1. 【解説】奇怪な後付け見積書が多量に、博報堂事件の構図はどうなっているのか?

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2016年07月29日 (金曜日)

【解説】奇怪な後付け見積書が多量に、博報堂事件の構図はどうなっているのか?

メディア黒書で断続的に取り上げている博報堂事件とは何か?こんな問い合わせが読者から寄せられた。そこで本稿では、事件の輪郭を説明しておこう。輪郭が分かれば、これは極めて単純な経済事件であることが分かる。

結論を先に言えば事件の中身は、博報堂が後付けの見積書によってアスカコーポレーションに提示した業務内容(もちろん金銭を含む)に実在しなかったり、消化不良になっている項目が多数含まれている疑惑である。枝葉末節はあるにしろ、事件の中心はこの部分にほかならない。

もちろん現在の段階では、疑惑である。確定ではない。

◇テーマは多岐に渡るが柱はひとつ

わたしの手元に今年の5月に、アスカが博報堂に対して起した過払金返済訴訟で、裁判所に提出した「過剰請求費」一覧表がある。博報堂が過剰請求していたとアスカが主張している具体的な項目である。全部で15項目にもなる。

1、情報誌制作費
2、撮影費
3、タレント出演料
4、アフィリエイト
5、通販番組制作費・編集費
6、PR活動費
7、企画・メディアプランニング費等
8、TV-CM費
9、新聞広告費
10、雑誌広告費
11、ラジオ番組制作費
12、イベント費
13、テレビ放映中止後の放映料
14、ホームページ制作費
15、通販番組受付業務費

このほかにも、アスカはテレビCMを「間引き」されていたとして、提訴を検討しているようだ。さらに視聴率の偽装事件もある。これについても、アスカが詐欺で提訴する可能性が高い。

◇前代未聞の後付け見積書

「1」から「15」の項目で、問題になっているのは、博報堂の請求方法である。通常、業務を発注するときは、事前に見積もりを提示し、作業内容やそれに対する経費を協議する。合意に達すると、実際に業務を行う。そして請求書が発行され、それに対する報酬が支払われる。

ところが博報堂はこのようなプロセスを踏んでいなかった。常識では考えられないことであるが、業務(たとえば情報誌の制作、CMの制作)が終わってから、形式ばかりの見積書を提示して、それをそのまま請求していたのである。

たとえば次の見積書を見てほしい。これは2011年にアスカが福島で被災地を支援するために行った「FUKUSHIMA×ASKA Shining Hope Tree」と題するボランティア活動に対して博報堂が発行した見積書である。

イベントは2011年12月20日から25日の6日間だった。当然、見積書は、イベントが始まる前の時期に提出されなければおかしい。準備期間もあるので、おそらくは10月の下旬か11月初旬には、見積書を提示しなければならない。

ところが上記の「御見積書」の右上にある書面発行の日付は、12月31日になっている。つまりイベントが終わってから、イベントの見積書を提出しているのだ。

「御見積書」の赤文字の部分が典型的な後付けの見積もり(請求)項目である。暴風・積雪対策として80万円。斜面調整のために100万円。もちろん赤文字以外の項目もすべて後付けである。

ちなみに上場企業の経理としては珍しく、博報堂の見積書には書面の整理番号が入っていない。

この種の後付け「御見積書」が、多量にあるのだ。アスカは、博報堂に対して、事前に見積書を提出するように申し入れ、一時的に、「事前御見積書」と題する書面が提出されたことがあるが、全体からすればほんの一部である。

「事前御見積書」という言葉そのものがおかしい。見積書は、常に「事前」が大前提になるからだ。下の書面が、「事前御見積書」の例だが、この書類の発行日に注意してほしい。書類の名称だけは「事前御見積書」に訂正されているが、書類の発行日はやはり「後付け」の7月31日になっている。この事実ひとつを見ても、いかに博報堂の「社員」に緊張感が欠落しているかが、推測できるのだ。

 

裁判では、請求項目の中身に実態があったのか、それとも架空だったのかが検証される。見積書が後付けになっているから、こうした疑義が生じたのである。

なぜ、後付け見積書をベースとした取引が延々と続いてきたのかは、今後、取材する必要があるが、これまでの取材から察すると、博報堂の広告マンの特殊で想像を超えた戦略にあったようだ。このあたりは、おそらく裁判で予想される清原氏とアスカ・南部社長の尋問の中で、検証されるだろう。

この両者の尋問なくして、裁判は成り立たない。2人が裁判のキーパーソンなのである。

◇電通を撤退させた「辣腕」

この経済事件では、無断広告や視聴率の偽装も問題になっている。これらの事件は、事件の柱である後付け見積書による架空請求疑惑とどのような関係があるのだろうか?

まず、無断広告事件との関連を説明しよう。この事件は、京都きもの友禅と旅行代理店H.I.Sの広告が、両クライアントの了解を得ないまま、アスカの通販情報誌に掲載されていたというものだ。両クライアントは、自社の広告が掲載されていたことにすら気づかなかった。

この怪事件の背景には、広告代理店相互の競争があったようだ。もともとアスカには、電通、博報堂、それに東急エィジェンシーの3社が出入りして、自社の優位性を誇示しながら、業務を進めていたという。表向きは同業者の仲間意識があっても、企業活動である以上、クライアントは実績によって評価を下すので、心の中では互いがライバルである場合が多い。

博報堂の広告マンに清原氏(仮名)という「辣腕」がいた。清原氏は、通販誌に掲載する広告のクライアントを探し出した。それが京都きもの友禅とH.I.Sだった。両者に無断で広告を掲載して、自分の実績にしていたのである。

こうした清原氏の「実績」もあってか、博報堂は電通と東急エィジェンシーを撤退させ、業務を独占するようになったのだ。アスカにとっては、悲劇の始まりだった。もちろん京都きもの友禅と旅行代理店H.I.Sから、広告料は支払われていない。

この事件は、博報堂による偽りの実績による業務独占という観点から、位置づけることができるのである。他社はアスカから撤退したのだ。

■博報堂の広告マンに電通も歯が立たずに撤退、京都きもの友禅とHISを巻き込んだ奇妙な「広告事件」

◇視聴率の偽装=営業の道具

さらに視聴率の偽装問題は、テレビCMや通販番組を提案する際に、より高い料金で交渉することを可能にした。視聴率は、料金設定を行う上で極めて大事な意味を持つ。

それはちょうど新聞のABC部数の大小に応じて、公共広告の価格が設定されるのと同じ原理である。

高い視聴率を提示することで、博報堂はCMや通販番組の交渉を有利に進めたと推測されるのである。こうして制作されたCMが、後付け見積書により、「間引き」されていた可能性があるのだ。

しかし、繰り返しになるが、事件の根底にあるのは、後付け見積書の中身の問題である。実態があったのか無かったのか。架空だったのか、実在したのか。この点が裁判で争われるのだ。

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