1. 憲法改正国民投票におけるメディア規制の重要性、「改憲賛成プロパガンダ」の恐怖

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2016年12月14日 (水曜日)

憲法改正国民投票におけるメディア規制の重要性、「改憲賛成プロパガンダ」の恐怖

執筆者:本間龍(作家)

10月24日に続き、今月12日に参議院議員会館において行われた「国民投票法のルール改善を進める会」に出席した。同会はジャーナリストの今井一氏が中心となり、国民投票法のメディア規制を検討しようと立ち上げられた会だ。

今井氏をはじめ、堀茂樹(慶大教授)、井上達夫(東大教授)、田島泰彦(上智大教授)、南部義典(元慶大講師)、宮本正樹(映画「第九条」監督)の各氏や桜井充参院議員も出席して議論を行なった。

そこで国民投票の運動やキャンペーンに費やせる金額に上限を設けるべく国民投票法を改正すべきという点で一致、年明けには各党議員に働きかけ、超党派の議員連盟を設立して法改正を目指すことになった。

◇不可欠な国民投票におけるPR活動の公平性

自民党を中心とする改憲勢力が衆参の3分の2以上を占める状況となっている現在、国会での憲法改正発議が現実味を増していることは間違いない。発議が実現すればいよいよ国民投票となるが、2007年にその根拠となる国民投票法が整備された。

しかし、先の英国でのEU離脱を決めた国民投票をはじめ世界各地の選挙や国民投票を取材してきた今井氏は、現在の投票法におけるメディア規制の緩さが気になっていたという。

具体的にいうと、現在の法律におけるメディア規制は、投票期日14日前から投票日までの、国民投票運動CM(テレビCM)の規制(国民投票法105条)ただ一つしかない。つまり、投票期日15日前まではどれだけCMを打っても構わないし、新聞や雑誌などの活字媒体には一切制限がない。

これは、現行法制定当時、主要メディアの中でテレビCMの影響力が一番強いと認識され、大量のスポットCMが投票日まで放送されるのは、国民の健全な判断に支障を来たす恐れがあるとされたための規制だ。

しかし、インターネットが発達した現在、これには様々な抜け穴が考えられる。一度CMが流れてしまえば、それらはあっという間にネットで共有される。たとえ14日前からテレビスポットが禁止されても、映像はネット上で流され続けるから、禁止の意味も薄らいでしまう。

また、広告展開における金額の制限も一切ないから、カネを持っている方が好きなだけ広告を打ててしまう。私が特に気になるのはこの点だ。なぜなら、ここでも電通が大きく関わってくるからだ。

◇ 巨額のPR費で世論誘導

改憲勢力筆頭の自民党の広報担当は電通と決まっているから、もし国民投票の実施が決まれば、改憲勢力のPR担当は電通ということになる。全てのメディアに対し圧倒的な支配力を持つ電通が改憲勢力側に立つということは、護憲側には大変な脅威なのだが、当然ほとんどの護憲側の人々にはその恐ろしさが分かっていない。

電通が改憲側である(電通自体はどちらでもいいのだろうが)時点で、広報宣伝におけるとんでもないハンディが生じているのだ。

現行の国民投票では衆参選挙と同様、基本的な選挙広報費は国から支給されるが、そのほかにも各政党や団体が自ら支出する資金がある。例えば、今夏の参院選における公営選挙予算総額は約66億円だった。

また、各党の政治資金収支報告書によると、前回の参院選(2010年)では、選挙広報費として民主党は48億、自民党は21億円を使っていた。今夏は自民党政権下だからこの金額は恐らく逆転しているだろうが、いずれにせよたった17日間の選挙運動にこれだけの金額が投入されているのだ。電通や博報堂をはじめ、各メディアにとって大きな特需であることは間違いない。

そして国民投票の場合、投票期日は国会発議後60〜180日以内とされているから、投票運動の長さは衆参選挙の比ではない。

そしてもし憲法改正が発議されれば、自民党を中心とする改憲勢力はここぞとばかりに巨額の資金を投入し、その豊富な資金を縦横に使って電通が「改憲賛成プロパガンダ」を展開するのが目に見えている。護憲勢力は野党や市民団体が中心だから、資金面では最初から太刀打ちできない。

さらに、各メディアのシェアナンバーワンである電通が、あらゆるメディアの一番良い場所で「改憲YES」広告を全開するのだから、その影響力はとてつもないものになるだろう。政権御用達の秋元康氏率いるAKBなどが「改憲YES!」などと歌うCMが怒涛のように流れるなど、想像するだに気持ちが悪くなる。

 ◇広告費に上限を設置するべき

広告市場における「良い場所」とは、テレビCMで言えば視聴率の高いゴールデンタイムのCM枠のことだ。電通はテレビ各局におけるゴールデンタイムCM枠を一番多く保有しているから、同じ金額を発注しても、良い場所で放映される可能性が高い。逆に他の代理店では、昼間や深夜等の視聴率の低いCM枠になってしまうのだ。

そしてこれは、新聞や雑誌の広告面にも当てはまる。電通の媒体支配力とは、それほど強大なものなのだ。そこに衆参選挙とは比べ物にならないほどの巨額資金が流れ込んだら、その影響力は甚大なものとなるだろう。

そうした危険性を少しでも払拭するためには、あらかじめ広告に使用できる金額の上限を決めておく(キャップ制)しかない。それでも電通の優位性は変わらないが、少なくとも資金力のハンデを小さくすることが出来る。

来るべき国民投票において広告資金の多寡で国民の判断が左右されないよう、きちんとした法改正に向かって尽力したいと思っている。また、いずれにせよ巨額の税金が投入されることは間違いないので、本欄でも引き続き報告したい。