1. 診断書交付が「患者サービス」に、多発する診断書をめぐる問題

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診断書交付が「患者サービス」に、多発する診断書をめぐる問題

2019年、滋賀医科大病院の岡本圭生医師が追放された事件の取材を皮切りに、筆者は医療問題に取材分野を広げた。その中で常に直面してきたのが、診断書のグレーゾーンである。

滋賀医科大病院のケースでは、1000通を超える診断書が不正に閲覧されていた。岡本医師の医療過誤を根掘り葉掘り探るために、診断書にアクセスする権限がない医師や職員らが、血眼になって診断書を物色していたのである。電子カルテだったので、閲覧歴が残っており、カルテの不正閲覧が発覚したのである。

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同じころ、労災保険の不正受給疑惑を告発した人がいて、筆者はそれを調査した。精神疾患を理由にS氏(男性)が、労災保険を受給しているが、不正の可能性が高いというのである。不自然だというのだ。

この事件で筆者が取材した保育園の理事長は、次のような話をした。

「S氏は、自分の子供をわたしが経営する保育園に毎日送り迎えしている。それが日課になっている。ごく普通の人である。奥さんが腕利きの看護師で、医師との人脈が広い。その関係で知り合いの医師にS氏の診断書を交付させている。労災保険は非課税だから、S氏は税金も払わない。そのうえ子供の保育料も無料になる。奥さんの給料と労災保険による収入で悠々自適の生活をしている。車も買い替えた」

S氏が仮病を使っているのか、それとも本当に精神疾患なのかは不明だが、精神に関する病気は、医師の主観で診断書を交付せざるを得ない側面がある。「患者」がそれを逆手に取って、不正確な診断書を交付させ、労災年金や障害年金を不正に受給する温床がある。

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横浜副流煙事件では、作田学医師が作成した診断書のグレーゾーンが浮上した。さまざまな疑惑がかかっている。この事件で作田医師は、A家3人のために診断書を交付した。それを根拠としてA家は、警察を動かしたり、4500万円の損害賠償裁判を起こした。

が、それぞれの診断書に異なる問題がある。

まず、A娘の診断書である。既報してきたように、A娘の診断書は、少なくとも2通存在する。2つの診断書に付された病名は異なっている。A家の代理人弁護士は、単純なミスだと主張してきたが、そもそも日赤医療センター(作田医師の当時の職場)の診断書作成システムを使って診断書を交付した場合、同じ患者の診断書が2通作成できるシステムにはなっていない。つまり作田医師は、日赤医療センターとは別のフォーマットで診断書を作成した可能性があるのだ。

また、A夫の診断書については、「受動喫煙症」という病名に疑問符が付く。と、いうのも横浜副流煙裁判が始まって約1年が過ぎたころ、 A夫に約25年の喫煙歴があることが発覚したからだ。

「反訴」の損害賠償裁判(2022年5月~)の中で、裁判所が先月、日赤医療センターに対して、A夫が作田医師の初診を受けた際の問診表の開示を命じたところ、日赤がそれに応じた。開示された問診表によると、A夫は、過去の喫煙歴の有無を記入する欄を空白にしていた。つまり過去の喫煙歴を隠していたのである。

それにもかかわらず作田医師は、「受動喫煙症」という病名を付した診断書を交付した。問診を重視した弊害である。

 ※喫煙者が禁煙した後に、受動喫煙症に罹患することは普通にあるが、煙草が人体に対して及ぼした長期の影響という観点からすると、25年の喫煙歴を無視することはできない。むしろ「能動喫煙症」と書くべきだったのではないか?

さらにA妻の診断書にも重大な問題があった。診断書の所見の中で、A家の下階に住む「ミュージシャン」が副流煙の発生源であると事実摘示を行ったのだ。もちろんこの大胆な事実摘示は根拠に乏しい。ミュージシャンに対する偏見を感じる。

本来、診断書は医師の主観を入れず、客観的な事実のみを記入するものだ。作田医師は、その基本原則を完全に無視していた。

日本禁煙学会は、受動喫煙症の診断は問診を重視する方針を示している。しかし、問診に頼りすぎると、診断書交付が「患者サービス」に変質し、客観的な疾病の実態が把握できなくなる。これは医学にとって大きなマイナス要素である。

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宮田幹夫医師についても、安易な診断書交付が指摘されている。患者が精神疾患か化学物質過敏症なのか判断できない場合、「エイヤア」で化学物質過敏症の病名を付した診断書を交付したというのだ。

さらに宮田医師は、知り合いの医師に対して、化学物質過敏症の病名を付した診断書交付に躊躇(ちゅうちょ)するときは、自分のところへ患者を紹介するように指示している。

※筆者は、煙草を吸わない。分煙には賛成している。