1. 1500件のCM「間引き」疑惑、CMコードについての博報堂・遠藤弁護士の誤った認識と弁解

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2016年07月30日 (土曜日)

1500件のCM「間引き」疑惑、CMコードについての博報堂・遠藤弁護士の誤った認識と弁解

多岐にわたる博報堂がらみの経済事件における取材対象のひとつに、CM(コマーシャル)の「間引き」疑惑がある。

※事件の全体の構図については、次の解説記事を参照に。

   ■解説記事・全体の構図

CM(コマーシャル)の「間引き」とは、クライアントと放送局(広告代理店を含む)が契約で取り決めたCMを、放送局が秘密裏にスキップして、料金だけを徴収する行為を指す。1997年に福岡放送でこの問題が発覚したのを皮切りに、その後、北陸放送と静岡第一テレビでもCM「間引き」事件が明らかになった。

そして今また新たなCM「間引き」事件が浮上している。疑惑の段階だが、取材を通じて、わたしは不正の確証を得ている。しかも、今回のケースは、大手広告代理店・博報堂がらみの疑惑である。

◇CM(コマーシャル)「間引き」とは

博報堂事件のCM「間引き」事件を検証する上で、前提として把握しておかなければならない点は、日本の放送界が、1990年代後半のCM「間引き」事件を教訓として取った対策の中身である。この点を深く理解することにより、今回のCM「間引き」疑惑の異常な手口が見えてくる。

結論を先に言えば、日本の放送界は、CMにCMコード(10桁から構成されている)を付けることで、コンピュータを介在させてCMが本当に放送されたか否かを認証するシステムを導入したのだ。放送確認書にコンピュータが印字したCMコードが表示されていれば、CMが放送されたことを意味する。CMコードが非表示になっていれば、CMが放送されなかったことを意味する。

CMが放送されないケースの原因として考えられるのは、たとえばプロ野球中継の延長である。たとえば災害が発生して、特別番組が放送されたときである。

コンピュータが故障してCMコードが非表示になるケースも考え得るが、通常、コンピュータにはバックアップのシステムがあるので、データそのものが消えてしまうことは、まずあり得ない。

放送界が、人力による作業を排除したCMコードを導入した結果、CM「間引き」が再び問題になることはなかった。この分野では、コンピュータが人間の不正を監視するようになったのである。

◇ISCI(イスキー)

CMコードの導入プロセスについて、『日経新聞』(1999年5月17日付け)は、次のように述べている。

日本広告主協会(理事長・福原義春資生堂会長)が日本民間放送連盟(会長・氏家斉一郎日本テレビ放送網社長)に「ISCI(イスキー)」と呼ばれるシステムの導入を強力に働きかけている。

 ISCIは米国で七〇年に考案された仕組み。米国広告業協会が広告主ごとに割り当てたコードを一元管理する。

日経が報じたように、「ISCI(イスキー)」が、日本のCMコードの原点だったのである。

■ISCI(イスキー)

繰り返して強調するまでもなく、現在、日本の放送界が使っているCMコードに、人工的な手を加えることはできない。これは放送関係者の間では常識となっている。もちろん、CMにCMコードを付す業務形態が定着している。

事実、民間放送局をまとめる民放連は、CMコードが付されていないCMは受付けないよう会員社に徹底しているし、衛星放送協会も会員社に対してCMコードの使用を促して、CM「間引き」の防止を徹底している。

CMコードは、人的な操作ができないから、CM「間引き」の監視システムとして機能しているのだ。それはテレビ業界では常識として認識されているのである。

◇コンピュータがCMを監視するシステム

ところが今年に入ってから博報堂が仲介したアスカコーポレーションのCMが大量に「間引き」されていた疑惑が浮上しているのだ。そう判断できる根拠は、放送確認書に肝心のCMコードが表示されていないものが多数見つかったことである。本当に放送されていなければ、アスカは架空請求を受けたことになる。

