1. 化学物資過敏症の診断書交付プロセス、医師の主観よりも科学を重視、舩越典子医師が意見書を提出、横浜副流煙裁判

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2022年12月19日 (月曜日)

化学物資過敏症の診断書交付プロセス、医師の主観よりも科学を重視、舩越典子医師が意見書を提出、横浜副流煙裁判

横浜副流煙裁判は、煙草の煙で「受動喫煙症」になったとして隣人が隣人に対して約4500万円の損害賠償を請求した事件である。第1審も第2審も請求は棄却された。原告(控訴審では、控訴人)の敗訴だった。

裁判の勝訴を受けて、元被告の藤井将登さんは、裁判提起そのものを不当とする反スラップ訴訟を起こした。妻の敦子さんも原告になった。

この反スラップ訴訟の被告は、改めて言うまでもなく、前訴を提起したA家の3人(夫・妻・娘)である。さらに作田学・日本禁煙学会理事長を被告に加えた。と、いうのも前訴を提起するための有力な根拠になったのが、作田医師が3人のために交付した3通の診断書だったからだ。また、これらの診断書にさまざまな疑惑があったからだ。

作田医師は、問診により得た情報を重視するかたちで、3通の診断書を交付した。実際、診断書の所見で、副流煙の発生源が将登さんの煙草であり、それがA家3人の化学物質過敏症の原因であると事実摘示した。これはおそらく原告らの告発内容である可能性が高い。

作田医師が交付した診断書には、これ以外にもさまざまな問題がある。診断書を複写して私的に外部へ持ち出したり、原告弁護士に送付していた事実などである。ひとりの原告の診断書を2通交付(病名が異なる)した事実もある。

これらの疑惑が浮上しために、日赤も裁判に協力する姿勢を示している。裁判所からの命令を受けて、日赤は被告の問診表2通を開示した。その結果、被告のひとりがみずからの喫煙歴を作田医師に隠していたことが判明した。

ちなみに日本禁煙学会のウエブサイトには、「受動喫煙症」の病名を付した診断書を作成するためのひな型が掲載されている。

この裁判には、複数の医療関係者が強力する姿勢を示している。次に紹介する書面は、大阪府堺市の典子エンジェルクリニック化学物質過敏症の外来を設けている舩越典子医師が裁判所へ提出した意見書である。この意見書の中で舩越医師は、診断書を交付する正常なプロセスを説明している。

また、医師の主観ではなく科学的な見地に立って診断する重要性を述べている。

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1,はじめに

わたしは平成元年3月に京都府立医科大学を卒業し、研修医を経て国立舞鶴病院、清恵会病院などで勤務した後、平成13年3月に大阪府堺市で典子エンジェルクリニックを開業しました。一般婦人科に加えて、化学物質過敏症外来を設けています。その関係で2013年10月から日本禁煙学会に所属し、受動喫煙症の診療に関する情報も収集してきました。

この陳述書では診断書のオーソドックスな作成方法を説明した上で、日本禁煙学会が推奨している診断書作成の問題点を指摘します。

2,オーソドックスな診断書作成

わたしが勤務医として病院で臨床医療に携わっていた時期の体験から言うと、診断書作成に際して遵守しなければならない基本的な項目がいくつかあります。それは患者から、診断書の提出先、診断書の提出理由、診断書の用途の3点を確認することです。これは医療界で常識として定着していることです。診断書の提出先や使用目的を確認しないで診断書を交付した場合、それが悪用される可能性があるからです。診断書は一種の証明書ですから、交付に際しては細心の注意を要します。

改めて言うまでもなく、これらの基本的な情報は患者本人から医師が直接聞き取ります。当然、医療機関はそれを保存して、何かトラブルがあった場合に参照にします。もちろん医師が勝手にカルテや診断書を外部へ持ち出すことは許されません。患者の機密情報にあたるからです。

