1. 元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、後付け水増し請求という悪質な手口①

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2016年12月05日 (月曜日)

元博報堂・作家の本間龍氏がアスカの「15億円訴訟」を分析する、後付け水増し請求という悪質な手口①

元博報堂の社員で作家の本間龍氏に、2016年5月にアスカコーポレーションが博報堂に対して起こした「15億円訴訟」の訴状を分析・評論してもらった。

執筆者:本間龍(作家)

前回は、アスカが博報堂を訴えている訴状の中で、特に不自然さが目立つタレント出演料の高騰について書いた。同じタレントが大ヒットを飛ばしたわけでもないのに翌年、または数年後に出演料が10~20%以上値上がりすることはまずないし、年間を通しての起用したタレントの全体平均価格が20%値上がりすることもありえない。当たり前だが「値上がりする要因」がなければ、自然に価格が上がることなどないのだ。

逆にタレントによっては出演料が下がる場合も当然あるし、むしろ複数年、複数回の出演でディスカウントをするのは業界の常識だ。だからこれは、博報堂側がタレント契約料を恣意的に上げて、タレント事務所側が提示している出演料との差額を収益にしていたと考えるのが妥当だろう。もちろんそうしたことは業界ではよくあるが、年間を通じて起用した全てのタレント出演料を一律に上げるというのは、どうみてもやり過ぎだ。

私はアスカとは全く関わりがないし、請求されるままに支払いを行なっていたアスカ側にも確認を怠っていたという落ち度はあると思う。しかし、広告代理店の営業経験者として、また博報堂出身者として18年の経験上ありえないことを正直に指摘する義務があると思うし、さらに言えばこれは非常に特殊な例であり、博報堂の請求全てが同じだと思われたくはないので、他の訴因のいくつかについて、是々非々で解説してみたい。

◇サラ金に対する過払い請求のようなひどさ

アスカの訴状は総額15億2800万円にのぼり、15の「過剰請求費目」に分かれている。その内容を羅列すると(100万以下略)、以下のようになる。

1  情報誌制作費   7億7900万の過剰請求
2  撮影費         2億6400万  〃
3  タレント出演料   1億6600万 〃
4  アフィリエイト   1億8700万 〃
5  通販番組制作費・編集費  1億4700万 〃
6  PR活動費      895万  〃
7  企画・メディアプランニング費   3000万 〃
8  TVCM費      5300万  〃
9  新聞広告費     1100万円  〃
10 雑誌広告費     1700万  〃
11 ラジオ広告制作費   60万  〃
12  イベント費   2400万  〃
13  テレビ放映休止後の放映料   9700万  〃
14  ホームページ制作費   1300万  〃
15  通販番組受付業務費   4200万  〃

いやはや、まるでサラ金に対する過払い請求のようなひどさで、およそ全ての業務に及んでいるのでは、とも思えるほどの幅広さだ。これでは裁判結果がどう出るにせよ、かつてあらゆる業務を任せてくれたスポンサーにここまで疑惑をもたれるのは、やはり博報堂側にも何らかの落ち度があるのではないかと思ってしまう。

◇典型的な後付けの過剰請求

訴状の中で7億円と一番金額が大きい1の「情報誌制作費」の過剰請求は2007年から2014年までの7年間に及んでいて、一応は

ア:新規ページ(lp単価10万円)
イ:リデザインページ(lp単価7万円)
ウ:リライトページ(lp単価4万円)
工:調整ページ(lp単価0円)

という制作費設定がなされていたが、以前に作成したページを切り貼りして作成しただけの「調整ページ」を「新規ページ」や「リデザインページ」として請求していた例が数多くあり、さらにはその単価もいつの間にか30%以上値上げされていたという。アスカには「ism mode」のほか「新製品Book」「イチオシBook」「make book」「futur Book」など複数の通販情報誌があったため、訴状における金額も膨大になった。

これは一件ずつ確認していく他はないが、ア~エの区分が曖昧だったとしても、事前の見積を提出して打ち合わせをしていれば整合性がとれたはずだ。しかし博報堂側がその事前見積をきちんと提出していなかったとアスカ側は主張していて、ここまで金額が肥大化している中には、相当怪しい案件があるのではないだろうか。

◇撮影費も月額300万円の上限が・・・

次に金額が大きい(2億6400万)2の「撮影費」は情報誌に掲載する素材(商品やモデル、タレント、お客様等)の撮影費であるが、こちらは月額300万円の上限を決めていたにもかかわらずそれ以上の費用が発生したり、さらには撮影がなかったものまで請求されていたという。これも1つずつ照らし合わせて検証すれば、真偽が明らかになるだろう。

そして5の通販番組制作費・編集費(1億4700万)も月額990万円の制作費上限を決めていたにもかかわらず、それとは別に「通販番組制作費(WEB用)」「通販番組編集費(深夜考査対応用)」「通販番組編集費」などの新たな項目を承諾なしに請求されていたという。広告代理店が新たな請求項目を立てるのは良くあることだが、スポンサーの承諾を得ないなど有り得ないし、さらにいえば「深夜考査対象」編集費などというものは聞いたことがない。通販番組に対する細かい考査があるのは事実だが、昼と夜で考査内容に差があるはずもなく、これは架空の可能性が強い。

◇不自然な料金のアップ

さらに8のTV―CM費(5300万)は放映料のことだが、実はこれが一番不正が分かり易い。番組の放映料は一度決められれば常に一定であり、変動しないからだ。これは以下の3パターンに分けられている。

1)2012年5月まで990万円だった放映料(ローカル局分)が同年6月から9月まで1290万円で放映されていた。

2500万円のセット料金となっていた全国ネット局分の放映料が何の理由もなく、2012年6月には3000万円、同年7月から9月は3500万円へと増額していた。

3)BS・CS放送分が、2012年6月請求分から一律40%増額となっていたが、アスカはこれを了承していなかった。
1~3はどれも同じように値段が上がっているが、番組数が増えたか、CM放映回数増加していない限り、価格が自然に上がることはありえない。もし博報堂の請求書に放映料の詳細がなければ、局に提出させればすぐに分かることだ。9以降の訴訟事案については別掲する。(続く)