CMコードが非表示になっている件数は、メディア黒書の統計では次の通りである。(だしし暫定の数値で、変更になる可能性もある)

■内訳詳細(エクセル)

このうちもっとも件数が多いのは、スーパーネットワークである。この放送局は、博報堂と深い関係にある。同社の株式の50%を博報堂が所有している。

しかも、2014年9月に至っては、一気に100本のCMでCMコードが欠落している。

念のためにスーパーネットワークに対して、その理由を質問したところ、「民放連に加盟していないから」という答えが返ってきた。

しかし、スーパーネットワークは、民放連と同様にCMコードの使用を会員社に徹底させている衛星放送協会に所属している。従って、「民放連に加盟していないから」CMコードは使わないという説明はおかしい。

◇博報堂・遠藤常二弁護士のCMコードに関する見解は誤り

CMコードが非表示になっている理由について、博報堂の遠藤常二弁護士は、もっとおかしな主張をしている。CMコードの「作成者の記載ミス」だというのだ。原告準備書面(2)から、そのくだりを紹介しておこう。赤文字の部分に注意してほしい。

1)同2のうち、甲第5号証に日本民間放送連名の定める10桁のCMコードが記載されていないこと及び乙第23号証にスーパー!ドラマでCMが放送された旨の記載がなされていないことは認めるが、その余は否認する

  放送確認書は、放送を実施した媒体社の責任において発行されるものであり、媒体が、放送を実施せずに放送確認書を発行することは常識的にあり得ない。スーパー!ドラマでの放送確認書(甲5)が発行されている以上、同番組でCMが放送されていることは明白である。被告らは、甲第5号証にCMコードが記載されていないことや、乙第23号証にスーパー!ドラマに関する記載がないことを理由に甲第5号証の信用性を争っているようであるが、記載のないことは、それぞれの作成者の記載ミスと考えられてもCM放送の実施の有無とは無関係である。

遠藤弁護士は、CMコードが何かをまったく理解していないのではないか。CMコードをコンピュータを介さずに作成していたとすれば、これは別の大問題である。

◇日本経済新聞の記事

参考までにCMコードの導入プロセスを報じた『日経新聞』の記事を紹介しておこう。

 日本広告主協会(理事長・福原義春資生堂会長)が日本民間放送連盟(会長・氏家斉一郎日本テレビ放送網社長)に「ISCI(イスキー)」と呼ばれるシステムの導入を強力に働きかけている。

 ISCIは米国で七〇年に考案された仕組み。米国広告業協会が広告主ごとに割り当てたコードを一元管理する。CM画像のいわばすき間に、このコードを使った記録データをつけて放映する。CMが放映されたかどうかの確認に利用できるほか、広告の費用対効果を探る関連データの活用、CMの制作から放映に至るまでの作業ミスの減少に役立てるのが狙いだ。

 九七年六月に福岡放送(FBS)によるCM未放送事件が発覚したことを契機に、広告主協会ではISCIの研究を開始した。九八年十一月には広告主協会が日本版ISCIの導入検討会議の開催を民放連や日本広告業協会など関連四団体に要請。これまで四回にわたり同会議が開かれた。

 二月の会議では広告主協会が日本版ISCIのたたき台を提案したが、三月に静岡第一テレビのCM未放映事件が発覚。広告主協会側では「静岡の事件をきっかけに関係者に早期導入を働きかけたい。民放連や広告業協会も前向きに考えていると理解している」(同協会電波委員会の若林覚委員長=サントリー宣伝事業部長)と導入ムードの盛り上がりに期待をかける。

 広告主協会側には「第三者機関が確認できるISCIの仕組みは米国から欧州にも広がり、いわばグローバルスタンード」という認識がある。第三者機関としては番組の視聴率調査会社やCM関連情報のデータベース会社のような中立的な組織が適しており、ISCIの導入によってCM関連の新しい調査ビジネスの道も開けるとしている。

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