1. 電通、書類送検で石井社長が遂に引責辞任

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2016年12月29日 (木曜日)

電通、書類送検で石井社長が遂に引責辞任

執筆者:本間龍(作家)

28日、東京労働局は会社としての電通と、亡くなった高橋まつりさんの元上司と思われる社員一名を書類送検した。捜査は越年するとみられていたが、11月7日の強制捜査から僅か一ヶ月半という極めて異例の早さで進展した。

記者会見した労働局幹部は「一刻も早くやらなければと全力を挙げた。これで終わりではなく、捜査を続行して他にも送検すべき対象がいれば今後も訴追する。12月25日の高橋さんの命日も意識した」と語った。

これを受け電通は19時から記者会見を開き、石井直社長の1月引責辞任を発表した。石井氏は「高橋さんが亡くなったことは慚愧に耐えない。不退転の決意で改革を実行する」などと沈痛な表情で語った。

この記者会見を私はネット中継を見ていたのだが、実に不思議な光景だった。電通側登壇者は石井社長、中本副社長、越智人事局長の3名で、相当大きな会場なのに、集まったメディアは20人に満たないほどに見えた。まるで大きな体育館で、僅かな出席者が一カ所に集まって集会を開いているかのようだった。

◇大手広告代理店問題を報じはじめたNHK

会見後の質疑応答から察するに、参加したのは全国紙の記者、共同通信、時事通信、ハフィントンポストなどネットニュースサイトの記者や編集者などで、雑誌関係は質問者がいなかった。さらに、テレビ局はさすがに映像が必要だから撮影クルーはいたようだが、NHKとフジテレビ、日テレ以外は質問しなかった。全国紙記者とNHKが何度も繰り返し質問していたのに比べ、民放全体での消極性が鮮明になっていた。

前回記事でも述べたが、電通事件に関する報道はNHKの独壇場といった状況で、今日も夜7時のニュースで記者会見の模様を中継し、石井社長が深々と頭を下げる映像を流した。また、社長辞任を告げた数秒後にニュース速報のテロップも打った。さらに、夜9時の「ニュースウオッチ9」でもコーナーを作り詳報した。

民放はいまのところ30秒程度の短い報道しかしていないようだが、電通というメディアの中心にいる会社の社長が引責辞任するのに、明日以降のワイドショーやニュース番組でも今まで通りスルーするのだろうか。今頃各局編成部は鳩首会議の真っ最中に違いない。

◇刑事裁判化した場合の不利益を恐れて・・・

印象に残ったやりとりをいくつか紹介しよう。

まず、読売新聞の記者が「一連の問題発覚から数ヶ月経つが、社長の記者会見はこれが初めてだ。なぜこのタイミングになったのか」と問うと、石井社長は「遺族への謝罪を最優先と考えていたが、今まで許可を得られなかった。ようやく25日の一周忌に弔問が叶った。また、本日書類送検されたということで会見実施を決めた」と返答した。

さらに「会見が遅すぎたとは思わないか」と質されると「思いません」と回答した場面では、これまでメディアからの記者会見要請を散々無視してきたことを肯定するかのような即答ぶりだった。

そもそも高橋さんが亡くなってもう1年も経つのだ。その間は労災認定まで傍観し、認定後に騒ぎが大きくなったから慌てて謝罪しようとしても遺族に拒絶されたのは当然だったのだから、「遺族を最優先にした」などとは片腹痛い。さらに刑事裁判化した場合の不利益を恐れて今まで謝罪表明せず、延々と事態を悪化させた挙げ句の記者会見が「遅くない」とは、やはり傲慢という鎧が衣の下から垣間見えた瞬間だった。

さらにハフポストが「今年のブラック企業大賞に電通が選ばれた。世間にブラック企業と思われていることについてどう考えているか」と三者に回答を要請。これに対し、

石井社長「謙虚に受け止めて反省の材料にしたい」

中本副社長「決してブラック企業ではないと声を大にして言いたいが、そう見られている事実を謙虚に受け止めたい」

越智人事局長「真摯に受け止めてブラック企業の名を返上できるように努力していきたい」

と模範回答したのだが、「ブラック企業大賞を知っていたか」との再質問に石井社長は「知らなかった。当日報道で知った」と苛立ち気味に回答していた。

しかし、情報を最大の武器とする企業の社長が今年で5回目となる「ブラック企業大賞」を知らなければそれこそ問題だし、「知らなかった」と吐き捨てるように言ったその表情には、そのようなものに翻弄されている悔しさが滲み出ていた。

◇東京五輪への影響

そして共同通信が、今回の事件で東京オリンピックの業務に支障はないかと質問したのに対し、石井社長は問題ないと軽く受け流したていた。しかし、実はこれが電通にとって今後最大のアキレス腱となる可能性がある。

私は以前から、もし電通が書類送検されれば、それは国によって電通が「法令違反企業」と認定されたことになるから、官庁関係業務の指名停止処分の対象となる可能性があると指摘してきた。そうなれば、オリンピックは当然官製業務であるし、そもそも「倫理規範の尊重」を金看板とするオリンピックを「法令違反企業」が仕切るなど、日本国内はごまかせても世界には全く通用しない論理だ。

欧州や米国は人権や労働環境軽視に関して、日本とは比較にならないほど規制や監視が厳しい社会だ。現段階での「電通事件」は国内の一企業の問題だが、皮肉にもオリンピックというワールドクラスの檜舞台を担当していることによって、電通の悪名が世界に広がる可能性がある。

そうなれば、「人命軽視の法令違反企業はオリンピックから外せ」という要求が海外からわき上がる可能性があるのだ。さらに電通には、ネット関連業務における不正請求問題や、オリンピック招致時の賄賂疑惑も残っていて、もはや社長の引責で全てが終息できるような状況ではなくなっている。引き続き、これらの問題を追及していきたい。