1. 横浜・副流煙裁判と科学者・医師らの暴走

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2019年12月02日 (月曜日)

横浜・副流煙裁判と科学者・医師らの暴走

既報したように横浜・副流煙裁判の地裁判決で被告の藤井将登さんが勝訴した。この裁判では、藤井さん側が途中から弁護士を解任して、おもに藤井さんの近隣住民らからなる「支援する会」が藤井さんをサポートする体制を取った。幸いにその中には、法律に詳しい人や、医師など専門職の人たちもいて、総力で相手の請求を棄却に追い込むことができた。

ある意味では、法律の専門家でなくても対処できるほど、最初から原告に勝算のない裁判だったのだ。このような裁判に2年間も藤井さんを縛り付けた弁護士や科学者の責任は重大だ。

藤井さんはミュージシャンで、自宅マンション(1階)の一室を仕事部屋に宛てている。その部屋は音が外部にもれない構造になっている。当然、副流煙ももれない。しかも、仕事柄、自宅にいないことが多く、自宅で仕事をする際も、喫煙量は少ない。空気清浄機も使う。

原告の自宅は、藤井さんと同じマンションの2階。ただし、藤井さん宅の真上ではない。真上マンションの隣に位置するマンションだ。つまり原告と被告の位置関係は、1階と2階を45度ぐらいの直線で結んだイメージになる。

だれが考えても、藤井さん宅の「防音室」で吸った煙が、原告宅へ達するはずがない。確かに、化学物質過敏症の人はごく微量の化学物質に被曝しても、症状を呈する。それは事実である。ヨーロッパではすでに化学物質過敏症に保険が適用されている国もあるほどだ。

しかし、症状の出現は汚染された空気が、化学物質過敏症の人の体内に入った場合に限る。

この裁判では、藤井さん宅の「防音室」の煙が、原告宅に届いているかどうかがひとつの争点になった。原告は、風向きが年中、被告宅から原告宅の方向へ吹いているので、副流煙が自宅に入ると主張した。これに対して藤井さん側は、気象庁から横浜市の風向に関するデータを取り寄せ、実際の風向が、1年を通じてまちまちであることを立証したのである。

◇作田学医師と宮田幹生医師

この裁判で問題視しなければならないのは、著名な科学者や医師が原告を熱心に支持したことだ。たとえば4人の医師が原告の診断書を作成している。禁煙学の権威である作田学医師、化学物質過敏症と電磁波過敏症の専門家である宮田幹生医師(北里大学の元教授)、それに倉田文秋医師と三原龍介医師である。

このうち作田、宮田、倉田の3医師は、意見書を提出したり、原告の取材に応じるなど、原告の裁判戦略に全面的に荷担した。

残念ながらこれが市民運動の実態なのだ。現場に足を運んで、原告と被告の自宅の位置関係を自分の目で確認していれば、こんな過ちは犯さなかったはずだ。怠慢というほかない。

◇作田医師の違法行為

その怠慢ぶりは判決にも反映された。作田医師が原告の一人を直接診察せずに診断書を作成して、弁護士に電送していた事実が、裁判の中でクローズアップされ、判決で医師法18条に違反すると認定されたのである。

さらに同じ原告の診断書が2通存在して、病名が異なっていた事実も明るみにでた。作田氏は、単なるミスと主張したが、真相解明はこれからだ。

さらにこの係争の中で、原告が提訴に至る前に、神奈川県警が2度にわたって藤井さん夫妻を取り調べた事実も見過ごせない。通常はありえないことである。この件には、当時の斉藤実・神奈川県警本部長も関与している。

まったく原告に勝ち目のない裁判が提起された背景になにがあるのか。わたしはひとつには、ミュージシャンに対する強い偏見ではないかと思う。次に示す作田医師の診断書の記述が、それを物語っている。

1年前から団地の1階にミュージシャンが家にいてデンマーク産のコルトとインドネシアのガラムなど甘く強い香りのタバコを四六時中吸うようになり、徐々にタバコの煙に過敏になっていった。煙を感じるたびに喉に低温やけどのようなひりひりする感じが出始めた。(略)

まったく事実ではないことを摘示しているのである。通常の診断書とは思えない。診断書の文体というよりも、聞き書きの文体である。藤井さんが煙草を吸い始めたのは約30年前である。

◇訴権の濫用の可能性

原告は、根拠のない診断書を根拠にして、4500万円を請求したのである。当然、訴権の濫用が疑われる。日本の司法は、提訴権を重視しているので、訴権の濫用は認めない傾向(認定されたのはわたしが知る限り5件)にあるが、この提訴に関しては訴権の濫用の可能性が高い。

訴権の濫用の認定条件は、勝訴の見込みがないことを知りながら、提訴したことなどである。この裁判の原告と被告の住居の位置関係がどうなっているかを見ただけで、原告が勝訴できないことは分かっていた可能性が高い。少なくとも弁護士であれば判断できただろう。体調不良を訴えていた原告3人には、それは困難かも知れないが、弁護士には判断できたはずだ。

弁護士は、裁判提起を止めるべきだったのだ。

さらに根拠のない診断書を前提に、提訴に及んだことも重大だ。

今回のような裁判提起が市民運動の信頼を失墜させてしまうことは言うまでもない。わたしは煙草は吸わないが、禁煙ファシズムには賛同できない。