PR事業なども電通に発注しているので、3ヶ月の停止処分は県の事業への影響が避けられない。また、県庁が指名停止に踏み切れば、その傘下の市町村も対応を考えることになるから裾野は広い。これは全国の都道府県全てに共通するものだ。

これらの動きを受け、五輪業務の発注元である東京都の関係者は、「捜査の進展を注視している。現時点ではまだ書類送検なので何とも言えないが、地検が起訴すれば何らかの対応を取ることになるのではないか」と語っている。

■五輪ホストタウン一覧

◇金の流れを握るJOCと組織委

しかし、実は東京都から五輪業務として電通に発注されている額は現在まだ約10億程度で、決して大きなものではない。五輪業務はJOCと五輪組織委員会が直接電通と一社独占契約を結び、その間でカネのやり取りがなされているからだ。

つまり、一番大きなカネの流れはJOCと組織委が握っているのであり、そこが今回の問題を受けてコンプライアンスを発揮できるのか、という問題になる。しかし組織委は各省庁からの寄せ集めに過ぎないので、電通からの出向組がいなければ全く仕事にならない。そうなると、たとえ一ヶ月の業務停止でも甚大な被害を被るだろうから、なんとか指名停止にせず、スルーして逃げ切ろうとするだろう。

しかし五輪組織委のいい加減さは、開催費用算出のでたらめぶりを見れば明らかである。当初7000億程度と言っていた開催費用が現在は2兆円規模に膨れあがったのに、誰も謝罪もしなければ責任も取らない。エンブレム選定も電通が最初から佐野研二郎氏に決めようとしたが盗作騒ぎでひっくり返ったのは、まだ記憶に新しい。

さらに財務内容も非常に不透明であり、小池都知事は昨年7月に組織委に対し、都の監理団体になるよう要請したが、森会長らの強い反対に遭い進展していない。このような不透明でいい加減な組織が3千億円以上にのぼるスポンサー料の管理を独占し、その運用を電通だけに任せている現状は極めて異常だ。

もし組織委が電通に対し受注停止などの措置を取らないようなら、国会などの場でその是非を議論し、問題のありかを国民に明らかにしていく必要がある。これこそが五輪・電通問題の本丸だからだ。