1. 現行の国民投票法、与党(改憲勢力)絶対有利のからくりとは(1)

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2017年02月02日 (木曜日)

現行の国民投票法、与党(改憲勢力)絶対有利のからくりとは(1)

執筆者:本間龍(作家)

通常国会が始まり、安倍首相は改めて改憲への強い意欲を示している。トランプ大統領の誕生で日米外交に新たな懸念が生じ、そちらに予想外の時間を取られる可能性はあるものの、与党を中心とした改憲勢力の動きは活発化している。

そんな中で、私はジャーナリストの今井一氏の呼びかけで集まった有志による「国民投票のルール改正を働きかける会」に参加し、現行法の問題点を指摘して来た。(12月  14日付記事参照)ここで問題にしているのは、現行法では国会発議から投票までの広告宣伝については「投票日2週間前から投票日当日まではテレビCM放映を禁止する」という規制しかなく、事実上野放しである点だ。呼びかける会では、このままでは資金力のある勢力が一方的な宣伝戦を展開し、国民の判断に悪影響を与える可能性があるとして、

・テレビCMの全面禁止
・ネットに関しても何らかの広告規制を導入

などの提言を予定している。すると今年に入り、いくつかのメディアから質問を受けた。資金力のある勢力というと改憲側をさすが、護憲派も市民のカンパを集めれば対抗できるのではとか、同等の金額を集めれば同じ量のCMが打てるだろうし、民放連がきちんと自主的な規制を設け、一方的なCM放送を制限するのでは、という内容だ。今回は少し詳しく、そうした疑問への解説をしていきたい。

◇電通・博報堂とTVCM

結論を先に言えば、護憲派も改憲派同様の広告戦略がとれるはず、というのは非常に甘い見方で、幻想に過ぎない。なぜなら、護憲派はスタート時点(国会発議)ですでに改憲派に圧倒的な遅れをとることになるからだ。

整理すると、改憲派は自民、公明、維新などだが、何と言っても自民党が中心であり、結束力が固い。そして広報宣伝の中心は自民党であり、その実施は自動的に電通が担うことは、始まる前から決まっている。

それに対し護憲派は全くバラバラだ。民進・共産・社民・自由はそれぞれ温度差があり、そもそもどこが中心になるのかさえ見えていない。つまり、広告宣伝における中心も決まっていないということだ。また、恐らく博報堂がその広告宣伝を担うことになるだろうが、それもまだ定かではない。ちなみに、もし博報堂がこれを拒否した場合は、護憲派の敗北はその時点で決まると言っても過言ではない。

広告戦略・戦術は言うに及ばず、具体的な媒体確保力で電通に対抗できるのは博報堂しかないからだ。現在の日本の広告システムでは、電通・博報堂・ADKなどの大手広告代理店を通さなければ、特に全国ネットのTVCMは放送できない(申し込みできない)仕組みになっている。つまり大手広告代理店を使わないとCM放映すら出来ないのだ。国民投票の時だけこれを変えろと言っても、肝心の放送局側が猛反対するだろう。

◇電通に買い占められたゴールデンタイム

さらに、現在の護憲派の戦術はあくまで国会発議をしない・させないことがメインであり、博報堂への具体的な広告発注は国会発議が避けられないと判明した時期になるだろう。実はこの「発注時期」の差がとてつもなく大きい差を生む。自民党はすでに今の段階で電通に対し、国会発議から何日間でいくらの広告宣伝費がかかるかシミュレーションさせているはずだが、野党はまだどこもそんな準備をしていない。

そして自民党はふんだんな政党助成金を投入できる上、経団連などを通じて巨額の広告費を集めることができる。政権与党から協力要請されれば、多くの企業が献金に応じることは目に見えている。つまり、改憲派は強力な「集金マシン」も持っていることになる。これに対し、明確に自らが護憲側に立つと宣言している企業は数えるほどしかない。そして先々の企業経営を考えれば、政権与党に歯向かって護憲側に資金提供を申し出る大手企業は非常に少ないだろう。

それでも、仮に護憲側もカンパなどによって相当な資金を集め得たと仮定して、改憲派と同レベルのテレビCMを放送することができるのだろうか。単純に本数に限ればイエスだが、質から言えばNOである。なぜなら、護憲派が国会発議後に資金を集め、テレビCMを発注する頃には、ゴールデンタイムなどの視聴率が高い有料時間帯の枠は、すべて改憲派(電通)に買い占められた後だからだ。

これは広告発注システムに起因する。国会発議のイニシアチブは議席多数派の改憲派が握っているのだから、彼らはおおよその発議時期を想定することができる。それに従い、あらかじめ電通にTVCM枠を予約発注する。すると電通は「国民投票CM」などとは言わず、あくまで通常業務におけるCM枠確保を装って、発議直後の時期にTV局に対しCM枠を予約するのだ。発注元をダミーにしてCM枠を確保することは、新車のキャンペーンなどでもよく行われるので、特段珍しいことではない。

◇CM投入金額に差

そうなると、同じ10億円(例えば)のCMを発注しても、改憲派のCMは事前予約していた視聴率の高いゴールデンタイムに集中するのに対し、護憲派のCMは発注が遅れたため、深夜帯などの視聴率が低い時間帯ばかりに流れる、という事態が発生しかねない。

そしてこれは、新聞や雑誌の場合も同じである。早い時期に電通が有力媒体の広告枠を抑えてしまえば、いくら博報堂が頑張っても、空いている枠(売れ残り枠)しか購入できない。しかもこれは通常の商取引なので、誰も文句を言えないのだ。いくら民放連や新聞協会などに「公平に扱え」と要請しても、通常行っている商取引同等のやり方で発注されたら防ぎようがない。つまり、初動の遅れが決定的な差となるのである。

さらに言えば、特に番組提供の枠(30秒CM)において、電通は自社の発注が優先される枠(地面とも呼ばれる)を3割以上保持している。つまり、電通に発注しさえすれば、最優先で視聴率の高い枠でCMを放映できるのだ。

そして、もしCM投入金額に差があれば、民放各社の報道トーンにも影響を与える。有り体に言えば、カネを出す方に簡単になびくということだ。その理由と手法、さらに上記のような事態を避けるためにはどうすればよいかを、次回掲載で述べてみたい。