診断書の書式は、小規模な開業医は別として、通常はそれぞれに医療機関が定めている定型の書式を使います。典子エンジェルクリニックでも定型の書式を使っています。わたしが勤務医だった時期、勤務先の病院でも定型の書式がありました。

診断書に所見を記入する際は、原則として客観的な症状やデータのみを記述します。患者が言う事を鵜吞みにして、親切心から希望する内容を事実とは異なると認識しているにもかかわらず、客観的な所見として記述する医師がいるという話はよく聞きます。客観的に判断できない事を客観的な事実として記載することは虚偽の診断書を作成するという事になります。虚偽の診断書を作成する事は医療倫理に反する行為であるとともに医師法違反にあたると考えます。

3,日本禁煙学会が推奨する診断書作成

次に日本禁煙学会が推奨している診断書作成について記述します。ただし、推奨と言っても、日本禁煙学会が会員の医師を個別に指導しているわけではなく、ウエブサイトやメーリングリストを通じて情報を提供している範囲内での推奨です。

日本禁煙学会が推奨している患者の診断方法の最大の特徴は、問診の重視です。

日本禁煙学会が出している受動喫煙症診療にあたっての留意点(別紙添付)2は、患者に対して「受動喫煙の場所・期間・頻度・程度を詳しくたずねる」ことを進言しています。「詳しく聴きましょう」「ほとんどの場合、患者の申告だけで十分です」などと記載されています。喫煙場所の証拠写真や関連資料の提出は求めていません。

診断書の提出先、診断書の提出理由、診断書の用途の3点の確認については、医療界の常識として定着しているためか、あえて指標は示していません。わたしが確認した限りでは、それに類するガイドラインは見当たりませんでした。

4、診断書交付に関する私見

以上の記述を踏まえて、診断書交付に関するわたしの個人的な意見を述べます。化学物質過敏症の診断方法が十分に確立されていない現在の状況の下では、診断書の交付に際して、問診を重視せざるを得ない傾向があるのはやむを得ない側面もありますが、それを隠れ蓑にして患者の希望や申告に応じた所見を記入する行為は問題があります。診断書は一種の証明書ですから、客観的なものでなくてはなりません。

わたしの臨床体験からすれば、化学物質過敏症を疑って来院する患者の中には精神疾患や発達障害を合併されている人もかなりいます。しかし、問診を重視し過ぎると、それが見抜けない危険性があります。

日本禁煙学会は、診断書のひな型を提供していますが、それを見る限り、「受動喫煙症」という病名を付することを最終目的にしているように見受けられます。「患者さんのために希望どおりの診断書を発行してあげてください」と言っているような印象を受けます。しかし、医師の責任において、患者を客観的に診察するのが医療の基本です。
本件裁判では、診断書に書かれた所見が問題になっていますが、患者の訴えだけでは化学物質過敏症の曝露状況を把握することは難しく、さらに詳しい検査や診察が必要だったのではないかと思います。患者に「受動喫煙症」という病名を付す前に、他の疾患、特に精神科疾患や煙草以外の物が原因となった化学物質過敏症の合併がないかどうかを見極める必要があったと考えます。

精神科疾患が疑われた場合は、必ず先に精神科を受診してもらい、化学物質過敏症の診断の参考にすることが推奨されます。本件裁判のケースでは、そのプロセスが無視されているように感じます。

「受動喫煙症」以外の疾患が疑われ、本件裁判で患者が不利になる結果になる可能性があっても、客観的な病名と所見を記入することが役割です。所見に医療以外のことが記されているのも問題です。診断書交付の基本原則が無視されているような印象を受けました。

今回の裁判で作田医師一個人だけでなく、日本禁煙学会として客観的エビデンス不在の「被害」主張を安易に認め、結果として「冤罪」を作り出していたことを知りました。自然科学としての医学を探究する学会にはあるまじき、エビデンス軽視の姿勢に、わたしは失望しました。とてもついていけないと思い、日本禁煙学会を退会することを決めました。