1. 広がる博報堂事件のすそ野、民間企業から省庁・地方自治体にいたるまで疑惑の山

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2016年11月08日 (火曜日)

広がる博報堂事件のすそ野、民間企業から省庁・地方自治体にいたるまで疑惑の山

博報堂とアスカコーポレーション(以下、アスカ) の裁判が始まって1年が過ぎた。

最初の裁判は、博報堂がアスカに対して、約6億1000万円の未払い金の支払いを求めたものだった。博報堂は、2005年頃から、アスカのPR業務を独占して請け負い、テレビCMをはじめ通販情報紙の制作、新聞折込、それにイベントなどを企画してきた。

ところが2014年ごろから、アスカの資金繰りが悪化して、支払いがスムーズにいかなくなった。そこで覚書や支払い計画を制作するなど、両者の間で交渉が続いていたが、博報堂の態度が硬化して、アスカに対し公正証書の作成を求めたり財務資料の提出を求めるようになった。さらにアスカの銀行口座を差し押さえた。

そして2015年10月に博報堂がアスカに対して、俗に言う「6億円」訴訟を提起したのだ。

これに対して係争に巻き込まれたアスカは、博報堂との過去の取引を精査せざるを得なくなった。段ボールなどに保管していた大量の商取引に関する書類を調べたところ、次々と疑惑がもちあがってきたのである。

そこでアスカは、博報堂に対して2016年5月、約15億3000万円の過払い金の返済を求める裁判を起こした。俗に「15億円」訴訟という。ちなみにこの裁判は、「6億円」訴訟に対する反訴ではない。アスカが原告となって起こしたのである。2つの裁判の統合は行われていない。

さらにアスカは、2016年8月に、偽装した視聴率を記入した番組提案書(CMなどの制作が目的)で、博報堂から放送枠を買い取らされたとして、取引の無効と返金を求める裁判を起こした。請求額は約47億9000万円。俗に「48億円訴訟」と呼ぶ。

以上が博報堂とアスカの係争の構図である。

◇内閣府と博報堂の取り引き

しかし、「博報堂事件」を広義に捉えると、その範囲がかなり拡大する。たとえば、今、大きな疑惑がかかっているのが、内閣府に対する博報堂からの請求書である。情報公開により筆者が入手した請求書を精査したところ、請求額が不当に高額であることなどが判明した。

これは月刊誌『ZAITEN』でも、明らかにした事実であるが、請求額の規模が明らかに不自然なのだ。公共広告の場合、新聞の発行部数に準じて広告価格を決める基本原則があるのだが、内閣府から入手した博報堂の請求書は、大半が黒塗りになっているので、新聞社ごとの価格が分からない。そこで各新聞社の新聞発行部数に準じて、まず、配分率を求めた。下記のPDFが、2016年1月に掲載された全面広告(15段・モノクロ、価格2億7073万594円)を例にして、計算した配分率と、それに準じた価格になる。

■広告価格の配分率

筆者は2012年にも、内閣府に対して過去4年間の広告費に関する情報公開請求を行ったことがある。当時は、黒塗りが少なく、契約書に記されている新聞広告1段あたりの契約価格が新聞社ごとに示されていた。一例を示そう。

《2007年度の単価》
読売:239万円
朝日:192万円
毎日:108万円

《2010年度の単価》
読売:223万円
朝日:206万円
毎日:128万円

2007年度の平均が140万円で、2010年度の141万円である。つまり公共広告の場合、経済状況とは無関係に価格がほぼ固定されているのだ。この価格水準で、たとえば読売、朝日、毎日の15段広告の適正価格を試算(10年度の数値を採用)すると次のようになる。()内は、2016年1月に掲載された15段広告の価格である。

読売:3345万円(6159万円)
朝日:3090万円(4516万円)
毎日:1920万円(2178万円)

※価格は、博報堂と新聞社の取り分の総計。

だれが見ても()で示した2016年1月の広告価格は不自然だ。

◇郵政事件と接待工作

さらに「博報堂事件」は、過去にさかのぼると郵政が民営化された時代にまで遡航する。あまり報じられなかったので、一般的には知られていないが、郵政公社が分割され、民間企業になる際に、博報堂が4つの新会社のPR業務を一括して請け負うことになった。その際に、博報堂が郵政側に対して接待を繰り返していたことが、総務省の内部調査で判明している。その調査書は、インターネットでも公開されている。次のリンク先である。

■『日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書の「別添」・検証総括報告書』、2010年)【博報堂関連の記述は29ページから】

この報告書から一部を引用してみよう。当時、博報堂と郵政側の取引がどのような実態であったかが判明する。

「博報堂には民営化後の平成19年度の同グループの広告宣伝費約192億円(公社から承継された契約に係る部分を含む)のうち約154億円(全体の約80%)が、平成20年度の同247億円のうち約223億円(同約90%)が各支払われている」

郵政事件といえば、当時は博報堂による接待の問題よりも、むしろ「低料金第3種郵便物の割引制度」(障害者団体の定期刊行物を、格安な郵便料金で送るための優遇制度。)を不正利用した事件が話題になった。

これは2008年10月に朝日新聞のスクープによって明らかになった。企業がPR活動などの手段として利用するダイレクトメール(広告の一種)を、障害者団体の定期刊行物と偽って、違法な低価格で発送していたというものである。このような方法で、企業は総額数十億単位の経費を削減したと言われている。

この不正工作の「営業」を担当していたのが、博報堂の関係者である。アスカによると、当時、アスカにも博報堂の関係者が営業訪問したという。筆者はその名前が上がっている人物を、昨日、出向先の銀座の事務所に尋ねたが、不在だった。博報堂側が取材を拒否しているので、真相は分からないが、この種の組織的な事件を社員単独で出来るはずがない。上層部の関与が疑われるのである。

◇入場者数の水増し事件

その他、博報堂の不祥事はたびたび報じられてきた。たとえば2015年12月、東北博報堂は、岩手県大槌町で問題を起こしている。

産経新聞の報道によると、岩手県大槌町は、東北博報堂に対して大震災の記録誌編集事業を委託していたが、それを解除した。理由は、「納期の7月に内容を確認したところ、被害状況などのデータの羅列にとどまり、震災の悲惨さを伝える記録誌」のレベルには達していなかったからだ。さらに一部の記述で、県が発行した別の記録誌からの無断コピーも発覚したことも、契約解除の原因となったようだ。

この記録誌を制作するための価格もおかしい。
記録誌は約250ページで1千部を発行する予定だった。また、そのダイジェスト版は約25ページで8千部を発行する予定だった。見積もり額は、総額で1250万円にもなっている。

大手の自費出版会社で250ページの本を1000部制作して流通させた場合、ゴーストライターの料金を含めても、250万円程度である。博報堂の1250万円が適正価格とは思えない。

岩手県盛岡市でも博報堂は不祥事を起こしている。県の複合施設「アイーナ」の総括責任者を務めていた東北博報堂の男性社員が、入館者数を水増しして県に報告していたことが分かったのだ。次の記事をリンクしておこう。

■入館者数水増し、県の施設で管理委託グループが4年間で2380人分 

博報堂事件は、いまや博報堂とアスカの係争を意味するにとどまらない。取材が進につれて、どんどんその範囲が広がっている。すでにいくつかの自治体からも、資料を入手しており、今後、解析の結果を順次、報道する。