1. ふたりの禁煙運動家が立候補、東京都議選、岡本光樹候補と梅田なつき候補、過去に受動喫煙をめぐる係争も

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2021年06月26日 (土曜日)

ふたりの禁煙運動家が立候補、東京都議選、岡本光樹候補と梅田なつき候補、過去に受動喫煙をめぐる係争も

説教師が診断書を片手に、禁煙「指導」をしているイメージがある。偶然の一致なのか、それとも事前に練った戦略なのかは不明だが、6月25日に告示された東京都議会選挙に、「禁煙運動」を押し進めてきた2人の人物が立候補した。

岡本光樹候補(とみんファースト・北多摩第二選挙区)と、梅田なつき候補(減税とうきょう・新宿区選挙区)である。

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2019年9月末、一通の通知書が港区東新橋のマンション内にある百様社に届いた。弱小なIT企業である。通知書の差出人は、「弁護士 岡本光樹」。都民ファーストの前議員である。今回の都議選に北多摩第二選挙区から出馬している。日本禁煙学会の理事として、喫煙運動の先頭に立ってきたひとである。

通知書の依頼人は、〇〇夏紀氏である。今回の都議選で新宿区選挙区から立候補している梅田なつき氏のことである。通知書などによると、梅田氏は、2017年2月に知人の紹介で百様社に入社した。以来、プログラマーとして、派遣先のクライアント企業で業務をこなしていた。その後、2018年7月から1年のあいだ育児休業を取得した。

そして2019年の7月1日に復職したところ、社内で受動喫煙の被害を受けるようになったという。改善を何度も申し入れたが、受け入れてもらえなかった。(ただし百様社は、対策を取ったと話している。筆者が現場を確認した限りでは、分煙スペースは設けられていた。)梅田氏の要求は通知書によると次の3点である。

① 室内禁煙化
②クライアント企業での勤務
② 在宅勤務または代替勤務場所での勤務

① から③のいずれかひとつを認めるように要求を突き付けたのである。
さらに7月22日には、寺尾クリニカを受診して、「受動喫煙症」という病名が記された診断書を交付してもらった。煙草の副流煙が原因で体調を崩したことの医師による証明書である。この種の書面は、受動喫煙問題の交渉に強い効力を発揮する。実際、梅田氏はこの証明書を百様社に提出した。

ちなみにその後、百様社は梅田氏に対する給料の支払いを停止した。クライアント企業も決まらなかった。実質的に、梅田氏を解雇したのである。

しかし、岡本弁護士の通知書は一連の問題を解決する鍵にはならなかった。そこで梅田氏は、2020年11月、増田崇弁護士を立てて係争を東京都労働委員会に持ち込んだ。請求額は、約500万円である。

最終的に係争は、今年の春に和解で終了したが、第3者からみると検証が必要な係争なのである。

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このところ高額の賠償金を請求する係争が絶えない。500万円程度の請求は日常茶飯で、弁護士の中には名誉毀損裁判を起こしては、小銭を稼いでいる者がいる。みずからを「人権派」と称し、訴訟ビジネスを展開する者が増えているのである。
わたしは、このような腐敗に歯止めをかける必要性を感じてきた。友人のジャーナリストらと一緒に、日弁連に道理のない高額訴訟に対して対策を講じるように申し入れたこともある。弁護士懲戒請求を申し立てたこともある。

メディア黒書で既報してきたように、横浜副流煙事件の原告3人に至っては、4500万円の金銭請求を起こした。その根拠としていたのが、日本禁煙学会の作田学医師が作成した「受動喫煙症」などと記した診断書だった。ところが作田氏が患者を診察しないで診断書を交付していたことが発覚して、医師法20条違反に認定された。

当然、訴えは棄却された。不正な診断書を作成した作田学医師は、その後、弁護士や原告と一緒に刑事告発され、現在は神奈川県警横浜県警が事件を捜査している。

梅田氏の係争も、横浜副流煙裁判と同様に、やはり「受動喫煙症」がひとつの鍵になっていたのである。

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わたしが岡本氏の通知書を読んで異様に感じたのは、受動喫煙症という「病気」が既成事実であるかのような主張が前提になっていることである。受動喫煙症と種々の体調不良の関係がいとも簡単に結び付けられている点である。人権にかかわる重大なテーマを軽々しく扱っているのだ。たとえば、次の記述だ。

