1. テレビCMは契約どおりに放送されているのか?

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2018年10月06日 (土曜日)

テレビCMは契約どおりに放送されているのか?

テレビCMの「中抜き」、あるいは水増し請求疑惑が浮上した。テレビ局がCMを放送していないにもかかわらず、放送したことにして、広告代理店がCMスポンサーに料金を請求する手口である。新聞の折込広告の「中抜き」や水増し請求の手口に類似した犯罪が、テレビ業界でも、行われてきた疑惑が浮上したのだ。

実は、CMにまつわるこの種の不正は、1990年代の後半に、静岡第一テレビ、福岡放送、北陸放送、岩手朝日テレビなどで発覚している。新聞もこれらの事件を報道している。

CMスポンサーに対する信用を失墜した放送業界は、民放連や広告主協などを中心に
対策に乗りだした。そして2000年から放送確認書を発行する制度を導入したのである。

放送確認書は、CMを放送したことを示す一種の証明書である。発行のプロセスは、まずCMコードを付番して、それをコンピューターに入力し、CM放送が完了するとコンピューターがそれを認識して、放送確認書を自動的に作成する。全行程をコンピューターに委ねることで、人間による改ざんや偽造を防止する。

放送局は、コンピューターから出力された放送確認書を広告代理店へ届ける。広告代理店は、それを請求書と一緒にCMスポンサーに届ける。完璧なCM不正防止のための制度として定着してきたのだ。

 

複数の弁護士が一致して偽造だと判断

2000年にこの制度が導入されたのち、CM不正の噂が流れたことはあるが、ほぼ完璧な制度とされてきた。CMの「中抜き」や水増し請求はあり得ない過去の事件と見なされるようになったのだ。当然、CMスポンサーも不正を疑うことはなかった。

ところが2018年の9月に、現在の放送確認書制度に重大な盲点があることが判明したのだ。盲点とは、広告代理店の介在である。放送局が直接、CMスポンサーに放送確認書を届ける制度であれば、CMの水増し請求は起こりえなかったが、両者の間に広告代理店が介在することで、放送確認書制度を骨抜きにしていたのである。

博報堂がアスカコーポレーションに持ちこんだ放送確認書の中に、人的に加工されたものが紛れ込んでいることが分かったのだ。そのうちの数枚を筆者は確認した。同社によると、偽装枚数はさらに増えるという。広報係は次のように話す。

「膨大な費用と人員を使って放送確認書の画像分析、超高精度のスキャナーによる細部の画像分析、システム鑑定と偽造文書鑑定、紙質の組成や添加物の分析やインクの分析を行い、複数の弁護士が一致して偽造だと判断しました」

現時点では、博報堂の言い分を聞いていないので、偽造と断定することはできないが、重大な疑惑が持ち上がっていることは疑いない。偽造の枚数が最終的にどの程度になるのかは不明だが、たとえ1件であろうが、放送界を揺るがす大スキャンダルである。

メディア黒書は、連休明けから、博報堂(厳密には、博報堂DYメディアパートナーズ)がからんでいるこの事件を詳細に報道していく。(週に2回程度の記事掲載を予定している)

 

◇ワードとエクセルで作成か?

放送確認書の偽造については、実は2015年の取材でも、一部が明らかになっていた。おそらくはワードとエクセルを使って作成したもので、「偽造ミス」が原因で発覚したのである。当然、他の放送確認書にも疑惑がかかったが、筆者には解明の糸口が掴めなかった。

参考までに2016年8月23日のメディア黒書の記事を紹介しよう。

放送確認書が偽造された疑惑が浮上している。

既報したように、チャンネルMnet(CJE&MJapan株式会社)の放送確認書である。疑惑の根拠は次の「ミス」である。最初に問題の書面を示そう。

まず、第1に住所の間違いである。同社の正しい住所は、「港区西新橋2-7-4」であるが、「西新橋」が欠落し、「港区2-7-4」と記している。しかも、同じ「ミス」を何度も繰り返しているのだ。もし、放送確認書をCJE&MJapanが作成したのであれば、住所を間違うはずがない。

第2のミスは、2014年5月29日付けになっている放送確認書に、5月30日と31日にCMが放送されたとする記載がある点だ。これも「偽造」の過程で発生した「ミス」の可能性が高い。[参照:上記書面の赤の①②の部分]

第3の疑問点は、ウィンドウズ貼付画面が確認できることだ。ウィンドウズ画面の右上には、常に、「-」「□」「×」のマークが表示されるが、上記の放送確認書にも、それが確認できる。これについて、アスカは次のように話している。

「弊社には各放送局から提出された1万枚を超える放送確認書がありますが、このような放送確認書は、民放もBSもCSもあわせてチャンネルMnetだけです」

さらに10桁CMコードが使われていない。

この問題で22日に、CJE&MJapanに問い合わせたところ、書面で質問を送ってほしいとのことだった。次の書面が質問状である。

 

【質問状全文】

 

2016年8月23日
CJE&MJapan 株式会社様

発信者:黒薮哲哉
連絡先:(電話)048-464-1413
(メール)xxmwg240@ybb.ne.jp

昨日、電話で問い合わせをさせていただきました黒薮です。
貴社の放送確認書について、お尋ねしたいことがあり、貴社の要望に沿って
書面で質問させていただきます。

質問は、いずれもこの質問状に添付しました放送確認書に関するものです。

、この放送確認書は、貴社が発行されたものでしょうか?

、この放送確認書に記された貴社の住所は、「東京都港区2-7-4CJビル3F」となっており、「港区」の後に「西新橋」が欠落しています。同じミスが約1年にわたり、他の放送確認書でも確認できますが、原因を教えてください。

、この放送確認書の発行日は、5月29日(①の部分)になっていますが、30日と31日に放送されたとする記述(②の部分)があります。30日と31日に放送されたCMの放送確認書が、なぜ29日に発行されたのでしょうか。不可能だと思いますが。

、10桁CMコードを使用していない理由を教えてください。

26日までに回答していただくようにお願いします。

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冒頭写真:戸田裕一・博報堂DYホールディングス代表取締役社長 兼 博報堂取締役会長