1. 博報堂に対して48億円を請求、アスカが視聴率の改ざん・偽装で提訴、番組提案書の無効を主張

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2016年08月17日 (水曜日)

博報堂に対して48億円を請求、アスカが視聴率の改ざん・偽装で提訴、番組提案書の無効を主張

アスカコーポレーションは、8月16日、博報堂に対して2件目の訴訟を起こした。請求額は約47億9000万円。ウソの視聴率が記入された博報堂の番組提案書により、CMや通販番組の制作「契約」に誘導されたとして、番組提案書そのものの無効と返金を求める裁判である。

耐震強度の偽装から食品偽装まで、「偽装」が地球規模で広がっているなか、今度は視聴率の偽装による番組提案という深刻な問題が司法の場へ持ち込まれたのである。裁判所が、この視聴率偽装をどう裁くかが注目される。

裁判の中では、当然、博報堂の営業マンが偽装工作に果たした役割や、CM「間引き」疑惑も検証対象になる。

博報堂に対して約15億円を請求している前訴では、放送関係の請求は含まれていなかったが、今回提訴された訴訟では、請求対象が放送関係の不正に絞られている。法廷でCM制作の裏面などが暴露される可能性が高い。

テレビは業績不振からV字回復を遂げたが、かりに同じ騙しの手口が業界全体に広がっていれば、放送界の実態が根本から問われることになりかねない。

博報堂とアスカの間で勃発している放送関係の係争について、概略を説明しておこう。

◇放送枠を選択する唯一の指標=視聴率

CMや通販番組を制作する際の重要なプロセスに、番組企画書の提示がある。CMを制作する大前提として、広告主が放送枠を選択するわけだが、その際に重要な役割を果たすのが、番組提案書に記入された視聴率である。視聴率は広告主が番組枠を選ぶうえで、最重要視するデータなのだ。それ以外にほとんど指標がないからだ。

視聴率の0.1%の違いも、広告主は軽視しない。テレビ視聴者の絶対数が多いからだ。たとえば1000万人の視聴者がいるとすれば、その0.1%は、1万人に該当する。1%は10万人に該当する。10%で100万人になる。

博報堂はその重要なデータを改ざんして、アスカにCMや通販番組を制作するための「GOサイン」を取り付ける手口を繰り返していたのである。

訴状によると、アスカの手元に保管されていた番組提案書は49通。このうちの43通で、視聴率が改ざんされていた。改ざんされたデータが掲載された番組提案書数が全体に占める割合は87・8%だった。この数字を根拠にして、博報堂に対して過去に支払った放送関係の金額の87.9%にあたる約48億円の支払を請求したのである。

ちなみに博報堂の営業マン・清原(仮名)氏は、アスカの南部社長に番組提案書を提示して、「○」(購入)「△」(不購入)「×」(今後の条件次第で購入)のいずれかの回答を得ていた。番組提案書は、基本的にアスカに提出することはなく、なぜか清原氏が持ち帰っていた。アスカに49通しか番組提案書が残っていなかったゆえんにほかならない。

■視聴率偽装の実態(エクセル)

視聴率偽装の実態を紹介しよう。

たとえば、JNN系の「MBSドラマの光」の世帯視聴率は3.4%(ビデオリサーチ)だったが、博報堂はこれを4.0%に改ざんしている。

また、CM間引きの疑惑があるスーパーネットワーク社(CS)の「Super Drama TV」の世帯視聴率は14.3%になっている。

この放送枠に対応するビデオリサーチのデータは公表されていないので、視聴率を改ざんした確証はないが、わたしが複数のテレビ・広告関係者にその信憑性を問うたところ、共通して「あり得ない数字」という言葉が返ってきた。

同じくCSの「ディスカバリーチャンネル」では、世帯視聴率が21・9%になっている。

なお、CM「間引き」の疑惑は、CSとBSの放送局で数多く指摘されているが、不自然な視聴率の提示も、CSとBSの放送枠に集中している。数字の記入ミスの可能性もあるが、少なくとも番組提案書を見る限りは、視聴率の提示としか読み取れない。

