1. 15億円訴訟で博報堂が答弁書を提出、過去データの流用など疑惑に対する具体的な見解を避ける

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2016年10月13日 (木曜日)

15億円訴訟で博報堂が答弁書を提出、過去データの流用など疑惑に対する具体的な見解を避ける

アスカコーポレーションが博報堂に対して、起こした裁判(不当利得返還請求事件)で、11日、博報堂から福岡地裁へ答弁書が提出された。

※両企業の間では、3件の訴訟が起きている。

博報堂(原告)がアスカ(被告)に対して、約6億1000万円の未払金を求めるもの。東京地裁。

 アスカ(原告)が博報堂(被告)に対して約15億3000万円の過払い金の返還を求めるもの。福岡地裁。

アスカ(原告)が博報堂(被告)に対してテレビCMなどの番組提案書の無効を求め、約47億9000万円の返還を求めるもの。福岡地裁。

今回、博報堂の遠藤常二弁護士らから提出されたのは、②の「15億円」訴訟の答弁書である。博報堂がメディアに対して頑なに取材を拒否してきただけに、筆者は、特別な関心をもって書面を読んだ。

◇裁判所の変更を認めず

が、内容を紹介する前に、博報堂が①の訴訟を提起した後の両者の動きを簡単に説明しておこう。①については、原告・被告の双方が何度か書面を提出しており、一応のところ、裁判は前に進んでいる。

しかし、②と③の裁判については、博報堂が法廷を福岡地裁から東京地裁へ移すように求めて2度にわたり移送を申し立てた。しかし、裁判所はそれを認めなかった。

次に博報堂は、②と③の裁判を統合するように申し立てている。これについては、現在、審理されている。

◇博報堂の書面

博報堂が提出した答弁書は、本文が7ページの極めて短いものだ。原告アスカが訴状で提示した15項目に渡る「過剰請求項目」に対する具体的な反論はなく、自社の営業マン清原(仮名)氏と南部社長で、PR業務に対する戦略を取り決めたうえで、南部社長から請求項目の承諾を得ていたから、法的な問題はないという主張である。

また、博報堂が訴訟(①)を起こすに至ったプロセスと見解が記されており、自社の正当性を主張している。筆者は、訴状に対する答弁にしては、焦点が外れている印象を受けた。

◇南部社長の承認はあったのか?

アスカのPR業務を南部社長と清原氏の2人だけで取り決めていたという事実は、メディア黒書でも報じてきた通りである。唯一の違いは、請求項目に対する両者の合意があったか、なかったかという点である。メディア黒書では、アスカ側への取材に基づいて「合意はなかった」と報じてきた。

博報堂の主張を示す部分を、遠藤弁護士が作成した答弁書から引用しておこう。

(略)南部社長との間で、企画提案の段階で見積額を協議し、さらに広告の制作・納品後も最終的な請求費目及び金額について了承を得た後に、各費目を請求していた。したがって、訴状別紙の各費目は、全て被告と南部社長との間の合意に基づいて請求されたものであり、過剰な請求をしたことは一度もない。

(略)(黒薮注:南部社長が)本件広告取引の企画提案から費用の支払いに至るまで、被告との交渉を全て自らが担当していた。さらに、南部社長は、被告営業担当者の清原(仮名)に対し、度々、自分以外に広告取引に関し社内で決裁権を有する者はいないと述べていた。
 したがって、原告が請求金額を争っている本件の広告取引は、全て、南部社長自らが清原と交渉し、同意してきたものである。また、本件の広告取引には、他の原告社員や従業員が関与することもなかった。

◇裁判のキーパーソン

請求額についての合意があったのか、なかったのかが、アスカと博報堂の主張の相違点である。博報堂は、合意があったから、アスカが主張する15項目の「過剰請求項目」は、正当性を欠くと主張しているように見受けられる。

これに対しアスカは合意はなかったとした上で、15項目に渡る「過剰請求項目」の具体的内容を訴状で提示している。こちらの方は、裏付け資料に基づいたものである。

合意があったのか、それともなかったのか。この真実を知っているのは、南部社長と清原氏の2人だけだ。どちらか一方が欠けると、裁判そのものが成立しなくなる。その意味では、両者が裁判のキーパーソンなのである。

アスカ側は、今後、合意がなかった根拠として、見積書を事前に提出するように博報堂に求めた事実などを具体的に主張するものと思われる。

◇訴状に対する答弁にはなっていない

さて、筆者の見解を述べよう。

博報堂・遠藤弁護士の論理は、たとえ業務の内容がデタラメ(たとえば通販誌を制作するプロセスにおける過去データのパクリ)であっても、南部社長がそれに気づかずに、支払いに合意していれば、金銭の返還義務は消滅するというものである。金品をだまし取っても、クライアントが知らずに合意していれば、返還義務はないというものらしい。少なくとも筆者には、そんなふうに解釈した。

事実、今回提出された答弁書の後半で、遠藤弁護士は、①の「6億円」訴訟を持ち出し、アスカの南部社長が支払いに合意していたから、支払い義務があると主張している。しかし、それ以前の問題として、PR業務そのものがどのような実態であったのかを、主張しなければ、訴状に対する答弁にはならない。

業務の内容は、メディア黒書で報じてきた通りである。

◇郵政事件

ちなみに博報堂が不正な方法で仕事を受注させ、クライアントが多額の出費を行うに至った典型的な事件としては、郵政事件がある。

周知のように2007年、小泉構造改革の象徴として郵政が民営化された。
郵政公社を4社に分割したのである。さらにこれら4社の持ち株会社・日本郵政が誕生した。

この時期、博報堂は日本郵政に対して裏工作を行い、郵政4社のPR業務を独占する権利を得た。裏工作とは、接待の繰り返しである。接待を受けたのは、C(秘書、後の次長)だった。接待の内容までは分かっていないが、総務省の報告書によると、これにより博報堂は郵政グループと大掛かりな取引をはじめる。

その結果、次のような実態が生まれた。

「博報堂には民営化後の平成19年度の同グループの広告宣伝費約192億円(公社から承継された契約に係る部分を含む)のうち約154億円(全体の約80%)が、平成20年度の同247億円のうち約223億円(同約90%)が各支払われている」(『日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書の「別添」・検証総括報告書』、2010年)【博報堂関連の記述は29ページから】

このような実態について、博報堂に再就職(広義の天下り)している元最高検察庁の松田昇氏の見解も知りたいところだ。検察は、正義を追求する組織であるからだ。

【参考記事】元最高検察庁刑事部長の松田昇氏の再就職先、博報堂DYホールディングスだけではなく、3月から読売巨人軍にも、官民汚職の温床に