1. 福岡などを舞台とした「障害者郵便制度悪用事件」の発覚時、博報堂九州支社長を務めていた井尻靖彦氏が日本広告審査機構(JARO)の事務局長を務めている実態

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2016年07月25日 (月曜日)

福岡などを舞台とした「障害者郵便制度悪用事件」の発覚時、博報堂九州支社長を務めていた井尻靖彦氏が日本広告審査機構(JARO)の事務局長を務めている実態

福岡などを舞台とした「障害者郵便制度悪用事件」の当時、博報堂九州支社長を務めていた人物が公益社団法人・日本広告審査機構(JARO)の事務局長を務めていることが分かった。事務局長を務めているのは、博報堂の九州支社長などを歴任した井尻靖彦氏である。

JAROは、広告代理店や広告主からなる民間の自主規制機関で、ウェブサイトによると、次のような活動を展開している。

今日まで、消費者に迷惑や被害を及ぼすウソや大げさ、誤解をまねく広告を社会から無くし、良い広告を育む活動を行っています。消費者からの苦情や問い合わせをもとに、JAROは公平なスタンスで広告を審査し、問題のある場合は広告主へ広告の改善を促しています。

◇問題の縦長広告

7月20日付けのメディア黒書で、「博報堂が制作した不可解な新聞広告、前代未聞『世界初』のレイアウト」と題する記事を掲載したところ、JAROの見解を知りたいという要望が寄せられた。この時点で筆者は、博報堂の井尻氏がJAROの事務局長であることを知った。

発端となった記事の全文は次の通りである。

■「博報堂が制作した不可解な新聞広告、前代未聞『世界初』のレイアウト」

記事の内容を簡潔にいえば、本来、横方向にレイアウトしなければならない長方形の新聞広告を、縦方向に割り付けして、広告料金75万円を請求したというものである。広告主のアスカによると、この重大ミスの報告はなく、気がついたのは今月になってからだという。過去の取引を検証する作業の中で分かったのだ。

もっとも広告の割り付けは、西日本新聞が行ったのであるから、責任の一部は同社にもあるが、博報堂は縦方向の広告を作成しなければならなかった。重大なミスである。

◇騙しの手口

日本経済新聞の「会社人事」によると、井尻氏は、2008年4月1日付けで博報堂九州支社(福岡市)の支社長に就任している。

■人事の裏付け①

この時期、福岡市などを舞台に博報堂グループが関与していた歴史的な経済事件が発覚する。いわゆる「障害者郵便制度悪用事件」である。

この事件は、一定の条件をクリアーした郵便物に対しては、通常よりも低料金で郵便物を発送できる制度を悪用したものである。たとえば、ウィキペディアによると、重量200グラムの書籍を郵送する場合にも、この割引制度を利用すると、通常の送付に比べて、次のように送料に違いが生じる。

①通常料金:240円
②第3種郵便物:84円
③心身障害者用低料第三種郵便物:30円

障害者郵便制度悪用事件は「③」を悪用した事件だった。
手口は単純で、障害者団体とされる組織「凛の会」(後に「白山会」)が、厚生労働省に障害者団体の証明書を発行させる。それを根拠として、「凛の会」は、「③」を行使する権利を得る。同時に広告代理店を通じて、この制度を利用するクライアントを募る。募りに応じたクライアントの宣伝媒体(DMやカタログなど)を、凛の会の出版物ということにして、激安で発送する。

◇関係者の顔

この偽装工作の営業活動を展開していた主要な広告代理店は次の通りである。

①博報堂エルグ(本部・福岡市)

②広告代理店・ペン

③ウイルコホールディングス

一方、クライアントになった主要な企業は次の通りである。いずれも逮捕者を出した会社である。

①大手家電量販会社・ベスト電器

②健康食品通販会社・キューサイ

③紳士服販売会社・フタタ

④伊藤忠紙パルプ九州支店

興味深いことに①から④は、全て福岡を拠点とする会社である。さらにこの事件に関与して逮捕者を出した博報堂エルグも福岡に本部を置く。

◇鳩山総務大臣が博報堂九州支社の関与を指摘

当然、井尻氏が支社長を務めていた博報堂九州支店と博報堂エルグの関係はどうだったのかという点が関心事になるが、これについては、メディアは言及していない。ただ、当時の総務大臣・鳩山邦夫氏は、2009年6月2日の記者会見で、博報堂九州支社の責任について次のように言及している。

博報堂は立派な会社だと思うけれども、博報堂エルグが逮捕者を出し、しかも入金だか送金だかの関係では博報堂本体も絡む、かかわっているのですよ。今回の低料第三種郵便のあの大不正事件ですよね。

博報堂の抱えている博報堂エルグのみならず博報堂本体の九州支社が関与していた。博報堂本体自体が、九州支社ということですが、関与していたにもかかわらず、悪いことをしたのはといって、逮捕起訴されているのは子会社であるから、博報堂をこれからも使い続けるということを横山専務は各事業会社に通達をしていると。これは極めて遺憾、不正義であると断じたいということでございます。

■記者会見の全議事録

井尻氏は事件が進行していたころの博報堂九州支局の支社長だったのである。その前の支社長は川上裕氏(2010年4月1日付けで執行役員を退任)である。

◇「博報堂側の提案を断った」

アスカは、明確な日時は特定できないとしながらも、博報堂側から、事件が発覚する前の時期に心身障害者用低料第三種郵便物の制度を使うように勧誘されたことがあるという。

「数十円で発送が可能になるので情報誌の発送コストが大きく下げられるという提案を受けたことがあります。当事、弊社は90円台のヤマトメール便で情報誌を発送していたのですが、DMは8ページ程度の圧着シール形式でページ数が取れないこと、情報誌は200ページのボリュームがあることなどを理由にその場で断りました。それ以降、提案はありませんでした。」

これに対する博報堂側の主張は、同社が取材を拒否しているので紹介しようがない。

郵政事件が発覚した当時の九州支社長である井尻氏がJAROの事務局長を務めている事実をどう評価すべきなのだろうか。障害者郵便制度悪用事件は不可解な部分が多く、まだ全容は解明されていない。

JAROは広告代理店や広告主が関与していた障害者郵便制度悪用事件を再検証すべきだろう。そこからアスカを舞台とした今回の事件も見えてくるのではないだろうか。

 

【訂正】
 25日付けの記事「福岡などを舞台とした「障害者郵便制度悪用事件」の発覚時、博報堂九州支社長を務めていた井尻靖彦氏が日本広告審査機構(JARO)の事務局長を務めている実態」に訂正箇所がありました。
 
 井尻靖彦氏の九州支社長在職の期間を2010年4月までの2年と書きましたが、これは誤りでした。また、「鳩山邦夫」総務大臣を「鳩山由紀夫」総務大臣と記しました。訂正すると同時に、鳩山由紀夫氏の写真は削除しました。
 関係者にご迷惑をおかけしたことをお詫びします。