1. 博報堂によるビデオリサーチ視聴率の書き換え疑惑、1%の水増しでも広告費に大差が

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2016年07月04日 (月曜日)

博報堂によるビデオリサーチ視聴率の書き換え疑惑、1%の水増しでも広告費に大差が

2003年、日本テレビのプロジューサーが視聴率をかさ上げする策略を行っていたことが発覚した。新聞部数の「偽装」はすでに水面下の社会問題になっていたが、新たに日テレ社員によるテレビ視聴率のかさ上げが発覚したのである。

新聞部数の偽装とテレビ視聴率の偽装という日本のメディアの2つの恥部が公衆の前にその姿を現したのだ。

日テレ社員の手口は単純で、探偵事務所を使って、ビデオリサーチ社(視聴率調査会社)の調査対象世帯を割りだし、その世帯に特定の番組を見るように依頼するというものだった。その際、5000円から1万円の現金や商品券を手渡したとされる。

テレビ視聴率の偽装問題をメディア黒書(7月1日)で取り上げたところ、視聴率の「偽装」がCM営業に及ぼす影響について質問があった。

■参考記事:テレビ視聴率「偽装」の決定的証拠を公開、博報堂の担当員はビデオリサーチ「視聴率」との差異をどう説明するのか?

問い合わせは、視聴率を0.1%、あるいは1%水増した場合、広告料金にどの程度の影響があるのかというものである。

質問の背景には、些細な視聴率操作では、広告営業にほとんど影響を及ぼさないのではないかという推論があるようだ。新聞の偽装部数率は、推測で平均30%から40%だから、その異常さは分かりやすいが、これに比べてテレビ視聴率の偽装は1%未満のケースもあり、取るに足らないのではないかという指摘である。

◇「1%違いで広告費大差」

視聴率がCM営業に与える影響については、たとえば日テレの視聴率「買収」事件を取り上げた朝日新聞の記事(2003年10月25日付け)に次のような記述がある。タイトルは、「1%違いで広告費大差」。

今回の調査では、4世帯(工作対象になった世帯)が押し上げる視聴率は最大0.67%。2時間番組には15秒のCM枠が48本分ほどあるのが平均だ。仮に1%あたり10万円で計算すると、0.67%は約320万円になる。

視聴率の些細な違いがたった1%であっても、それによりテレビ局と広告代理店が受ける収益の差は極めて大きい。

◇ビデオリサーチの視聴率を改ざん

博報堂とアスカコーポレーションの間で問題になっている視聴率問題は、テレビ局による不正工作ではなく、広告代理店による不正工作である。しかも、広告代理店・博報堂が番組提案書に記入するビデオリサーチの視聴率を、自社で勝手に改ざんした疑惑があるのだ。

少なくとも博報堂の担当者・清原(仮名)氏がアスカ側に提出した番組提案書の視聴率と、その後、アスカ社がビデオリサーチから入手した同じ番組の視聴率を対比した結果、次々にデータの書き換えれらている事実が明らかになったのである。

その意味では視聴率偽装の手口は、探偵事務所を使って調査対象世帯を割り出した日テレの手口とは、まったく性質が異なる。大胆な、それでいて手軽な手口である。ただ、数字を改ざんして、それをクライアントに示し、承諾を得るだけの工作だ。これほど単純な手口が発覚したら、弁解のしようがないだろう。

事実、博報堂は取材を一切拒否している。

改めて言うまでもなく、こうした手口は広告業界の水面下ですでに広がっている可能性もある。その意味では、この事件は博報堂一社の問題ではない。「押し紙」問題と同じように、広告業界全体の問題になる可能性もある。

参考までに、偽装の詳細をエクセルデータを提示しておこう。

■視聴率偽装の詳細(エクセル

なお、博報堂が作成した番組提案書について若干補足をしておこう。通常、番組提案書に明記する視聴率は、必ずその出典を示すのが慣行だ。事実、筆者の手元にある電通、ADK、東急エージェンシーの番組提案書には、視聴率の出典が明記されている。博報堂が作成した番組提案書の中にも、「ビディオリサーチ」と出典が記されたものもあるが、アスカ社が問題にしている番組提案書には、肝心の出典が記されていない。

アスカ社によると、現在、問題視している番組提案書は、全体からすればほんの一部だという。と、いうのも博報堂の清原氏は番組提案書を提示した後、ほとんどの場合、それを持ち帰るのが常だったからだ。残っていた番組提案書は、古い段ボールの中から、見つかったものなのである。全体からすればほんの一部だ。

◇テレビ局が関与している可能性も

それにしても、なぜアスカ社は、番組提案書に明記された視聴率の偽装に気づかなかっただろうのか。

答えは簡単で、博報堂を過信していた上に、視聴率についての知識がなかったからである。逆説的に言えば、この点に博報堂の清原氏はつけ込んだのである。しかし、騙された側を非難することはできないかも知れない。

と、いうのも視聴率の解読は、専門家の領域であるからだ。それはちょうど新聞広告のクライアントが新聞部数の偽装に気づかないのと同じ原理である。折込チラシの「折り込め詐欺」にクライアントが気づき、社会問題になったのは、2009年ごろである。それまでは完全に騙されていたのだ。

視聴率の問題は、日テレのケースが過去にあるにしろ、今回は、その規模と手口は、尋常なものではない。しかも、それが広告代理店が主体となってい行われいた可能性が高い。テレビ局の関与も、今後、調査する必要があるが、博報堂とアスカ社の係争を機に発覚したケースで、先兵となっていたのは、広告代理店の側だった。

 ◇「視聴率」訴訟は避けられない?

筆者がアスカ社から入手したCPO(1人の客を獲得するために費やした販促費用)を示す資料は、次の数値を示している。

2009年: 220,876円
2010年: 240,643円
2011年: 220,019円
2012年: 432,065円
2013年: 922,760円
2014年:1,139,010円
2015年:1,538,897円

CM効果が激減して行ったことが数値の上でも裏付けられている。2007年までアスカ社は、電通と東急エージェンシーを広告代理店として使っていたのだが、この時代のCPOは4万円台から、高くても7万7000円で推移していた。ところが博報堂がアスカ社の業務を独占するようになったころから、上記のようにCPOが悪化して、とうとう1人の客を獲得するのに150万円を要するようになった。

もっとも、視聴率の偽装とCPOの低下をどう関連づけ、どう評価するかは、さまざまな見方があるが、いずれにしてもアスカ側の怒りは心頭に達しており、視聴率問題で新たな訴訟が提訴されるのは避けられないもようだ。また、刑事告訴の動きもある。