1. 同時代を認識する困難、新聞・テレビの誤った歴史観

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2020年12月31日 (木曜日)

同時代を認識する困難、新聞・テレビの誤った歴史観

現代社会に生きている人々は、恐らくひとりの例外もなく、江戸時代が露骨な階級社会であった事実に異論を唱えないだろう。しかし、タイムマシンに乗り、200年前の世界へタイムスリップして、江戸の住民たちに対して、

「あなたはいま自分が残忍な階級社会に生きているという認識を持っていますか?」

と尋ねたら、だれも不可解な表情を浮かべるだろう。

だれ一人として、自分たちが武士に支配された理不尽な階級社会に生きているという認識は持っていないだろう。そのような意識が広範囲に存在すれば、江戸の社会制度は崩壊へ向かう。治安が維持できなくなる。

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人間の意識や感覚は、動物に共通した生理反応による脳の分泌物ではなく、その時代の経済制度に連動したプロパガンダを基盤として形成される。広義の社会教育の結果にほかならない。意識の形成には、唯物論が主張する「存在が意識を決定」する原理が働く。

我々が江戸時代の階級制度の非人間性を認識できるのは、現代社会で養われた知識と意識をフィルターとして、歴史を再検証するからにほかならない。現代に比べて、江戸時代は理不尽な社会という評価になる。

江戸時代の人々は、武士や天皇を尊ぶべきだという社会通念を持っていた。そんな思想が支配的だった。

それに加えて、社会科学も未発達の時代であったから、自分たちが階級社会に生きている人間であるという認識もなかったはずだ。感覚の鋭い人が、漠然と不平等な社会の実態を感じることはあっても、それを社会科学の視点から認識することはできなかった。階級社会から生まれる価値観を空気のように受け入れていたと推測される。

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実は、同じ原理が現代社会でも働いている。現代に生きている人々の大半は、自分たちが労働力の搾取を前提とした階級社会に生きているという認識を持っていない。江戸時代の階級社会についてはその非人間的な本質を認識できても、現代社会が封建制度の没落に代わって生まれた別のタイプの階級社会であることには気づいていないはずだ。

その結果、自分たちは自由主義の幸福な時代に生きていると勘違いしている。

しかし、これから先の100年後、あるいは200年後に生まれてくる未来の人々は、歴史を学ぶときに、20世紀から21世紀にかけて存在した時代を、公然とした搾取が横行していた階級社会として認識するはずだ。そしてこう呟くだろ。

「自分はあんな不幸な時代に生まれなくてよかった」

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同時代をタイムリーに認識する作業は容易でない。人間の意識の根源が社会そのものの中にあり、しかも、公権力のよる洗脳や世論誘導の影響で、時代に迎合した意識が形成されるからだ。

その結果、外国人の技能研修生を使って新聞を配達させ、莫大な利益をあげる仕組みを構築しても、それがいかに非人間的な行為なのかに気づかない。外国人の救済だと勘違いする。【続きはウエブマガジン】