1. 公的問題を孕んだ質問には回答しない広告関係者、日本広告審査機構が回答拒否

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2016年11月09日 (水曜日)

公的問題を孕んだ質問には回答しない広告関係者、日本広告審査機構が回答拒否

電通の長時間労働など、広告業界の不祥事が次々と発覚する状況の下で、10月24日に日本広告審査機構(JARO)に提出した質問状の回答が、8日にメールで届いた。この回答は、同機構の井尻靖事務局長に宛てた質問状に対するもので、2度目の回答である。最初の回答は、不思議なことに、10月27日に博報堂の広報部から届いた。日本広告審査機構に対する質問が、博報堂から届いたのである。

最初の回答は、「井尻は博報堂に在籍する社員であり、お尋ねの件(ご質問の①~⑤)も博報堂の井尻に対するものです。当社では社員に関するご取材、お尋ねにつきましては広報からご回答申しあげることとなっており、本件に関しましても広報よりご回答する次第です」と前置きした上で、アスカコーポレーションとの係争中を理由に拒否してきた。

その後、11月8日になって、今度は日本広告審査機構からメールで回答が届いた。回答者は総務部長の地主正人氏だった。上記①~⑤の博報堂に対する質問項目とは別の同機構に対する質問項目⑥~⑨に対する回答である。ちなみに⑥~⑨の質問項目は次の通りである。

◇質問事項

⑥がれき処理に関連した公共広告の出費額は、広告業界全体でどの程度になっているのでしょうか。

⑦2016年3月10日に、福島民友、福島新報など東北4紙に掲載された公共広告は、7段広告にもかかわらず、15段で請求されています。(この広告は、貴殿が所属されている博報堂の制作になっております)。これも嘘で紛らわしい行為です。貴機構として、この問題を調査される予定はあるのでしょうか。必要であれば、わたしが貴協会に資料を提供します。

⑧2015年度に博報堂が内閣府に提出された請求書を調査したところ、テレビCMの額が不開示になっています。貴機構で金額を把握されているようでしたら、教えてください。また、貴協会として、調査されるのでしょうか。

⑨防衛省から開示された広告業界からの請求書の中に、桁はずれに高額の請求書が含まれていますが、公的な資金から広告業界にどの程度の「税金」が支払われているのかを教えてください。

◇日本広告審査機構

日本広告審査機構の回答は次の通りだった。

黒藪様

時下、益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。

10月24日に当機構あてご送信いただきましたファックスによる
ご質問⑥~⑨につきましてご連絡いたします。

当機構は、広告・表示の適正化を進める民間の自主規制機関であり、ご質問いただいた件につきましては、当機構としては知り得ることではなく、お答えする立場にはありません。

以上、ご理解いただきますようお願いいたします。
            公益社団法人 日本広告審査機構 
                  総務部長 地主正人

◇広告制作に倫理は問われないのか?

広告制作を取り巻く社会的な環境や広告関係者のモラルは、広告制作とは関係がないので、回答しないという考え方のようだ。制作された広告そのものに倫理的な問題がなければ、その広告を制作するプロセスの中で、どのような不適切な行為が行われていようが、関知しないという立場のようだ。

読売ジャイアンツで、野球賭博や覚醒剤の問題が発覚して、同球団は謝罪したが、たとえ広告業界で深刻な不祥事が発生しても、自分たちは広告そのものの審査機構なので、関知しない立場だという主張である。一種の責任の転嫁といえよう。

おなじような見解を持つ組織が放送倫理・番組向上機構(BPO)である。かつてこの団体に対して博報堂事件についての見解を尋ねたことがあるが、取材を拒否した。あげくの果てに、取材を申し込んだ事に対して、週刊金曜日の編集部に電話で抗議するありさまだった。

取材を拒否する自由は保証されてしかるべきだが、公的な問題に対しては、回答するのが世界の常識である。日本の広告関係者は、それをわきまえていない。

電通の過労死問題に見るように、広告業界は外部から強力な外圧がかからない限りは自浄能力がない。メディア黒書で既報したように、放送確認書の代筆や放送確認書の偽造、また視聴率の偽装についても、博報堂とテレビ局はまったく回答しない。広告業協会も問題を事件化しない限りは、解決の糸口がないようだ。