 受動喫煙との関連が確定している疾病及び関連が指摘されている疾病として、その一部を列挙すれば、次のとおりです。

がん:肺がん・副鼻腔がん・脳腫瘍・大腸がん・膵臓がん・白血病・悪性リンパ腫・膀胱がん・子宮頸がん・乳がん

呼吸器疾患:慢性気管支炎、呼吸機能低下、気管支ぜんそく

循環器疾患:動脈硬化、狭心症、心筋梗塞

アレルギー:化学物質過敏症(シックハウス症候群)・アレルギー性鼻炎

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繰り返しになるが、岡本氏と梅田氏が主張の根拠としている「受動喫煙症」という病気は公式には認定されていない。病気の分類は、「ICD10」と呼ばれるコードで分類され、保健請求の際などに使われるのだが、「受動喫煙症」に「ICD10」は割り当てられていない。いわば、自分勝手に作った病名なのだ。

これに対して、やはり化学物質が原因となる「化学物質過敏症」は、公式の病名として認められている。

読者は、これらふたつの「病気」の決定的な違いが分かるだろうか。

「受動喫煙症」は、煙草の副流煙が単一の発症原因とされる病状のことである。

これに対して化学物質過敏症は、副流煙だけではなく身の回りの生活環境の中にある多種多様な化学物質による複合汚染が主要原因となる病状である。病状の原因を副流煙だけに限定していない点が決定的に異なるのだ。

となれば当然、禁煙運動を進める側は、「受動喫煙症」に固執することになりかねない。その方が政策目的にかなるからである。

米国のケミカル・アブストラクト・サービスが1日に登録する新生の化学物質は1日に1万件を超える。すべてが有害な化学物質というわけではないが、環境汚染の中身は刻々と変化し、刻々と複雑化しているのである。静止状態にはならない。

当然、複合汚染の視点がなければ、現代社会における化学物質による人体影響の評価はできない。梅田氏が体調不良を訴えるのであれば、みずからの生活歴を過去にさかのぼって検証しなければならない。寺田クリニカが交付した診断書には、「タバコの煙以外の有害な物質の曝露がない」と記載されているが、現代社会は化学物質と隣りあわせなのである。

しかし、受動喫煙症を上段にかかげる梅田氏には、こうした視点がほとんど欠落している。事実関係の綿密な検証よりも、喫煙禁止が先行しているのだ。

ちなみに横浜副流煙裁判では、日本禁煙学会が非喫煙社会の実現という政策目的で、診断基準を設けていることが認定された。

ところが梅田氏の係争で、日本禁煙学会理事の岡本弁護士が登場し、再び「受動喫煙症」を持ち出してきたのである。

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化学物質過敏症に関しては、横浜副流煙裁判でも争点になった。裁判の原告らは、排気ガスや薬剤など、さまざまな化学物質に被曝していた。副流煙も吸い込んでいた可能性はあるが、その発生源は分からない。原告のひとりに25年の喫煙歴があった事実からあえて推測すれば、副流煙の発生源は、原告自身である可能性が高い。

しかし、そんなことは考慮することなく作田医師らは、被告の藤井将登さんの煙草だけが原告らの病気を引き起こした唯一の原因であるとして、4500万円を請求したのである。

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わたしが梅田氏の関係者を取材した限りでは、梅田氏はほとんど外勤で、そもそも本社に出社する機会は少なかったと聞いている。と、すれば労働審判で高額の金銭を請求するだけの十分な根拠があったのかが問題になる。請求に根拠がなかった可能性もある。

なお、岡本弁護士は通知書で金銭要求はしてない。しかし、事件の解決が遅れると、高額訴訟になる可能性をほのめかしている。次の記述である。

また、損害賠償額は近時高額化しており、700万円の支払いが認められた例もあります(札幌地裁平成21年3月4日 裁判上の和解)。

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岡本候補と梅田候補は都議選に際して、過去の禁煙運動歴を明らかにすべきではないか。分煙は都民にとっても必要なことである。当然、支持者もいるだろう。わたし自身も煙草は吸わない。嫌煙派である。しかし、訴訟などを上段に掲げた禁煙運動には恐怖を感じている。禁煙ファシズムを連想するのである。