1. 患者が退出して3分後に煙草臭、偽証の疑い、作田学医師の証言、横浜副流煙裁判「反訴」

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2025年03月03日 (月曜日)

患者が退出して3分後に煙草臭、偽証の疑い、作田学医師の証言、横浜副流煙裁判「反訴」

喫煙者の呼気が孕んでいる煙草臭が持続する時間はどの程度なのか?東京地裁で、ある著名な医師が興味深い証言をした。患者が診察室を去ってから3分後に、突然、煙草の臭いが漂ってきたというのだ。とはいえ、患者が診察室で煙草を吸ったわけではない。診察に割いた約20分の間にも、この医師は匂いを感じなかった。患者が退室して3分後に初めて臭いを感じたのである。普通に考えると医師の発言は、偽証の疑いがある。

医師は患者のカルテに、「受動喫煙症」という病名を記したばかりだったが、煙草臭を知覚し、診断を誤ったと判断した。そこで事務職員の女性を呼び、念のために煙草臭の有無を問い、臭いの存在を確認してもらった上で、患者の後を追わせた。構内放送でこの患者に診察室へ戻るようにアナウンスしたという。

医師の尋問調書にも、このような筋書きで経緯が記録されており、後日、裁判所は判決文(後日、多発する裁判のうち2件目の裁判)の中で、これら一連の証言を事実として認定した。偽証とは判断しなかったのである。

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発端は2017年11月までさかのぼる。横浜市青葉区に住むミュージシャンの藤井将登さんは、隣人家族3人から、4518万円を請求する裁判を起こされた。将登さんが吸う煙草の煙が、連日住居に流れ込み、一家が健康を損なったというのが提訴理由だった。横浜副流煙裁判の始まりである。

しかし、裁判所は、一家3人の訴えを棄却した。原告と被告は隣人とはいえ、煙草の煙が闖入するような位置関係にはなかったうえに、たとえ将登さんが吸う煙草が外部へ漏れていても、その量も極めて少なかった。そのうえ将登さんの喫煙場所が、防音装置が施されて密封状態にある音楽室にほぼ限定されていた関係で、煙が外へ漏れる可能性はほとんどなかった。

しかし、提訴の根拠となったのは、複数の医師が作成した「受動喫煙症」の病名を付した診断書だった。副流煙が体調不良の原因だと断定したのである。

とりわけ日本禁煙学会の理事で日赤十字センターの作田学医師が作成した家族3人の診断書は、訴状と一緒に提出され、裁判の中で決定的に重要な位置を占めた。ひとつには作田医師が禁煙学の権威として、日本の津々浦々まで名を馳せているからだ。

ところが裁判の審理の中で、提訴の根拠になっている作田医師が作成した診断書に、次々と不審な点が浮上したのである。しかも、いずれも初歩的な「ミス」だった。

たとえば原告の3人家族のうち、娘の診断書は2通存在した。日赤の割り印がない診断書もあった。さらに診断書の書式そのものが日本赤十字センターのものではなく、ワープロで作成したようなしろものだった。

不信感を抱いた将登さんの妻・敦子さんは、作田医師による診断書交付を自分の眼で観察したい願望にかられるようになった。敦子さんは、作田医師が裁判に出してきたような杜撰な診断書を実際に書くのかどうかを自分の眼で確かめたいと思った。

そこで地域の友人である酒井久男さんに、作田医師の外来を受診してもらい、みずからも酒井さんに付き添って、診断書交付のプロセスを現場で検証することにしたのだ。酒井さんは、煙草の煙に弱く、副流煙を吸い込むと咳き込む。

この「日赤潜入」が、後に別の裁判で物議をかもすことになる。

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既に述べたように3人家族が起こした最初の裁判は、藤井将登さんの勝訴だった。勝訴の確定を受けて、将登さんと敦子さんは、「戦後処理」に入った。根拠のない裁判で高額な金銭を請求する行為を断罪しなければ、喫煙撲滅運動を進めている勢力による訴権の濫用が広がりかねないからだ。

藤井夫妻は、元原告の3人と作田医師に対して、訴権を濫用されて損害を受けたとして、約1000万円の損害賠償を求める裁判を起こしたのである。これが横浜副流煙事件の2件目の裁判である。

この裁判の中で被告である家族3人と作田医師は、敦子さんと酒井さんによる作田外来への「日赤潜入」を持ち出したのである。そして尋問の場で、酒井さんら退室してから3分後に、煙草の臭いが漂ったと発言した上で、酒井さんのことを「うさんくさい患者さんでした」とか、「当然、会計にも行っていないと思います」などと供述したのである。また、藤井さんに対しては、酒井さんが非喫煙者であるとすれば、藤井さんが喫煙者であると思うと証言したのである。これらの証言は、両人のいずれかが喫煙者であるという作田医師の判断を前提としているのだ。

酒井さんと敦子さんは、作田医師によるこれらの証言に対して、約200万円の支払を求める名誉毀損裁判を起こした。これが横浜副流煙事件の3件目の裁判である。

この裁判の中で重要な争点になっているのが、診察室を去った3分後に煙草に匂いがしたとする作田医師の証言である。完全な偽証であり、その嘘を前提として、藤井さんを喫煙者と決めつけたり、酒井さんをうさん臭い人間で会計にも行っていないと証言したのである。

しかし、そもそも3人の退出から3分後に煙草の臭いが漂ったという証言は、不自然きわまりない。二人とも非喫煙者である。たとえ喫煙者であっても、退室から3分後に匂ったのであれば、約20分の診察の間にも、煙草の臭いを感じていなくてはおかしい。

さらに作田医師は、煙草の臭いを感じたにもかかわらず酒井さんの診断書に記した「受動喫煙症」の病名を訂正しなかった。訂正しなかった事実は、酒井さんのために、作田医師への紹介状を作成したクリニックに、作田医師が送付した酒井さんの医療記録で確認できる。酒井さんが、医療記録を情報開示したところ、未訂正が判明したのである。

作田医師は、自分が酒井さんに対して「誤った診断書を出してしまったかもしれないと思って」(尋問調書)事務の女性に酒井さんの後を追わせたわけだから、酒井さんの診断記録から「受動喫煙症」の病名を削除しなければおかしい。まして未訂正の診療記録をクリニックに送付することなど、普通はあり得ない。

つまり3分後に煙草の臭いがしたとか、事務職の女性に酒井さんの後を追わせたとか、構内放送で呼び出しのアナウンスを行ったといった証言は、偽証である可能性が高い。なぜ、偽証する必要があったのか。それは、酒井さんを指して「うさんくさい患者さんでした」とか、「当然、会計にも行っていないと思います」と言ったとしても、また敦子さん指して喫煙者であると言っても、その根拠となる客観的で正当な事実があれば、暴言ではなく評論とみなされて、名誉毀損から免責される法理があるからだ。

実際、裁判所は作田医師の発言を、正当な証言だと認定して、賠償責任を免責した。無修正の診療記録をクリニックに送付するなど、診断書交付後の行動の矛盾点を指摘することはなかった。

【写真出典】https://drvape.jp/shop/pages/about_model3_design