CSとBSに関しては、ビディオリサーチのデータが存在しないので、視聴率を偽装した確証はないが、不自然な点が多いことは間違いない。

■博報堂の番組提案書の一部

なお、博報堂の番組提案書には、大半のもので、データの出典が示されていない。これに対して、電通や東急エィジェンシーの番組提案書には、出典が示されている。

◇休止番組からも料金を徴収

博報堂にとっては、視聴率の偽装によりCMや通販番組の制作を請け負った時点で、第1目的を達成したことになる。

CMや通販 番組が完成すると、当然、放送の段取りになる。この段階から不適切な業務の手口が重層してくる。不正の手口が枝分かれする。

【休止番組やCMからの請求と転売疑惑】

まず、番組を休止にしておきながらCM料金を徴収した事実がある。朝日放送のケースで、たとえば2011年3月11日の東日本大震災の影響で、15日深夜に放送が予定されていた通販番組が休止になった。ところが休止になった番組からも、博報堂は100万円を請求している。

■裏付け資料(朝日放送)

なお、朝日放送の放送確認書は博報堂が代筆していることも判明している。通常ではあり得ないことである。どのような事情があったのか、裁判の中で検証されなければならない。

■博報堂による代筆放送確認書の例

朝日報道とおなじパターンの請求は、テレビ北海道やテレビ愛知で放送予定だった通販番組でも発生している。

■裏付け資料(テレビ北海道)

■裏付け資料(テレビ愛知)

休止になった番組枠は、当然、転売された可能性もある。テレビ局が転売したのか、博報堂が転売したかは別として、かりに「転売」されていたとすれば、転売した者は、アスカと転売先から2重の利益を上げたことになる。

休止になった番組の扱いについて、わたしは朝日放送、テレビ北海道はテレビ愛知の3放送局に尋ねてみたが回答はなかった。

テレビ局の中には、わたしの取材に対して、最初は好意的に対応していた局もあるが、結局、転売先を明かした局はない。アスカの社員からの問い合わせに対しては、「博報堂さんの承諾なしには、口外できない」と返答した局もあったという。つまり博報堂とテレビ局が口裏あわせをしている可能性があるのだ。

CMに依存したテレビジャーナリズムは、広告代理店を敵にまわすことはできないのだ。それがこの事件が報じられないゆえんである。

【ACへの振り替えで請求の例も】

ACとは、公益社団法人ACジャパン(エーシージャパン、ADVERTISING COUNCIL JAPAN)」が提供する公共広告・CMのことである。東日本大震災の際、数多くのCMがACへ切り替えられたのは周知となっている。

たとえば東日本大震災が起こった2011年3月、アスカのCMは57本が放送され、53本がACに振り替えられた。ところがACへ振り替えたことを理由に割り引かれた額は、たったの74万6000円で、1800万円の請求を受けている。本来、割り引かれなければならない額は、見積書から計算すると約458万円である。

◇後付け見積書による請求

通販番組を休止にしたり、CMをACへ振り替えた場合の料金請求は、他の請求項目と同様に、後付けの見積書で行われる。たとえば8月3日に放送されたCMの見積書は、8月31日付けで提出される。しかし、アスカは博報堂に対して、事前に見積書を提出するように指示している。

こうした方法で、休止になった通販番組までが後付けで見積もられ、実際に請求対象にもなっていた。

アスカ側も、こうした変則的な支払い方法に対して、原則的に応じてきた。その背景には、博報堂の営業マン・清原氏を過信していた事情がある。

◇CMの中抜き

偽装した視聴率でCM契約を取り付けた後のプロセスは、CM制作とCM放送である。CM制作に関しては、ここでは言及しないが、検証が不可欠であることは論を待たない。特に撮影を担当した「会社」の実態を調査する必要がある。これに関しては取材中で、後日、レポートすることになるだろう。

