1. 裁判所が「押し紙」の定義の明確化を求める、読売の代理人は喜田村洋一・自由人権協会代表理事、残紙率50%の読売・濱中裁判の第1回口頭弁論

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2020年10月23日 (金曜日)

裁判所が「押し紙」の定義の明確化を求める、読売の代理人は喜田村洋一・自由人権協会代表理事、残紙率50%の読売・濱中裁判の第1回口頭弁論

読売新聞・YC門前駅前店の元店主・濱中勇志さんが8月に、読売新聞大阪本社に対して起こした「押し紙」裁判の第1回口頭弁論が、10月22日の午後、大阪地裁で開かれた。

原告の訴状、それに対する被告・読売新聞の答弁書の提出を確認した後、池上尚子裁判長は原告に対して、「押し紙」の定義をより具体的に示すように求めた。これは読売側が、答弁書の中で釈明を求めている事柄でもある。

今後の裁判の進行については、口頭弁論(公開)の形式で行われることになった。

「押し紙」裁判は、これまで弁論準備(非公開)のかたちで行われることがよくあったが、マスコミが注目している裁判なので公開での審理を希望すると原告が表明したのを受けて、読売もそれに同意した。

読売の代理人は、喜田村洋一・自由人権協会代表理事ら5人の弁護士が務める。喜田村弁護士は、かねてから読売には「押し紙」は1部も存在しないと主張してきた経緯がある。読売新聞も日本新聞協会も同じ見解である。

読売は、濱中裁判でも基本的に同じ主張を展開する可能性が高い。

原告の代理人は、江上武幸弁護士ら6人が務める。江上弁護士は、「押し紙」を水面下の問題から、表舞台に出した2度に渡る真村裁判の弁護団長を務めた。第1次訴訟では、福岡高裁が、読売による「押し紙」政策を認定(2007年)した経緯がある。この判決を受けて、『週刊ダイヤモンド』などの雑誌が次々と「押し紙」問題を提起した。

しかし、読売が『週刊新潮』とわたしに対して名誉毀損裁判を起こしたあと、「押し紙」報道は下火になった。

第2回の口頭弁論は12月17日の11:45分から行われる。

◆読売の「求釈明」

読売は答弁書の「求釈明」の節で中で、「押し紙」の定義と具体的な「押し紙」の証拠を示すように釈明を求めている。次のくだりである。

原告の主張する「必要部数」、「押し紙」、「仕入れ単価」などの根拠及びその証拠を示すよう(黒薮注:原告に)求めるとともに、被告が上記①(黒薮注:下記参考)ないし③の行為(黒薮注:下記参考)を行ったことについて、だれが、いつ、どこで、なにを、どのように行ったのかという詳細についての具体的な主張及び証拠を示すように求める」

①と②は以下と通りである。

①原告がその経営上真に必要であるとして実際に販売している部数にいわゆる予備紙等(被告代理人註:この「予備紙等」との表現の「等」に何が含まれているのかは不明である。)を加えた部数(必要部数)を超えて供給する方法(注文部数超過行為)

③2280部という定数を定めて当該部数を仕入れるように指示する方法(注文部数指示行為)

【「押し紙」裁判の解説】
従来の「押し紙」は、今年の5月に販売店勝訴の判決が下りた佐賀地裁のケースを除いて、販売店で残紙になってた部数が、「押し紙」なのか、それとも「積み紙」なのかが最大の争点になってきた。

「押し紙」というは、簡単に言えば、新聞社が押し売りした部数のことである。これに対して「積み紙」というのは、販売店がみずから注文した部数のことである。販売店がみずから過剰な部数を注文する場合がある背景には、新聞の搬入部数に対して折込広告の搬入枚数が決まる基本原則があることや、残紙を含む搬入部数に対して新聞社が補助金の額を決めるなどの事情がある。

しかし、最近は広告主が自主的に折込広告の発注部数を減らすことが多く、「新聞の搬入部数=折込広告の搬入部数」の原則が崩れているというのが、常識的な見方である。PR手段が多様化する中で、折込広告の需要は大幅に下落している。

ただし、地方自治体の広報紙については、この不正な商慣行が依然として維持されている。

「押し紙」の定義は、裁判所が残紙の性質を判断するための前提条件になる。過去の判例では、残紙の性質が「押し紙」なのか、それとも「積み紙」なのかの判断で、判決の明暗も分かれてきた。残紙の存在は認定するが、その中身は「積み紙」と判断した判例が多い。

しかし、2010年ごろから、残紙の性質を「押し紙」と認定した上で、販売店が和解勝訴するケースが増えている。

佐賀新聞の「押し紙」裁判では、裁判所は、新聞の実配部数に予備紙を加えたものを新聞販売店が真に必要な部数とした上で、それを超える部数は理由のいかんを問わず、「押し紙」と認定した。残紙は、「積み紙」ではないと判断したのだ。

「押し紙」の定義を明らかにして、それを前提に残紙の性質を検証しようというのが、これまでの裁判の共通した争点である。「押し紙」裁判は、販売店が損害賠償を求める裁判であるから、損害の有無の検証は当然である。

しかし、ジャーナリズムの視点からすると、それ以前の問題がある。残紙の性質が「押し紙」であろうが、「積み紙」であろうが、大量の残紙そのものが社会通念からして、公共の秩序を乱しているとする視点である。濱中裁判のケースでは、搬入されていた新聞の約50%が残紙になっていた。なぜ、このようなビジネスモデルが放置されきたのか?

新聞のビジネスモデルそのものが公序良俗違反に該当する可能性が高い。公序良俗違反について、民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と明記している。

原告は、裁判の中で公序良俗違反を主張するものと見られる。

この裁判を通じて、日本の新聞社のビジネスモデルを考える必要があるだろう。

 

【資料】

■訴状

■「押し紙」一覧

真村訴訟福岡高裁判決

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