1. 広告代理店の職能比較、CPO(1顧客獲得あたりの費用)は電通と東急が7万円、博報堂は150万円

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2016年08月31日 (水曜日)

広告代理店の職能比較、CPO(1顧客獲得あたりの費用)は電通と東急が7万円、博報堂は150万円

数値は、職能を客観的に測定する目安である。米国大リーグのピート・ローズ選手の持つ通算最多安打記録・4256安打を超えたイチロー選手の打率が常に高かったように、数値は職能レベルを如実に反映する。

読者は、CPO(コスト・パー・オーダー)とは何かをご存じだろうか。これは新規の顧客一人を獲得するために費やした販促費用のことである。CPOの金額が低ければ、低いほど、効率的に新規の顧客を獲得していることになる。逆に金額が高ければ、高いほど販促費の規模に見合った顧客獲得が出来ていないことを意味する。

大手広告代理店の職能も、このCPOで客観的に測定できる。次に示すのは、アスカコーポレーションが公表している博報堂のCPOである。

2009年   220,876円
2010年   240,643円
2011年   220,019円
2012年   432,065円
2013年   922,760円
2014年 1,139,010円
2015年 1,538,897円

2009年以前は、非公式の数字だが7万円程度だったという。当時、アスカのPR業務を担当していたのは、東急エイジェンシーと電通だった。博報堂がPR業務に参入し、東急と電通を撤退させ、アスカのPR業務を独占した後、CPOは急降下したのである。それが数字で表れている。

2009年度は、1人の顧客を獲得するのに22万円を要したことになる。それが2015年には、154万円になっている。これでは、顧客1人を獲得するために、自動車を1台プレゼントするようなものだ。

◇博報堂の戦略

博報堂が東急エージェンシーと電通を撤退させ、アスカのPR業務を独占するようになった経緯については、ビジネスジャーナルに掲載されたアスカの南部昭行社長のインタビューに詳しい。南部社長は次のように述べている。

以前は当社のメインの広告代理店は東急エージェンシーさんでしたが、電波メディアでは東急さんに若干の弱さを感じていました。そんな時に電通さんが入ってきたのですが、電通さん1社では言い値で請求されると思ったのです。そこで、博報堂さんの九州支社を入れてコンペ形式で発注するようにしたのです。そして東京本社のアカウント・ディレクター(課長待遇)のAさんが紹介されました。最初は気が小さく自分の意志を表に出すことのないようなタイプで、東急さんや電通さんなどとの代理店会議で質問を求めても、発言するようなタイプではありませんでした。

 当社は当時、主力の広告は情報誌でしたが、これを東急さんがメインで担当し、電通さんとも健康食品の情報誌を出していました。博報堂さんはこれに自分たちもかかわらせてほしいと言ってきたのです。この情報誌には新商品の情報がいち早く掲載されるので、広告代理店としてはどうしてもやりたかったのでしょう。そこで「貴社が得意なものがあればいいですよ」と言ったのです。

 すると向こうから「タレントを使って商品の紹介ができます」という話がありました。うちとしては「ヤラセは困るから、事前に商品を送ってきちんと使ってもらってコメントをもらってくださいね」とお願いしたわけです。

 その後、博報堂さんは「電通さんに発注している健康食品の情報誌も、自分たちにやらしてほしい。受注できなくてもいいから、一度コンペをやらしてほしい」と言ってきました。そこまで言われたのでコンペをしましたが、とても採用できるような内容ではなかったので却下したのですが、その後なんの事前の連絡もないのに、却下したプレゼンテーションの費用を請求されたのです。

 最近調べてわかったのですが、「ひっかけられた」という感じです。何も知らないままプレゼンをして、むしろ情報誌のつくり方を教えたのは当社のほうで、逆にコンサルタント料をもらいたいくらいです。そうしたことが、長い取引の中で積みあがっていったのです。

◇10桁CMコードの不在件数

さて、再びCPOに言及しよう。2013年度から2015年までのCPOは次に示すように極端に高額だ。

2013年   922,760円
2014年 1,139,010円
2015年 1,538,897円

東急エィジェンシーと電通の時代の7万円を正常な金額とすれば、13倍から22倍になる。単に博報堂の職能に問題があったというだけでは、説明がつかない。

幸いにCPOの悪化と表裏関係にあるデータが残っている。それは「間引き」が疑われているCM件数の年度別変遷データである。

次に示すエクセルデータは、10桁CMコードが付番されていないCM本数を調査した結果である。

■10桁CMコードの不在件数(放送局別・年度別)

2013年から2015年に集中していることが分かる。

10桁CMコードがCMに付番されていない事実について、博報堂の遠藤常二弁護士は、「準備書面2」(原告・博報堂)の中で、「それぞれの作成者の記載ミスと考えられてもCM放送の実施の有無とは無関係である」と書いているが、CMの10桁コードを付番するのは常識であり、さもなければコンピューターでCMの管理をすることもできない。

銀行口座やクレジットカードに番号がなければ、コンピューターで管理できないのと同じ原理である。

従ってCMコードがないものは、原則として放送されていないと考えるのが常識なのである。

CMが「間引き」されていたからこそ、それに連動してCPOも悪化したと考えるのが自然である。

ちなみに10桁CMコードとCMの関係については、次のサイトを参考にしてほしい。10桁CMコードをCMに付番する作業は、現在の広告業界の中では、常識中の常識なのである。

■営業放送システム

現に、電通も東急エージェンシーも、さらにADKも、筆者の取材に対して、衛星放送で流されるCMについても、10桁CMコードは使っていると回答している。

◇放送確認書の偽造事件も2015年

また、メディア黒書で繰り返し報じてきたように、放送確認書の偽造疑惑事件も2015年に起きている。これについては、次の記事に参考にされたい。単純な事件である。

チャンネルMnetに質問状、放送確認書の偽造疑惑について

◇CM「間引き」がCPOを極端に押し上げた要因

CM以外についても、不正な業務がないかを検証してみる必要がある。しかし、アスカの場合、CM(通販番組も含む)に投じた資金が最も大きいので、CMに投じた費用とCM「間引き」がCPOを極端に押し上げた重要な要因と推測するが妥当だろう。

CPOを大きくしたCM費用以外の要因としては、たとえば情報誌の制作に関連した業務も見過ごせない。これについては、次の記事を参照にしてほしい。

博報堂による「過去データ」流用問題、編集の実態、アスカ側は情報誌のページ制作費だけで7億円の過剰請求を主張

タレント料の高騰も尋常ではない。次の記事である。

博報堂によるタレント料の請求、08年の平均約41万円から11年は約71万円へ急騰、「博報堂VSアスカ」の裁判

また、東急エージェンシーと電通をアスカから撤退させる戦略として、博報堂の営業マンは、トリッキーな手段を使っている。京都きもの友禅と旅行代理店H.I.の広告を、これら両企業の承諾を受けず無断でアスカの通販情報誌に掲載したのだ。営業マンとしての職能をPRしようとしたのだろう。これについて次の記事に詳しい。

博報堂の広告マンに電通も歯が立たずに撤退、京都きもの友禅とHISを巻き込んだ奇妙な「広告事件」