CM制作の次のプロセスであるCM放送に関しては、「中抜き」疑惑が浮上している。

これに関しては、まだ事実が確定しているわけではないが、そう考える根拠は十分にある。

CMの「中抜き」疑惑の典型例は、衛星放送局・スーパーネットワークの放送確認書に10桁CMコードが表示されていない事実である。CM本数にすると900本を超えている。

原則的な見方をすれば、10桁CMコードが表示されていないということは、CMが放送されていないことを意味する。10桁CMコードは、もともとCM「間引き」をコンピュータによって監視するために導入されたシステムであるからだ。

スーパーネットワークは、10桁CMコードを使わない理由として、民放連に加盟していないことを上げているが、CMコードの使用は、民放連に加盟しているか否かとは関係ない。

元々、CMコードは広告主を不正から守るためのものである。それゆえに民放連などは、2006年からCMコードの使用を義務付けている。さもなければCM営業が難しいなるだろう。

次に示すのは、衛星放送協会を取材した際のメモである。

黒薮:CMの間引き問題が出ていますが、そちらの協会の方で防止策など取られているようであれば、教えてほしいのですが。

衛星放送協会:われわれの方ではガイドラインを設けておりまして、放送確認書を発行しています。各社におかれては、そこに手を加えることはなく、きちっと放送されたものを放送確認書でスポンサー様に、あるいは広告会社様にお渡ししています。

黒薮:10桁コードに関して、民放連などはCMの10桁コードを使うように徹底しているということなんですが、そちらでも・・

衛星放送協会:こちらの方でも、10桁コードを使用するように推奨して、各加盟社を指導しています。

スーパーネットワークが加盟している日本衛星放送協会も、10桁CMコードの使用を推奨している。

CM間引きの疑惑がある衛星放送の局を取材した限り、わたしは「衛星放送協会に所属している放送局では、10桁CMコードは使用しない」という口裏合わせが行われているような印象を受けた。

一方、大手広告代理店の電通、ADK、それに東急エージェンシーは、わたしの取材に対して、衛星放送でも10桁CMコードは使っていると答えている。

◇放送確認書の偽造は技術的に可能

CMの「中抜き」と連動して考えなければならないのは、放送確認書の偽造疑惑である。

偽造の疑惑が浮上した糸口は、衛星放送局・CJE&M Japanの放送確認書に2つの重大な「ミス」が発見されたことである。

まず、第1に住所の間違いである。同社の正しい住所は、「港区西新橋2-7-4」であるが、「西新橋」を落として、「港区2-7-4」と記している。しかも、同じ「ミス」を1年間繰り返しているのだ。もし、放送確認書をCJE&M Japanが作成したのであれば、住所を間違うはずがない。

第2のミスは、2014年3月29日付けになっている放送確認書に、3月30日と31日にCMが放送されたとする記載がある点だ。これも「偽造」の過程で発生したミスの可能性が高い。

なお、この種の偽造は、IT関係者によると、技術的に十分可能だ。wordなどを使って偽造の放送確認書を制作できる。そのことをわたしは確認した。

■参考記事:博報堂事件、放送確認書そのものを何者かが偽装した疑い、確認書の発行日とCM放送日に矛盾

◇新聞部数の偽装と視聴率の偽装

以上、説明したように、視聴率の偽装に端を発する放送関係の検証点は極めて多い。視聴率の偽装により結んだCM制作契約、CMを含む番組制作と放送、後付け見積書による不正な請求。このプロセスが延々と繰り返されていた。

その中で原点にあるのが視聴率の偽装なのである。

「48億円」訴訟では、疑惑に疑惑が複合的に重なった実態が検証されることになる。

メディア黒書は、「新聞の発行部数の偽装」と並行して、「視聴率の偽装」を報じていく。

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